第三十六話:同時発生
最初の報告は、小さかった。
東側で軽微な接触。
「問題ありません」
すぐに処理された。
その半刻後。
北側で荷崩れ。
「余白一割では吸収できませんでした」
管理人が低く言う。
同じ日の夕刻。
新商会で車輪の破損。
「予備を回します」
代表は落ち着いている。
資本は強い。
人員を回し、
遅延を最小に抑える。
――事故:三件(軽微)
――遅延:小
――全体停止:なし
止まってはいない。
だが、
三件が同時だ。
若者が帳簿を見つめる。
「偶然ですか」
「そうかもしれない」
だが確率は重なる。
余白を削った区間で、
連鎖が起きやすくなる。
新商会は吸収する。
北側は息が荒い。
東側は火を弱め始めた。
若者の区間。
余白二割。
午後、急ぎが重なる。
「受けますか」
使いが聞く。
若者は計算する。
入る。
まだ入る。
「……受けます」
火が強まる。
その瞬間、
遠くで雷鳴。
天候が崩れ始める。
雨は予測されていた。
だが、
強い。
夜。
道路がぬかるむ。
馬車が滑る。
新商会の一隊が立ち往生。
「予備を回せ」
代表が指示する。
だが、
予備も動きづらい。
北側も、
東側も、
南側も。
雨は区間を選ばない。
――事故:増加傾向
――遅延:拡大
――吸収率:低下
若者の区間で、
受けた急ぎが詰まる。
余白二割。
吸収できるはずだった。
だが同時発生は、
計算を狂わせる。
若者の顔色が変わる。
「……足りません」
資本は強い。
同時に起きれば薄まる。
余白は遅い。
分散していれば耐える。
火が揺れる。
今度は、小さくない。
新商会の代表が言う。
「想定外の集中です」
声は冷静だが、
硬い。
街道は止まっていない。
だが、
速さは落ち始めている。
若者が小さくつぶやく。
「確率は、同時に来ることもあるんですね」
うなずく。
「確率は敵じゃない」
「味方でもない」
雨は強まる。
火は揺れている。
まだ崩れてはいない。
それでも、熱は不安定だ。




