後編
待ちに待った日が来た。
昨夜は襲撃を警戒して、眠れなかった。
隈ができてひどい顔だろう。
クルーズ船スタッフにここで下船し、旅行は中止すると告げた。
身内に不幸があったと嘘をついて。
昨日から嘘ばかりついている。
今日の嘘は、隈の効果もあって、お悔みまで言われた。
無事、船から降りられて、その場で脱力した。
助かった......。
オプショナルツアーに向かう人たちが、バスに乗り込んでいくのが見えた。
楽しそう。
あの中にゾンビはいるのかな?
「もうゾンビはいないよ。私が片付けた。」
いつの間にか、あの吸血鬼が日傘をさして立っていた。
私は固まった。
十字架もニンニクも効かない?
「個性的なTシャツだね。
十字架はね、確たる宗教心がないとダメなんだ。
宗教心、持っている?」
いいえ、持っていません。
「それと、そのニンニク、ものすごく臭いよ。
私じゃなくても皆嫌がると思う。」
いいんです。皆に嫌われても、命さえあれば。
「流れる水や日光が苦手なんじゃ......」
「荷物に故郷の土を入れた棺を紛れ込ませた。
他にもこの方法でうまくいった奴がいたからね。
それにこの日傘、遮光率がすごく高くてね。
昼でも問題なしだよ。」
そうですか。よかったですね。
「ところで何の御用ですか?」
「ゾンビの顛末を知りたいんじゃないかと思って。
あの戦い、すごくよかったよ。
危なかったら、助けようかと思ったけれど、私の出番はなかったね。
モップ、最高!」
見てたのか。助けもせずに。
「花火の晩の女性は?」
「大丈夫。ちょっとだけ献血してもらって、記憶を消したから何も覚えていないよ。」
「いろいろと教えてくださって、ありがとうございました。
では、さようなら。」
とにかく吸血鬼から離れよう。
「そのニンニクだけは、はずしたほうがいいよー。」
という声を振り切って、タクシー乗り場へ急いだ。
近くの駅から新幹線に乗ってなんとか自宅に帰り、死んだように眠った。
旅行を中止してすることもなくなった休日、健康診断に行くことにした。
命大事、健康も大事。
つくづくそう思う。
何度やっても採血は苦手だ。
血を見るのがダメなので、最初からずっと目をつぶっている。
「はい、終わりです。」
なんか聞いたような声がする。
恐る恐る目を開けた。
げげっ!
吸血鬼がいた。
何で?
「看護師の募集があったので、応募してみたんですよ。
人手不足なのか、すぐ採用してもらえて、ラッキーでした。
意外と近くだったんですね。
今後ともどうぞよろしく。」
履歴書とか面接、どう誤魔化したの?
チャームとか、吸血鬼の力を使った?
「僕の魅力ですかね?」
今後ともってどういうこと?
乗船名簿で住所を調べたのね。
こうなったら転居と転職を考えなくちゃダメかしら?
......忙しくなりそうだ。




