49話 《盾》は、誇らしさと寂しさを覚える
烏丸は、大君にとって、父であり、兄であり、先生でもあります。
船に一羽の鴉が舞い降りたのは、文を出して一週間たってからだった。
――つまり、一週間以上国を留守にしている事になる。
心配だ。
あの王は自分が内政向きなのに、成り立ちが騎士団だからと武力を前面に出そうとして何度か失敗している。その行為が民から信頼を奪っているのだが、それに関しては再三忠告したが聞き届けてもらえてなかった。
先の王が心配していたが、その心配が当たってしまったのだ。
――得意なのは内政なのに騎士団の古い考えが推し固まってしまっている王。それゆえに女を軽視する傾向があり姉さんを侮辱する。
「リヒト?」
「……心配だ」
主語が無くても通じる。いや、主語を国にするべきか王にするべきか迷ったのだが、言葉が足りないなと思いつつも、
「大丈夫だろう。今は自然災害に襲われている。それの復興を重点的に行うのはどの国も同じだ。ましてや、象徴が居ない間に大きな変革は国を亡ぼす。――歴史が証明しているからな」
「なら、いいが……」
そんな常識通じる王だろうか……。
「安心しろ。――俺には敬意はないがお前には敬意がある。お前の意思は尊重するさ」
姉さんの言葉に、
「嬉しくないな……」
多少の差は人にあるのは知っているが、ほぼ平等に敬意を示してもらいたい。少なくとも王が片方の象徴にしか敬意を示さないのは国として問題があるだろう。
そんな事を考えていたら遠くで見える鴉の足が三本なのが目視で確認できるようになって、
「ほらっ、化け物なんだぞ!!」
退治しないといけないと喚くミノムシ状態から解放されたマイケルに、
「煩いぞ」
と、エドワードが足蹴をする。
「なっ、何するんだ…」
「――黙れ」
目が座ってますよエドワード。
マイケルは怖かったのか口を閉じる。
「最初からそうすりゃ良かったのにな」
誰かの声がしたが、その通りだと頷く。
「――久しいですね」
鴉は人の言葉を操る。
――と、思ったら一瞬で人の姿になる。
「怪我ええか?」
「象徴ですから酷い怪我を負ってもある程度回復しますよ」
象徴だったのか、てっきり、エドワードの国のような不思議系の代理人だと思った。
面識ある――というか唯一交流していたラサニエルと気さくに挨拶をして、
「酷い怪我か……」
ぼそっ
あっ、姉さんが不穏な空気を放ってる。
「エド」
「ああ。いいぞ」
それだけで会話が成り立ち、一瞬で鞭を使いマイケルの動きを封じて船内に入って行く。
………船内から聞こえる悲鳴は気のせいだろう。うん。
「それにして皆様お揃いで」
丁寧な口調。だが、その目は観察するようなその言葉とは真逆な寒々としたものである。
「ああ。こいつの…………」
そのこいつは姉さんが連れて行って絶賛お仕置き中です。
「マイケルと言うんだが、あいつが俺らの約束を破ったから至急捕らえに来たんだ」
申し訳ない。そう謝るエドワード。
「――独断でしたか」
ぼそっ
呟いた声は聞こえたがどんな表情を浮かべたか分からない。
「――お初にお目にかかります。天都の象徴烏丸忠臣。象徴名は《王の傍らに寄り添う者》と申します」
深々と頭を下げる。被害者のはずなのにそんなの微塵も感じさせない。こちらを責めてもおかしくないのに責めもせず、礼儀正しく遠方から来た客人を迎える様に――。
いや、違うな。
彼は、守る者だ。自分と言う存在が矢面に立って、王を…国を守っているのだ。
(そう言う守り方もあるのか……)
見えない刃が突き付けられているような感覚。対応を間違えたら切り付けられそうな緊張感。
「……っ!!」
それは全員に伝わっていたのだろう。誰も次の一言が紡げない。
「――抜身の刀だな」
静寂は消える。
「――刀をご存じで」
「ああ。ラサニエルに以前天都の武器を見せてもらってな。人を殺す武器でありながら神にも奉げられる清濁併せもつ物だなと感心したもんだ」
お仕置きを完了させて戻ってきた姉さんが気さくに声を掛ける。
「――貴女も剣の様ですね」
「象徴名がまさにそれだからな」
抜き身の刀と言うのがよく分からないが、姉さんと烏丸は静かに剣を交わせている。
「――成程」
「ふうん」
だが、その空気は四散する。
そこには打ち解けた雰囲気。よく分からないが、危機は去ったようだ。
(敵わないな……)
外交の役に立つために来たのに、役に立たない自分が歯がゆくもあり。――そんな姉を誇る気持ちもあって心中は複雑だった。
守る剣のフリューゲルと寄り添うための刀である烏丸は似た者同士。




