第三十八話:速さの値段
雨が止んだ朝、街道は静かだった。
完全停止は一度もなかった。
新商会の倉庫は忙しいまま。
人員は増え、馬車も増えた。
数字は保たれている。
――事故:多数(軽微)
――遅延:解消中
――利益:圧縮
代表が会議で言う。
「想定内です」
声は落ち着いている。
「吸収できる範囲です」
資本は機能した。
街道は止まらなかった。
北側は余白を二割に戻した。
東側は混合を維持。
若者の区間は三割。
利益は落ちたまま。
評価も変わらない。
それでも流れは整っている。
若者が帳簿を見る。
「速さは、やっぱり強いですね」
俺はうなずく。
「余白は?」
「遅いです」
少し考える。
「速さは拡大する」
「余白は残る」
若者は火を見る。
新商会の火は強い。
揺れは小さい。
南側の火は弱い。
熱は安定している。
代表がこちらを見る。
「次は晴天が続きます」
自信が戻っている。
「さらに伸ばせます」
若者が小さくつぶやく。
「削りますか」
帳簿の余白欄を見つめる。
三割。
戻した数字。
しばらく沈黙が続く。
「削らない」
若者は言った。
理由は口にしない。
火を見れば分かる。
強い火は遠くまで届く。
弱い火は長く持つ。
街道は速くなった。
止まっていない。
事故も管理されている。
速さは勝っている。
それでも、
余白を消す者はいなかった。
帳簿を閉じる。
――速さ:拡張
――余白:存続
――街道:継続
勝敗はつかない。
設計が違うだけだ。
火はそれぞれの区間で燃えている。
誰のものか。
もう答えは一つではない。




