第四十三話:枠の外で残すもの
朝、若者は申請書を机に置いた。
白紙のまま。
優先通行は続いている。
制度参加区間は速い。
南側第三は、一拍遅い。
依頼は減っている。
利益も落ちたまま。
「出しませんか」
若者が言う。
紙は軽い。
提出すれば終わる。
俺は首を振る。
「出さない」
若者は黙る。
「理由を書けないからですか」
「違う」
火を見る。
弱い。
揺れていない。
「理由は書ける」
「三割の意味も書ける」
「順番も書ける」
若者が顔を上げる。
「なら、なぜ」
少し間を置く。
「枠に入ると、枠を守る仕事になる」
沈黙。
制度は整っている。
守れば評価される。
逸脱すれば減点。
楽だ。
明確だ。
「ここは、揺れる区間だ」
俺は言う。
「雨が来れば増やす」
「晴れが続けば減らす」
「急ぎが重なれば断る」
「その順番を、その日に決める」
若者はうなずく。
「固定すると、揺れなくなります」
「そうだ」
外で旗が振られる。
制度参加区間が先行する。
南側第三は待つ。
遅れは小さい。
だが確実。
若者が帳簿を閉じる。
「損ですね」
「そうだ」
はっきり言う。
「利益も、評価も、遅れる」
若者は苦笑する。
「それでも」
火を見る。
「守りたい順番は、残る」
うなずく。
制度は悪くない。
街道は整う。
新商会は速い。
北側も安定している。
枠は街道を強くする。
「だが、枠の外に余白が残る」
若者はその一文を、紙の裏に書いた。
提出はしない。
裏に残す。
会議で発表する。
「南側第三は、試行参加を見送ります」
ざわめきが起きる。
管理局の使いが言う。
「理由は」
若者が答える。
「揺れるためです」
笑いが漏れる。
代表は黙っている。
街道は止まらない。
速さは制度に集まり、
余白は外に残る。
帳簿を閉じる。
――制度参加:なし
――優先通行:なし
――停止:なし
火は弱い。
揺れている。
それでいい。




