夏目くんを慰める会
「――――でね、うち、おごられるの嫌いなのにファミレスでおごってくるし、二、三回しか会ったことないくせに、『俺のことどう思っている?』とか訊いてくるのよ」
えんえんと続く夏目くんの悪口。
要するに、松美ちゃんはぐいぐい来る男に露骨に性的対象に見られて嫌だったのだろう。
「生理的に無理ってことねー」
私の言葉に松美ちゃんは頷いた。
「そういうこと。せっかくコウミちゃんが紹介してくれたのに、ごめんねー」
「いや……こっちこそごめん」
私は頭を掻きつつ謝った。次からは友達に夏目くんを紹介するのをやめよう。
そういやみちも夏目くん嫌いだったなあ。みちの場合は川辺くんも嫌っているけれど。
「でもね、夏目くんだけじゃないの。うちの父親もこの前ちょっと色々あって。そのせいで男嫌いになっちゃった。だから夏目くんには『しばらく男の子に会いたくない』って言ったわ」
「そっかあ」
***
二週間後。
「なあ。そろそろ連絡してもいいと思う?」
塾の前で待ち伏せしていた夏目くんに尋ねられて、私は溜息を吐く。
「なんでここにいるん?」
「望月さんに二人で会おうっつっても田宮くんの手前会おうとしないだろうから、待ち伏せてみた」
高校の同級生だったら怖いけど、まあ家が近所だし、中学時代からの距離感だからいいや。
「とりあえず、バーガーキング行く?」
こういう時に、マックを選択しないところが、高校生の分際でおしゃれで嫌いだ。
***
完全に予定外の出費でお茶だけ注文する。
「いやー、ごめんなー」
夏目くんは申し訳程度に謝る。私はいいよ、と笑った。
だが内心はらはらしっぱなしだった。
私の家は厳しい。きちんとした門限は決められていないが、遊ぶたびに報告しなければいけないし、遊ぶ量が多すぎても怒られる。
多分、塾の帰りに寄り道は、親は許さないだろう。
三十分喋るくらいなら、誤魔化せるか……?
「で、用件は何?」
私が尋ねると、夏目くんは告げた。
「あのさー、松美のことだけど」
「だいたい聞いた」
「じゃあ話は早い。『男にしばらく会いたくない』って言われて俺は『待ってる』って返したのよ」
「うん」
「そろそろ連絡していいかなー」
「駄目に決まってるでしょ!」
私は叫んだ。
「いい? 夏目くんは振られてるの! しばらくして松美ちゃんの男嫌いが治ったら向こうから連絡があって友達には戻れるかもしれない。でも、向こうはそもそも恋愛対象に見られたくないんだし、待っていても無駄だから。彼女作れよ!」
「でも、はいそうですか、って未練断ち切れないだろ」
「私が紹介するときに、付き合う前提で紹介したことは謝る。ごめん。君は悪くない」
「向こうはただ、友達が欲しかっただけなんだろ。わかってるよ。俺、頭いいから」
夏目くんは溜息を吐いた。
「つまり、俺があの子を追い詰めちゃったんだよ」
「私が勝手に盛り上がっただけだから。君は私に頼まれて会っただけだから」
慌てて言っても夏目くんは落ち込んだままだった。
「俺さー。あの子のために予定を開けようとして、何度も学校の友達にドタキャンして、気まずくなっているんだよね。いや、松美のせいではないけど」
「うん」
両方失ったわけか……。
「ほんと、俺は俺なりにがんばってんのになあ」
私は何と言えばよいかわからなかった。
「まあ、ごめん」
私は謝った。
「望月さんを責めたりしないよ。だって望月さんもがんばってたじゃん」
「でも、傷つけたから」
「いいよ、それは。俺の問題だから。……田宮くんとの仲はどう?」
夏目くんは笑って話題を変えようとした。
「ええと……なんか素っ気ない。付き合ってから。友達のときのほうが愛想よかったかも」
「それは友達の距離感の方がちょうどいい相手ってことなんじゃないの?」
「わかんない……。でも、相手が私のことをどう思っているかもわからない」
「不安だと?」
「うん。訊いてみよっかな。私のことどう思っているって」
「……お前ホント無神経だな」
あ、夏目くんは『俺のことどう思っている?』って訊いてドン引きされて振られたんだっけ。




