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旅する竜  作者: 山鳥月弓
歩き出した三人
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野盗

「どうするの? 飛ぶ? なんだか飛ぶのもだるいわ……」

 冒険者として初めての仕事の帰り、僕達は皇都への道を歩いていた。

「歩いてちゃ日がある内に着けないぜ。それに歩く方が疲れないか?」

「私はどっちも疲れるわ」

「同じなら飛ぼう」

 アスラは板を背嚢から取り外し、それに乗ると、空高く飛ぶ。

 秋の空は気持ちが良さそうだった。

 僕も後を追って飛ぼうとすると、アスラを見上げながらヴェルが言う。

「元気ねぇ……」

 ヴェルがお婆さんのような事を言うので僕は少し笑ってしまう。

「なによ。なにが可笑しいの?」

「いや、なんだか年寄りみたいなことを言うから……」

 ヴェルは顔を赤くして僕を睨んだ。


「おい、大変だ」

 アスラが急降下してきたかと思うと血相を変えて早口で捲し立てる。

「野盗だ。たぶん先刻の村の、収穫したばかりの梨を狙っているんだと思う。ざっと見ただけでも二十人くらいはいた。弓を持ってたから、多分、火を掛けて、騒ぎを大きくしてから盗みに入るつもりだ」

 アスラの言葉にヴェルも目を丸くして驚いている。

「どうするの?」

 アスラを見ながらヴェルが訊く。

「どうする?」

 アスラは僕を見る。


「え? 捕まえるんじゃないの?」

「捕まえるって、こっちは三人しかいないのよ?」

「村の人達もいるよ?」

 役に立つのかは知らないけれど。

「……俺も捕まえるのに賛成だ。ヴェルは嫌なら、このまま帰って良いぞ」

「嫌だなんて言ってないじゃない。出来るのか訊いているだけよ」

「多分、出来る」

 アスラの自信はどこから来るのか知らないけれど、僕も同意見だった。


 作戦らしい作戦はなかった。

 アスラがヴェルへ指示を出す。ヴェルは真剣な顔で聞いていた。

「ヴェルは村へ行って、村を守れ。とにかく矢が飛んできたら、風でも火炎でも良いから、打ち落せ。矢には火が着いているはずだ。火が着いていないのは無視しても構わない。とにかく家や納屋に火を着けさせるな」

「判ったわ」

「それと、村の人に、近くの警邏の詰所へ行って知らせるように言ってくれ」

「うん。そうする。それじゃ行ってくるね」

 アスラの指示はそれだけだった。ヴェルは村へと駆け出していった。


「え? こっちから先制しちゃ駄目なの?」

 僕が直ぐに捕まえようと言うとアスラから止められてしまった。

「駄目だ。相手がただ森の中を歩いていただけだと言われたら、こっちが悪者になっちまう。俺達はただの冒険者だからな、下手をするとこっちが捕まっちまう」

 野盗が矢を放つまでは待つしか無いらしい。

「奴等が矢を放ったら、雷光でかたっぱしから気絶させていこう。たぶん殺してしまっても罪には問われないはずだ」

「……」

「どうした?」

「面倒なんだね。全員殺しちゃった方が楽じゃない?」

「……ラプはたまに怖いことを言うな」

 それ程怖い事を言ったつもりはないのだけれど、僕は人から見ても冷酷らしい。


 夜になるのを待つが、まだ夕焼け空で、飛んでしまっては野盗に見付かってしまうだろう。

「早く暗くならないかなぁ」

 僕がそう言うと、アスラが笑う。

「ラプの方が野盗みたいだな」

「僕は人の物を奪おうなんて思わないよ」

「そうだな。良かったよ、ラプが善人で」

 これは褒められているのだろうか? 違うような気もするが、まあ気にしないことにしよう。


「そろそろかな」

 アスラはそう言うと立ち上がった。

 やっと空が暗くなり、飛んだとしても簡単には見付からない程の暗闇になっていた。

 なるべく早めに飛んで警戒しなければ、村へ火を付けられてからでは守ったことにはならないだろう。

「それじゃ飛ぼう。俺は村へ飛ぶ矢を打ち落とすことに集中するから、ラプは野盗を倒してくれ」

「うん。判った」

 僕は見付からないように、なるべく高く飛び、下の様子を伺う。

 アスラは野盗と村の中間地点辺りで止まったようだ。

 野盗達は確かに二十一人を確認できた。

 人であれば見えないくらいの暗闇だろうけれど、僕にはちゃんと見えている。


 空の上で少し待っていると、野盗達が村へとゆっくり近付き出す。

 そろそろ始まるようだ。

 そう言えば、人を気絶させるくらいの雷光というのは、まだ撃ったことがない。まあ良いか。アスラは殺しても罪にはならないと言っていたし。

 そう思っていると野盗達が矢に火を灯し出した。

 いよいよだ。


 最初は三人がほぼ同時に矢を放つ。

 それを見てから、僕は急降下して一番近くの野盗達へと雷光を落とした。

 雷光が当たったのは三人。三人共に「ぱたん」と倒れてしまった。まるで木の人形のようだ。火炎塊だと「ぐぁ」とか言うのだけれど。

 殺してしまっただろうか?

 弱めに撃ったはずだけれど、ここからでは死んでいるかは判らない。


 僕に気付いた野盗達は口々に「うぁ」とか「なんだありゃ」などと言っている。

 半分くらいは逃げ出していた。

 続けて雷光を落とす。今度は二人が「ぱたん」と倒れた。なんだか雷光は倒した気にならない。

「こっちは良い。ラプは逃げた奴から倒してくれ」

 アスラがこちらへと飛んで来ている。弓を持っていた奴がアスラへと矢を放つが、風魔法で落とし、続けて雷光でそいつらを倒す。

 僕も負けてはいられない。逃げた奴等へと飛んだ。

 なんだか楽しいぞ。


 その後、順調に野盗達を倒して行き、あっという間に戦闘は終わってしまった。

 最終的には十八人を捕まえたが、数人は逃してしまったようだ。僕は初めから逃げる奴を重点的に倒すべきだったのだろう。

 村の人から縄を貰い、野盗達を縛り上げていったのだけれど、逃げ出した奴等は、あちこちにちらばってしまっていて、そいつらを探す方が疲れてしまった。

 その日は村へ泊まらせてもらうことができたが、警邏隊が到着する頃には僕達三人は眠ってしまっていた。

 僕がこれまでに経験した一日で、一番疲れた日だと思う。


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