82話 《盾》。その火種を消しに行く
国は手紙に出した内容の様に落ち着いては居ません。隠しているだけです
その報告が来た時。
「やれやれ」
第一声がそれだった。
軍の執務室。そこに数人の姉さんの部下達が控えている。
「ヒメル様」
「――姉貴は留守だ」
立ち上がる。
「俺が対応する」
宣言すると。
「ですが、ヒメル様。ここで動かれるのは⁉」
現場は他の者に任せてという言葉に冷めた目で、
「当事者の意思を無視しての行いだ。文句を言うのが筋だろう」
そう言い返して、意見を潰す。
「それに――」
手には剣。
「どうやら、俺が内政しか出来ない腑抜けだと思われているようだからな」
その甘い考えを打ち捨ててやろう。
「……ヒメル様」
「何だ」
周りの者達が蒼白になっている中、老齢の部下が声を掛ける。
「その言い方ルーデル卿に似ておられましたぞ」
姉さんに直接指導された者達が多い軍本部の中で、その老齢の部下は若い頃姉さんに指導された時。共に居た者の一人だ。
俺が訓練を叩きこまれた事があるのを知っている数少ない者。それより若い者達は俺と姉さんが完全に役割を分担した事や今の陛下の代になって軍の中枢に来たから俺が書類仕事しかしている所を見た事が無い者達だけだろう。
俺が戦えるのを知らない。お飾りだと勘違いしている者達。
まあ、それも仕方ないが。
「その言い方は止めてくれ」
老齢の部下に告げる。
「俺は姉貴に比べて甘いからな」
姉さんと比べるとあの人に失礼だ。
そう返すと、
「すぐ動かせる隊は?」
「第5部隊隊が動かせます」
「そうか。じゃあ、機密裏に命令しろ」
「はっ」
命じると出陣用意を完了させて部屋から出られるようにする。
「5番部隊はルーデル卿の秘蔵っ子です」
「なら、安心だな」
老齢な部下の言葉に笑う。
姉さんの秘蔵っ子。つまり、どんな扱いしても耐えられる訓練をして来た他ならない。
厩舎に行き、馬の用意をしてもらうと、すぐに動かせる隊として聞かされていた。5番部隊がすでに集まっている。
「流石……」
見て分かる。
「姉貴の秘蔵っ子だな」
姉貴が手塩を掛けて育てた優秀な部隊。
「姉貴の命令じゃないのが不満だろうが」
「――いえ」
隊長らしき男が口を開く。
がつっ
その男の鳩尾を蹴り上げる。
「口を聞いていいと言っていない」
地面に倒れた男に告げる。
「………」
男の視線がぶつかる。
「――口を開いていいぞ」
命じる。
「ルーデル卿の弟君なだけありますね」
「……成程」
試したという事か。
いい度胸だ。だが、
「流石だな」
こいつらもこいつらで確かめたのだ。
自分達を使うのに値する上司か。姉さんの弟という俺の強さと判断力を。
「姉さんの秘蔵っ子はお前達だけじゃない」
それを証明できただろう。
「では、ルーデル公。任務は?」
ルーデル公。か……。
俺と姉さん。俺らの呼び方の区別に公と卿がある。
ルーデル公は俺。
ルーデル卿は姉さん。
だが、俺が使えないと判断したのならその名をしなかっただろう。
合格とはいかないが及第点を貰ったと判断していいだろう。
「――任務は簡単だ」
にやりっ
「反政府組織を秘密裏に消し去る」
そう。表に出してはいけない。
国の中に戦乱の火種があるという事を他国に悟られてはいけない。
ましてや、その反政府組織の目的が。
象徴を一つにしろという戯言だと表に一切出ないように滅すると命じたのだった。
さて、次回は残虐シーンを書きます。(予定)




