恋バナをする話
今日は笹塚ちゃんと二人でマックに来ています。
「あー。現代社会だるいー」ぷしゃー、と机の上に可愛らしく潰れる笹塚ちゃん。
「そう? 私は楽しいけど」
言ってから、空気の読めない発言だったな、と思った。こういうときは同調するべきなのだ。
「そういえばさー。コウミは好きな子いるー?」
「え? いないけど……」
私はとりあえず嘘を吐く。
「ウチのクラスにカッコいいと思う子は?」
「えー? いないなあ。強いて言うなら染川くんかな」
私は本気でそう答える。だって男子って髭とか生えているし、どこか汚い。ジャニーズでさえ手放しで格好いいとは思えない。
「染川はあたしも格好いいと思うよ!」
笹塚ちゃんはにこにことポテトをつまむ。
「えーと、笹塚ちゃんは好きな子、いるの?」
田宮くんではありませんように、と願いながら尋ねる。
「いるよー」
はにかむように笑いながら答える笹塚ちゃんに、私は追及する。
「へ、へえ。……誰?」
「内緒ー」
がくっと私は体勢を崩した。
「いや、でも、これから好きな子が被るかもしれないし、一応……」
「だってコウミ、ウチのクラスに格好いい子がいないって言っていたもん。被らないと思うよー」
「じゃあ、ウチのクラスの格好いい子が好きなの?」
私の言葉に、笹塚ちゃんは若干気まずそうに答えた。
「ええとー。あたしは、格好いいと思うよー」
あたしは、を若干強調して言う笹塚ちゃんに、私の脳裏に危険信号が走った。
世間的に見れば格好悪くて、ウチのクラスで笹塚ちゃんと仲のいい男子は……。
とりあえず、今は私の好きな子は絶対言ってはいけない。笹塚ちゃんの好きな人は田宮くん? なんて冗談でも訊いちゃいけない。
お互い、気が付いていないふりをしなければいけない。
今、言ってしまえば、対立するか、どちらかが譲るか、同時に告白しようぜってことになる。
どれになっても嫌だ!
「まあ、好きな子以前に私はモテないからねー」
私は話題をちょっとずらす。
「そう? 男子とよく話していると思うけど……」
笹塚ちゃんの言葉に私は曖昧に首を傾げた。
田宮くん繋がりで男友達が数人出来たのは事実だ。今まで描写はしていなかったけど、そこそこ男子とお喋りに興じている。
でも、その男子にとって私は完全なる友達だろう。
だって『俺、女子って怖いから嫌いなんだけど、望月さんとなら喋れる』と面と向かって言われたし。
というかむしろ、『友達として話すくらいならいいけど、恋愛はちょっと……』感が見え透いている。
「笹塚ちゃんのほうがモテるじゃない」
私の言葉に笹塚ちゃんは首を横に振った。
「モテないモテない」
くそー。この爽やかな応対がモテる秘訣ですか。
「絶対笹塚ちゃんモテるよー。笹塚ちゃんのことを狙っている男子を五人くらい挙げようか?」
「いや、いい」
わりと本気の口調で拒否された。多分、今年入って五人以上に告白されているな、この子。
「あ、そうそう! 最近表参道で人気のカップケーキ屋さんって知っている?」
そろそろ笹塚ちゃんがこの話題に飽きてきたころだと思ったので、私は話題を変えた。
「あー! 名前忘れちゃったけど、美味しそうだよねー!!」
そんな風に和やかに会話して、一時間くらい経ったら家に帰ることにした。
***
家に帰る前に、みちの家に寄った。
私は今日のことを中学時代からの友達、みちに報告する。
口が軽いと思うかもしれないが、今日の笹塚ちゃんの言動は、私には意図を汲みきれない。
口の堅い彼女に相談するのが吉だと思った。
「笹塚ちゃん、可愛くて元気でほわほわしているようでいて、気が強いわねー」
みちの言葉に私は首を傾げる。
「どうして?」
「もし、笹塚ちゃんが田宮くんのことを好きだと仮定した場合ね。
笹塚ちゃんからしたら、コウミは田宮くんと仲よさげに見えるわけよ。
それで、コウミの情報をゲットしてなおかつ牽制するために、好きな人を訊いてきたんじゃない?」
「あー」
そうなんだ。
「あたしはその場にいないからわからないけれどね! でも、彼女も誤算だったわねー。コウミが好きな子を教えなくて、結局、自分の好きな子が存在するという情報だけ渡しちゃったんだもの。
しかも、笹塚ちゃんが『田宮くんのことが好き』って言っておけばコウミのほうも、田宮くんが好きと言わなくちゃいけなかったけど、そんなこともなかったし。
気は強いけど、ものすごく爽やかなのね、彼女。駆け引き向いてないわ」
「そうだねー。そういうところも魅力的なんじゃないかな? リア充グループに入っているけど、言動はDQNじゃなくて、むしろ育ちが良さそうだもん」
私の言葉に、みちは笑った。
「コウミも純粋よねー」
私の純粋なところは、正直短所にもなり得るけど。
私は苦笑いを返すのみだった。
***
翌日。
「図書委員のおすすめの一冊ポップ、制作したか?」
田宮くんに尋ねられて、私は頷く。
「うん。今日が締切だったから」
「俺、忘れたんだよー」
田宮くんの言葉に、私は首を傾げつつ答える。
「来週でもいいんじゃない? だって文化祭までに全員分あればいいんでしょ」
「そうかなあ。そうする」
田宮くんは珍しくちょっと落ち込んだ様子だった。
「まあ、忘れ物くらい誰だってするよ。私だってするし」
「いやー。三日前にポップを提出すればいいかな、と思っていたのだが、三日連続で忘れたんだ……」
今まで相当優等生だったのだろう。それくらい、私ならよくあることだ。
「私なんて小学生の時にランドセルを忘れて登校していたよ!」
田宮くんはちょっと笑って返した。
「背中も軽いな」
背中『も』ってなんだろう。遠まわしに頭が軽いと言われたのかな。




