77話 《盾》。愚痴る
実はお酒が飲めます
「姉さ……姉貴は無防備すぎるっていうか。鈍すぎる!!」
とある酒場。そこで管を巻いてしまう。
「フリューは昔からああやで」
「そうそう。フーちゃん。自分は何時までもがりがりのやせっぽっちで頼りないと思ってんだよね」
「姉さんの裏での呼ばれ方は、『初恋泥棒』なんだ……」
「――男女問いませんからね。自覚ありませんが」
管を巻いていると慰めるように声を掛けてくるのは、カナリア。カシュー。シュトルツという面々。
因みに少し離れた所では、マーレやテッラ。エドワードも居たりする。
「俺はフリューゲルは怖い印象しかないんだけど…兄ちゃんは?」
「それはお前がムズィークの象徴に親友だったからだろう。あいつにとっては唯一心を許せる兄との仲を邪魔をする敵認識だったんだろう」
因みに俺はそうでもない。
「えぇ~!! 俺男になら敵認識されてもいいけど。女の子は嫌だなぁ~」
「その節操なしを何とかしろ!! 似ているだけで、俺まで喧嘩売られるんだぞ!!」
もう、女装に戻れ!!
テッラが疲れたようにマーレに文句を言う。
マーレは不満だらけだが、テッラからすれば女装していればまずナンパとかなどの男女間ののトラブルは回避されるからマーレには女装させた方がいいと女装をさせてくれていた。ジェシカに師事を煽りたいほどだった。
「えぇぇぇぇぇ~!! せっかく解放されたのに~!!」
因みにマーレの人質生活の不満は女装だけだったらしい。
「これは私の失態ですね」
シュトルツが眉間に皺を寄せて、頭を抱えている。
「プリーメラが女の子だと全く気付きませんでしたから」
だから、騎士団に男として育てられているのに習性もせずに、性別を知った時は後の祭りという状態になってしまっていた。
「それもこれも貴方方が…」
シュトルツの睨む先は姉さんの悪友。カナリアとカシュー。
「しゃーないやろ。フリューがそうしたいと言ってたんや」
「ただでさえ、女の象徴で虐められてボロボロだったんだ。自衛手段は教えないといけないだろう」
カナリアとカシューの言い訳。
「――姉貴が虐められていたって」
不穏な言葉が聞こえた。
「ああ。昔の話や。――それに虐めてた象徴らは遠の昔に消えてんね」
「そう考えると不思議だな。あいつらは消えて、フリューは生きて。――俺らもまだ生きている」
からん
グラスを揺らす音。
「腐れ縁になれただけでいいものです。――消える象徴は正直見たくないので」
シュトルツの言葉。
……見た目は同じくらいになれたがそれはあくまで見た目だけ。流れる年月をそこには感じられる。
「ってか。フリューは俺らがとっくの昔に男としての諸々をお前に教えた事知らなかったって事か~」
とっくの昔に知っていると思ったけど。
「――性欲なんてあっても無駄でしょう。子供を残せないのに」
そう。姉さんは知らなかったが、その手の場所には、既にカシュー達に連れて行かれた。
まあ結果はどうでもいいが。
「えっ⁉ 残せるよ子孫」
マーレの言葉。
「残せるって……」
「人が望めばだけど」
初耳だ。
「――あんまり例が無いからな。象徴同士なら出来るんだよ。まあ、それも民の意思が働くけど」
テッラの言葉。
「だから、人といくらでもしても子供は出来ないから(ピ-)はし放題」
「マーレ黙れ」
話がこじれるから。
「俺とマーレは象徴同士の子供なんだ。人が望んだからな」
人が望んだ……。
「えっとね。先代は、男女の象徴だったんだ。夫婦という認識でね。夫婦なら子供もいるはずだ。その考えで俺らが生まれたんだよ」
「俺らはもともと同じ国だからその程度だけど。二つの国が一つになった時は象徴が男女だったら一つの夫婦として子供が出来るという認識で代替わりする事になるんだ」
円満な象徴の代替わりだな。
「だから、性欲はあるんだよねぇ。でも」
揶揄う口調。
「――煩い」
連れられて失敗した事は思い出したくない。
「――まあ、仕方ないだろうな。オマエにとってもうそういう対象は一人にしか向かわないんだから」
エドワードの言葉。
「当の本人は気付いてないけどな」
苦笑。
「……姉さんにとって、俺は弟だからな」
昔はそれでいいと思った。だけど、今は苦しい。
「長期戦覚悟でするしかないだろう。あいつにとって、お前は何時までも、守らないといけない存在でいる限りは認識なんて変わらないだろうし」
守らないといけない存在か……。
「そこら辺は難しいな……」
そう力無く呟いて酒を飲む。
………酒もたばこも知っている。そんな事は姉には言えないがそう思っている時点で、
「俺は今の状態を変えたくないんだろうな」
そう弱音を吐いてしまう。
「まあ、追い詰めるなよ。ま、飲め飲め」
煽られてぐでぐでになって、それでも、うさは晴れなかった。
リヒトは酒が強い。フリューゲルは窘めない。




