37話 《剣》。踊りという戦いで考え込む
男装の麗人は好きです。
身長とかを考えて用意された相手はリヒトと外見は同じ年頃の貴族の少女。
……あれはフルーラの貴族の令嬢だな。
流石、カシューだ。
練習相手と言いながら自国の令嬢を連れて来る。――これで、エーヴィヒは敵対こそしたがフルーラとの仲を悪くする気が無いと内外に示した事になった。
「ありゃ。先越された」
カナリアが告げる。
「――じゃあ、俺と踊るか?」
一応男の方も女の方も踊れるぞ。
「おっ、いいな!!」
そうすりゃ。ラーセロとも密接だと暗に示せるし。
それにしても……。
煌びやかなドレス。
そのドレスの合間に見える踊っているリヒトは緊張しているが様になっている。
「ドレスじゃないのがもったいないな」
今まで着る気もなかったけど。
礼服同士での踊り。
一応性別は異なるけど、知らずに見ている者からすれば男同士で踊っているとしか――罰ゲームしか見えない――。
「――なら、着たら~♡」
ど~ん
ぶつかってくる柔らかい感触。
「エリーゼ」
「はぁい♡ エリーゼちゃんだよ♡」
抱き付いてくるのは古くから馴染みの象徴。
――どうでもいいが、胸を揉むのは勘弁してほしい。
「フーちゃんごめんねぇ♡ 仲間になれなくて」
ちょっと、お兄ちゃんと喧嘩してて、
「ラサニエルとか?」
珍しいな。
「だって、『脂肪ばっかりを抱いてどこがいいんだ?』なんていうから~」
「あぁ………」
くだらない。
「じゃあ、お兄ちゃんは筋肉ばっかりじゃないって言いたくもなるでしょう!! 髭なんてあるんだよ。どこがいいの!!」
遠い目をしてしまう。
………さり気無く、カナリアが逃げてるな。
――逃げるなら連れて行ってほしかった。
「エリーゼ。お前の同性愛者は否定しないが、そんな些細な事でケンカをすると他のお前の同類が苦労するだろう」
俺からすれば、男同士でも女同士でも同じ同性愛者何だからいがみ合うなとしか思えないのだが。
「些細じゃないわよ!! 爬虫類好きともふもふ好きが気が合わないと同じくらいの違いだよ!!」
……………………好みじゃないか。因みに俺はどちらもそこそこだ。
一番は鳥と馬で、二つともは同格で一位だ。
あっ、視線の端でジェシカが見える。こちらに向かおうとしていたみたいだけどエリーゼに気付いて回れ右したな。
「………」
それにしてもいつまでもこうしてもなぁ。
仕方ないか……。
エリーゼの国も取引相手としては有効だ。何といっても農業の面では頼らざる得ない。
後で、カナリアと踊ればいいし――逃げたのはあいつだし、二回目ならまだましだろう――あいつもそれくらいは妥協するだろう。
「エリーゼ。一曲相手にしてもらえませんか?」
尋ねるとエリーゼは笑う。
「――喜んで」
その意味を知っているからこその笑み。そこにさっきまでの同性愛を叫んでいた姿はない。
「カナリーも不満はないわよ」
にこやかに、
「男性パートではあたし。女性パートではカナリー。それで同格でしょう」
でもフーちゃん。
「んっ?」
「男女の象徴が揃って立つ事は女の武器も使える方がいい。色仕掛けも武器の一つだよ♡」
「色仕掛け……」
正直苦手だ。
「そう言っても、少しは考えてみたら? 姉なのに弟君に兄と勘違いされて理想の兄扱いされたら」
「………兄だと勘違いはもうされた」
何で分かるんだ。
「なら少しは男の部分の戦いは任せてみたら? フーちゃんはあたし達より成長早かったのにここで成長止まったのはたぶん幼少期の食生活が原因じゃないと思うよ」
この場合の成長とは、外見年齢の事だろうな。
「フーちゃん。と言うかフーちゃんの国が無意識にフーちゃんが女性らしさを身につけるのに怯えてたんだよ」
男の良さも女の良さもある今の段階。だけど、これ以上の成長は外見で誤魔化せなくなる。
「別にフーちゃんの事を否定してないけど、フーちゃんの外見が大人になってもいいと思うよ」
「………」
外見か。
長い腕も強い足も欲しかった。
新兵に見た目で舐められてぼこぼこにしたのもよくあった。
だけど――。
「女らしい見た目か……」
考えた事無かった。
「少しは考えてみたら、男女の格好なら弟君と踊れるんだし」
踊りながらの会話。
踊りが終わり、少し一人になると、
「髪……伸ばそうかな……」
と、色素が薄い銀髪に触れて呟いた。
無意識にリヒトの為に髪を伸ばそうとしてますが……。




