20話 《海》。人質の立場から脱走する
メイド服着ていた男の娘マーレちゃんです。
さて、ここで、本編に触れないキャラに触れよう――。
「ううっ!! 暗いよ。怖いよ…!!」
ほうほう
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
フクロウの声でびびって足を止める青年。
「帰りたいよ~」
ぐすんぐすん
泣きながら森を歩く青年――名をマーレと言う。
「シュトルツさ~ん。兄ちゃ~ん!!」
今彼は重要な役割をしている――と、本人は思っている――。
話は戦端が開かれる数日前――。
「うんしょ」
今日も男物の服を隠されてメイド服で家事手伝い――慣れって怖い――をして、洗濯物を運んでいる時だった。
階段の踊り場。
大きな姿見が飾ってあるところを籠に山盛りの洗濯物を入れて容器に鼻歌を歌っていると、
『―-いっ』
びくっ
ばさっ
持っていた籠を落としてしまう。
今誰も居ないのに声が聞こえた。
びくびくっ
ここは古い建物。
長年住んでいるがもしかしたらいわくつきなのかも………。
傍から見れば長年暮らしていて今更と呆れたり笑うが、当事者である彼は笑えなかった。
『お……』
「ごめんなさい!! ごめんなさい!! お腹空いたからシュトルツさんのお菓子を取ったのは俺です。それをシュトルツさんが無いと探していたのをシュトルツさんが食べていましたとよとシュトルツさんに痴呆が来たと誤魔化したのは俺です!!」
『い……』
「こっそりシュトルツさんのベットで飛んでは寝て遊んでいたのは俺です!!」
『………』
「洗濯の時にジェシカさんの下着でこっそり楽しんでいたのは俺です!!」
白状しますから許してください!!
平謝りで自白していく。
『マーレ。お前人質生活楽しんでるな……』
呆れたような声。
「んっ?」
知っている声。というか自分に似ている声だ。
「兄ちゃん……」
踊り場の大きな鏡。
そこに映っているのは自分――ではなく自分と少し違う外見の青年。
自分が薄い茶色の髪だとしたら鏡の中の人物はやや濃い茶色。
自分が海を思わせる紺碧の瞳と表現するなら鏡の中の人物は森を思わせる新緑の色。
それに、何より、年齢は同じ年であったのに認識されている強度が明確に2、3歳の年の差を出していた。
テッラ・カンタータ。
南にある自然に恵まれた国アルシャナの象徴の片割れ。
マーレ・カンタータの双子の兄である。
「兄ちゃん。どうしたの? 国に何かあった?」
マーレとテッラ。珍しい双子の象徴の生まれはその特殊性から来ている。
アルシャナという国はかつて巨大な国で象徴は一人だった。
商業も文化も軍事力もすべては彼の国を中心に回っていてその栄華は永遠に続くと思われた。
だが、強国の末路は民の不安から生まれた。
恵まれ過ぎた環境にこのままでいいのかと怯える者。
新しい物ばかり目が行って古い物を蔑ろにする者。
欲に走って、家族を置いていった者。
――その不安はたった一つの自然災害によって表に爆発した。
火山爆発。
降りかかる火の粉で、今までもっていた金銀財宝は役に立たない。
命を守るために翻弄する者達。
そのどさくさで暴れる奴隷達。
環境の悪化で病や餓死で倒れる者達。
それが大国アルシャナの末路。
彼の象徴は不安に怯える人々によって殺された。
大きくなくていい。
栄華に囚われなくていい。
この海と大地。恵まれた環境に感謝して日々過ごしたい。
象徴一人で抱えるには国も民も重い。
そんな考えが民によって二人の象徴を生み出した。
マーレとテッラ。
象徴としての名は《海に愛されし子》《大地に愛されし子》。
その二人の象徴として与えられた力は、鏡さえあればどんな距離でも言葉を交わせる事だ。
『マーレ』
それ故。
『今からお前にアルシャナの決定権を伝える』
秘密裏に情報を伝え合える。
「えっ…⁉」
『我が国は人質を出したのはノーテンではなく、ムズィークである。それなのにいつまでも我が国の象徴を解放しない彼の国にしびれを切らした』
そこにはマーレの――人質の意思は関係なく。
『よって、我が国アルシャナは、ノーテンに宣誓布告をして、エーヴィヒと同盟を結ぶ』
宣告。
『――という事だ。さっさと脱走しろ』
国の決定。民の意思には逆らえず。
その結果。
「怖いよ。酷いよ兄ちゃん達!!」
彼はノーテンという国を裏切るため密かに脱走したのだった。
長くなった。脇役の動き伝えただけなのに(自分の作品にしては)




