第三十話:一件だけの重さ
急ぎを一件受けた翌朝、
若者は早く倉庫に来ていた。
帳簿を開いている。
余白は二割。
数字は悪くない。
利益も少し戻っている。
「問題は起きていません」
若者が言う。
「今はな」
俺は答える。
午前中は静かだった。
火は少しだけ強い。
揺れてはいない。
昼過ぎ、使いが来る。
「昨日の件、助かりました」
笑顔だ。
「今日も一件、お願いできますか」
若者の指が止まる。
余白は二割。
計算すれば、入る。
「一件だけなら」
言葉が出る前に、若者は帳簿を見つめる。
三割だったはずだ。
今は二割。
「……内容は」
条件を聞く。
距離は短い。
荷は軽い。
急ぎだが無理ではない。
「一件だけなら」
また同じ言葉が浮かぶ。
俺は何も言わない。
区間は若者のものだ。
「受けます」
静かに答える。
火がもう一段強くなる。
夜。
――急ぎ受理:二件
――余白:一割
――利益:回復
数字はきれいだ。
若者は少し笑う。
「問題ありません」
だが、呼吸は浅い。
翌朝。
荷が遅れて到着した。
予定より半刻遅い。
余白は一割。
吸収できる。
だが、次の荷が重なる。
若者の額に汗が浮かぶ。
「……詰まります」
小さく言う。
余白は、時間だ。
時間がなくなると、
判断が早くなる。
早い判断は、
雑になる。
若者は急ぎの一件を、
次に回すことを考える。
だが、昨日受けたばかりだ。
断りづらい。
「一件だけ」
その言葉が、
重く響く。
一件だけ。
一件だけ。
それが二件になった。
「戻せますか」
若者が聞く。
「何を」
「余白を」
少し考える。
「受けた分は戻らない」
若者は唇を噛む。
火は揺れ始めている。
強い火は、
少しの遅れに敏感だ。
夜。
――急ぎ受理:二件
――遅延:軽微
――余白:一割
数字はまだ崩れていない。
だが、
余裕は消えている。
若者がぽつりと言う。
「最初の一件が、
軽すぎました」
軽く見えた。
だから受けた。
だが軽さは、
連鎖する。
火はまだ燃えている。
だが、
空気は少し熱い。




