【1-5-1】 夢現
俺は階段を登っていた。なぜかは分からない。ただ登り続けなければならない気がした。辺りは暗く見通すことは出来ない。俺はただ螺旋状に組み敷かれた石の階段をひた歩き、少しずつ少しずつ上へと向かっていった。
途中にふと考える。なぜ自分はここにいるのだろうか? 何かとても重要な事があった気がする。ただそれが何か思い出せない。それどころか自分が誰かも朧げだった。なんだか考える事も億劫で、俺はただ歩く事に集中することにした。
ふと前に子供が二人いることに気づいた。男の子と女の子の二人組だ。男の子は怪我をしていて、女の子は彼の手当をしている。声を掛けようかと思ったが何故かそれは憚られた。
「――ねぇ誰にやられたの? 私が仕返ししてきてやる!」
「やめときなよ……。それに俺だって多少やり返したんだ。ただあんまりやり過ぎるとまた問題なるしさ。これでアイツらも多少落ち着くはずだよ」
「…….魔素の事が関係してるのかな」
「うーん、どうなんだろ? でも多少はあるのかな……」
「やっぱりそうだよね……。うん。わかった。あとはお姉ちゃんにまかしておきなさい! ――ね、スーニャ!」
――そうだ。俺の名前はスーニャだった。そしてこれは俺たちの過去の出来事だ。身体に秘める魔素量を感知できなかった俺とリムは少なからず奇異の対象だった。それに比較的大人しくしていた俺は、一部の悪ガキからは目をつけられやすかった。やり返しもするので継続的なものにはならないのだが。
ただ、確かこの日からだ。この日からリムの訓練が激しさを増していった。
目の前から二人はいなくなっていた。俺はまた階段を登り始める。自分の事を思い出したけれども、未だ他のことは思い出せなかった。
今度は三人の子供が目の前に現れた。また何かを話しているようだ。
「な? スーニャは将来どうなりたいんだ?」
「えなんだよそれ?」
「だってさー! スーニャからそういう話聞いたことないじゃん? なんか考えてんのかと思ってさ!」
「スーニャはアンタと違って大人なのよ。わざわざ外にそういうこと言わないのよ」
「えーオレ達にくらい言ってくれてもいーじゃんか!」
「いやー、俺は平和に穏やか〜な生涯を送るのが夢だからなー」
「え、うっわ。夢なんもないな……」
「スーニャ私も流石にそれはどうかと思うわよ……?」
「えなんだよ!? 二人して!? それに二人とも何かあるのかよ!?」
「オレ? オレは里一番の狩人になるんだ! 親父だって見返してやる!」
「私はー、そうだなぁ。里一番の魔法使いとか? セラの後をついで顔役とかもいいわね〜」
そうだった。二人ともそんな夢を描いていた。二人の話を聞いて俺は、自分が何になりたいのか全く考えた事もないと気付かされた。……ただ本当に何もなかったのだ。だから答えることもできなかった。
三人は同じように俺の前から消え、歩き飽きた俺は階段の壁に寄りかかり休憩することにした。不思議と喉も渇かないし腹も空かない。改めてここがどこなのかを考える。夢の中だろうか? 現実であれば自分を俯瞰して見ることなど出来るはずもない。俺は昔の夢を見ているのか。それならば早く起きなければ。きっとみんなが待っている。また寝坊助なんて笑われるのも癪だ。ただ起きる方法もわからない。しばらくして、俺は仕方なしにまた階段を登り始めた。
今度に現れたのはリム一人だった。どうやらガーゴイルと戦っている場面らしい。
「まーた性懲りも無く出てきて……。でも最近頻度が増えてるのは何でかなー? なんかあんまり良い予感はしないんだけれどもー」
ガーゴイルに向けて手を伸ばす。その手のひらを握る。それだけで相手は宙から崩れ落ちた。
「ふぅ、でもホントこの力なんなんだろうなぁ……。便利だけど使うと少しの間動けなくなるくらいむっちゃ疲れるし、あんまり使いたくはないんだけど」
リムはその場に座り込んで身体を休ませている。
「まあでも神様にはありがとだよねー。まさか魔法が使えないなんてビックリしたけども、こんな力をくれたわけだし、結果オーライ?」
休憩を終えたのか、ガーゴイルの死骸を担ぎつつリムは歩き出した。
「それにこれがあればスーニャも守ってあげられる。スーニャだけは絶対に守ってあげなきゃ。今度こそ、絶対」
リムが言った事がどういう意味かは分からなかった。ただここまで気を遣わせていることに申し訳なさが勝った。俺は大丈夫だと、言ってやりたかった。
しかしこの記憶はなんだろうか? 俺はこの場面には立ち会っていない。リムの記憶、だろうか?
今度はリムと複数名の大人達がいる。何やら慌てているようだった。
「急がなきゃ、里が! 何かあったんだよ! 今すぐに帰らないと!」
「リム! 落ち着け! まだ何かあったかも分からないんだ!」
「だって! あんなの普通じゃない! スーニャや父さんや母さん、里のみんなが!」
「わかってる! ただ一人で突っ走っても危険なだけだ!それにもう里は目の前なんだから無理を――「――うん? 貴方たちが遠征隊とやらですか?」
「……貴方、誰?」
「俺ですか? 俺はレナードといいます。まあ、この里を襲撃した犯人の一人ですよ」
レナードはローブを脱ぎ臨戦態勢をとる。リムが切り掛かると同時に、またみんなはいなくなっていた。
そうだ。俺たちは襲われたのだ。ただ途中までしか思い出す事ができない。みんなは無事なのだろうか?
この階段を登り続ければ答えが見つかるような気がして、俺はまた歩みを始めた。
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