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ニンギョウタチの物語  作者: 高月水都
青年期。友人を得る
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48話  《寄り添う者》は、その苦渋の決断をする

ようやく出せた象徴の名前。

 うみねこ。

 そう呼ばれる鳥がその文を届けたのは、癒えぬ傷を負い、療養している頃だった――。


「ボルトさん……」

 ラサニエル・ボルト。

 神地の外で唯一交流をしている国の象徴。


「新たな地の象徴が迷惑をかけた。か、音の大陸とは、違う地の大陸の象徴ですか……」

 音の大陸と呼ぶのは、かつて、ラサニエル達象徴が生まれた地は神地には無い音楽という文化で国を栄えさせた。

 その地の古参に関係する象徴の名字は音楽用語カンタータ。彼の地にあった大国の名はムズィーク。その地域で音楽を意味する。

 そういう偶然で神地はそちらの事を音の大陸と呼んでいた。


「………」

 読み進める。

「象徴が一斉に来られているんですね。しかも」

 象徴の力を無効化させてしまう象徴。


「……仲兄?」

「いつまでも引き篭もってはいられないようですね」

 同じく療養中の末の弟が心配そうに顔をあげるのを見て頭を撫でる。


「虎夏。いえ、鋼洲こうしゅう国象徴。李虎夏りこか殿」

「――仲兄。いや、烏丸?」

 兄弟姉妹であってももしもの時はその国の代表として語れ。そう決まっているので正す。

「天都の象徴として神地に全ての象徴に宣言します。我が国はこの先の未来を憂い。今まで断絶していた交流を再開します」

 いや、正式には交流の再開を検討する。そういう意味だ。象徴である自分では勝手に決められないので。


「烏丸……かつての事を許すのか?」

「――許せません」

 ですが、

「大切なモノを守るために、敵を倒すためにまずは情報(武器)が必要です」

 そう、その為なら自分の誇りなどどうでもいい。


「――鋼州国。了承した」

 我が国の君主様にお伝えする。そう答えると一頭の白虎に変化して消える。


「………」

 それを見てから立ち上がる。


「――もう。いいですよ」

 そっと、隠れていた存在に声を掛ける。

大君おおきみ

 呼び掛けると隠し扉から現れる女性。


御父様おとうさま!!」

 涙目で抱き付いてくる妙齢の女性。

「――大君」

 びくっ

「……烏丸」

 言い直す大君に頷いて、

「はい。何でしょう?」

「……怪我をしたと聞きました。本当はすぐ来たかったですが……」

「政務を優先成されたんですね。――ご立派です」

 それでいいんですよと心配で泣きそうになっている大君を撫でる。


 大君――他国からの呼び方をすれば、女王となるのだろう天都の君主は世襲制ではなく、先代の大君が天啓によって次の大君を示し、その次期大君の教育係として自分が代々育てる。

 

「――天啓が出たんです」

 大君が居住まいを正し、告げる。

「――なんでしたか?」

 負担にならないように優しく尋ねる。


「――門を開き、知識を得よ。敵は己の中にあり、選択を間違るな。引き際を間違えると大きな犠牲を生む火が起こるだろう」

 その言葉の意味は抽象的で意味は分かりにくい。だが、

「戦争が起こるのですね」

 火と言うのが戦いを意味するのだけは分かる。


 その戦争が何との間に起こるか分からないが――。


「妾は……。自分がこの時の大君であるのが辛い」

「……陽神子ひみこ様……」

「妾が愛する民を戦に進ませるのじゃろな」

 変革で流れない血はない。


「……その英断を責めません」

 多くの愛する民に責められて傷を負うだろう変革の大君は。だが、

「私は《王の傍らで寄り添う者》です。例え、全ての者が貴方を責めても私は貴方の味方をいたします」

 その言葉で大きな責務を抱いた女性は少しだけ笑った。


 その笑みが悲しげではない事に安堵しつつ、大君として崇められているがその内面はただのか弱い一人の人間であるその人に同じ様に笑い掛けた。




大君――陽神子。

因みに大君は、陽神子。居世いよ遠夜とよの三つの名がローテーション。

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