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四話 悪い男にご用心

「カイン。ちょっといいかい?」


 何事もなく、夕食後。扉の外からクライヴの声とノックの音が聞こえた。俺は立ち上がり、扉を開ける。そこにはクライヴと、エルクも居た。


「どうぞ」


 二人を部屋に招き入れた。

 考えてみれば自分の部屋に二人を上げるのは久しぶりかもしれない。

 特にエルクはなんだかんだ女性だし、一応婚約者なので気を使っていたところもある。


「どうした?」

「いや別に、大した用じゃないんだけどね。エルクが初日からホームシックでさ」

「そうなのか」

「ち、違うよっ!」


 冗談めかした言葉に対してクライヴの目は真剣だ。俺は机の上の本とノートを片付ける。


「凄いよな。本とノートが貰えるって。しかもこんなどっさり」

「贅沢な話だよね。こんなに貰っても使い切れるかな……」


「せっかくだしたまには()()()()()()()。こんな贅沢できることもないしね」


 二人は机の前に座った。俺も座る。

 クライヴはノートを持参しているようだった。さらさらとそのノートに文字を書く。


『もしかしたら聞かれてるから、念の為これでいこう』

『そこまでするか?』

『念の為だよ』


 カモフラージュが必要な会話をするらしい。まあ、予想はしていた。

 こんな時間に二人揃って来るんだ。議題は決まってる。

 ミルガイア侯爵のことだろう。


「しかし予想はしてたけど、訓練はしんどいね。僕も結構鍛えてたつもりだったけど……」

『ミルガイア侯爵のことだけど』

「訓練はどうだった?」

『狙いは分かったか?』

「キツかったよー、何やってるか分かんないし……でも出来るとやっぱり楽しいね」

『え、二人とも気付いてたの?ただの気さくな人だと思ってた……』


「具体的にはなにをやったんだ?」

『何かアクションは起こしてきたか?』

「今日は五大元素のいちばん簡単な魔法をそれぞれ教わったよ」

『決定的ではないけど、送って貰ってる時に少しね』

「エルクはちゃんと全部できたか?」

『具体的には?』


「なんで私に聞くの!ちゃんとできたよ!」

『私とカインの関係を根掘り葉掘り聞いてきたよ。どこまでいったとか、ちょっとコワい感じで』

「マジかよ、やるじゃん」

『どう対処したんだそれ』

「カインは私のことをナメてるよね」

『言ってる意味がわかんない振りしといたよ。貴族の女で分かんないわけないのにね』

「出来てたよ。……風属性以外は」

『ちなみに無知なフリをしているエルクに興奮してる様子だったよ』

「やっぱ出来てねえじゃねえか!」

『コワッ!』


 想像以上にコワい感じだった。

 しかし、狙いはエルクか……


「じゃあしっかり練習しとかないとな」

『対策しないとな。何かあってからじゃ遅いし』

「せっかくだし後でカインにも見てもらおうか」

『初日から会うことはないと思ってたから言わなかったけど、あの人ロリコンで有名なんだよね』

「俺はいいけど、そういうのって勝手に使っていいもんなのか?」

『うわっ……とりあえず部屋の鍵は絶対かけないとな』

「人に向けて使わなきゃ大丈夫らしいよ」

『ロリコンなだけならまだしも、子どもなら男も好きみたいでさ……正直僕も怖い』

「そもそも私たちの魔法ってまだ人を傷つけられないしね」

『カインだけハズレ枠だね』

「まあ簡単な魔法ならそんなもんか」

『初めて美形じゃなくて良かったと思ってるよ……』


「カリキュラムでは、今週で初級まで、来週には中級魔法に入るらしいね」

『鍵だけだと若干不安が残るな。侯爵ならマスターキーとか借りれるかもしれない』

「そこまでいったら多分攻撃能力もあるんだろうな」

『部屋のシャッフルもしておくか。1/3でハズレだ』

「そうだね。中級魔法を覚えたらそこらの魔術師より強い可能性もある」

『いいね。それでいこう。最悪エルクの部屋でさえなければ僕とカインは自衛できるし』

「なんか想像つかないなー」

『いいの?代わりにふたりが危ないよ』

「早く強くなれるならそれに越したことないだろ」

『俺とクライヴはそもそもターゲットじゃない可能性もあるからな。鍵が開けられたらさすがに気付くだろうし、それで問い詰めれば証拠にもなる』


「カインには申し訳ないけどね」

『あと、これからは出来る限り三人で行動しよう。最低でもエルクは一人にならないように』

「カインは頑張って勉強してね。それで私たちに教えてね」

『はい……まさかこんなことになるとは……』

「僕は別に教えてもらう必要ないけど」

『まあ、成人したら割と貴族ではよくあることだからね。僕たちもハニートラップには気を付けないとね』


「任せとけよ。とりあえず今日の自習で来週くらいの範囲までは理解した」

『そういや、セラフィム侯爵の方はどうだ?俺は信用していいと思うけど』

「凄いな。やる気じゃないか」

『僕も信用していいと思うよ。あの人本当に良い領主だし』

「うわ……負けてられないな」

『私も大丈夫だと思う。……私の目は割と節穴だけど』


 こんなもんか。まさかこんな対策を考える羽目になるとは思ってもいなかった。


 せめて来週以降ならエルクも自衛できるんだが……いや、でもなんだかんだでこっちが悪者にされる可能性もあるな。結局未然に防ぐしかないか。


「ふう……こんなもんかな。完成だね」

『まあ、今出来るのはこんなもんかな。二ヶ月後にはミルガイア侯爵も自分の領地に帰るみたいだからそれまでの辛抱だね』


 俺たちが頷くと、クライヴは俺たちのノートから筆談に使っていた部分を破り取った。


「これ、残しとくのも恥ずかしいね」

「確かに」

「捨てちゃう?」


「せっかくだしこうしようか」


 クライヴが紙をまとめてつまむと、すぐにそれらは燃えて灰になった。そしてその灰はどこからともなく吹いてきた風に流され、暖炉の中に消えていく。同時に細かく落ちた灰は手から生まれた水で拭き取り、桶の中に自ら飛び込んでいく。


「ええ……無詠唱に多重使用……」

「……これが特Sか」

「いや?これは魔力関係ないよ。エルクもこれくらい出来るようにならないとね」

「初日で出来るのはおかしいよ!しかもクライヴ今の得意系統じゃないじゃん!」

「ま、才能……ってやつかな」

「ちょ、ムカつく!」


 二人はぎゃーぎゃー喚いて、そして一息ついた後、俺たちはシャッフルした部屋に帰った。

 割り当ては俺がエルクの部屋、エルクがクライヴの部屋、クライヴが俺の部屋だ。これが一番変なことにならないだろう、とのこと。確かにそうだ。


「……寝るか」


 しかし上級貴族も暇なんだな。十歳のガキ相手に発情するとは。

 年齢からか、俺にはまだそういうのがよく分からないので共感はできない。

 あるのは、エルクを傷つけようとする相手への静かな怒りだけだった。

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