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異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第4部】黄昏時

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【4-7-6】

 二人の笑い声が響く。私は眼球だけを動かし彼女達を見ていた。ククルが斧を振るう。ミームもまた剣を振るう。互いに防御をする事もない。髪が焼かれようとも、身体が裂かれようとも関係ない。彼女達はただ自分の全力の力を振るって遊んでいるにすぎない。


 彼女達の魔素はちょうど赤と青の色彩に分かれていた。せめぎ合い、飛び散り、そして混ざり合う。それを私は場違いにも美しいと感じていた。


 やがて、ククルがその場に崩れ落ちる。


「楽しかった、わね。ククル」


 ミームは荒い息を吐いている。ククルはその声に反応しない。すでに意識を失っているようだった。


「ああ、もう指も動かすことが出来ない。力を使い切るというのはこんな気分なのね……」


 私はそれをただ眺めていた。頭は依然働かない。なんだかそのままに目を瞑り意識を手放したくなってしまう。


 しかし脳内に、あの時の自分の言葉が再生される。


『……あの日、私達の里が襲われてから、今日まで随分と日がたちました。ただ、あの光景を忘れた事はない。そしてその報いを受けさせる為に準備を進めてきた。――その決着の日は、今日だ』


 そうだ。私は何をしにここまで来た。全てはこの瞬間の為だろう。

 

 自分の身体を奮い立たせる。今だに身体は回復しきっていない。通常の攻撃なら即座に傷は癒えるというのに、それほどまでの威力だったからなのか。それとも太古の神々の攻撃は普通とは異なるのか。


 無様に脚がもつれる。地面に身体を這いずる。ただ少しずつ確かにミームへの距離は縮んでいく。


「……ああ、貴方がいたわね? それで? その様子でどうするつもりかしら?」


 ミームは私を脅威になど考えてすらいないのだろう。まるで虫でも見ているような視線だ。


「私を倒させるため、ククルを嗾けたのでしょう? でもここからどうするつもり? 残された貴方が私を倒す事は出来るのかしら?」

「……その為に今日まで生きてきた」


 手に魔素を込める。まだ彼女との距離は遠い。ただ出来る攻撃はある。


「私の全てを貴方にぶつける」

「……楽しみね?」


 見てろ。その余裕な表情ぶち壊してやる。彼女へ手を向ける。


「――エクスプロージョン」


 辺り一体が爆炎に包まれる。この攻撃は今私が用いる最大最強のものだ。今弱っているミームにならあるいは……。


「ふむ? とんだ期待外れかしら?」


 砂塵の中でその余裕そうな声が聞こえる。コホンコホンなどと咳払いをしている。


 チッと舌打ちをする。――ただこれは想定内だ。

 

 剣に魔素を込める。身体中の魔素を総動員させる。この一撃で私が死んでも構わない。頭の先からつま先まで、毛一本にすら籠る魔素をひた集める。


 太古の神々に対して唯一、有効だった攻撃。それは魔素を集中させた一点突破。今の弱っている状況なら、もしかしたら。


 砂塵の中ミームへ剣を突き刺す。


「……痛ったい。そう。これを狙ってたのね」


 ――それでも、まだ届かない。


「確かに、貴方の攻撃は私へも届いた。でもまだ足りない。貴方の目論みは実現し得ない。これが存在の違い。生まれ持った在り方の違い」


 砂塵が消え視界が開けていく。私の剣は彼女の首元で止まっている。ミームの身体からは血が流れているものの、やはり彼女を貫くには至っていない。


「でもここまでやった事は褒めてあげるべきね。生まれ落ちて幾星霜、私が血を流したことなどないのだから」


 彼女は私の剣を握る。先ほどの塔の上の戦いの再現のようだ。違うのは景色と互いの様相か。


「……何が可笑しいのかしら?」


 ミームの指摘で私は自分が笑っていたことに気づいた。


「無力さで笑ってしまったのかしら。……哀れね」


 彼女は呆れたような痛ましいものを見るような、そんな表情をしていた。


「まだ貴方を滅するくらいの力はあるわね。せめて、綺麗に咲いてちょうだい?」


 ミームがこちらへと手を向ける。

 

 ーーこっちだって、ここまで想定していなかったわけではない。


 私はミームの腕を掴む。


「何のつもり? 貴方の力などではとても私を止めることなんて――「――分かってる」


 そう。分かっている。今の私の力ではとても彼女を殺すことなど出来ない。――私の力だけでは。


「なら何のつもり? もう何をしても無駄と分かっているでしょう?」


 ミームは不機嫌そうな声をあげる。いい加減諦めろと言いたげだ。だがこちらはそんなもの関係ない。この瞬間のために、今まで全てを積み上げてきたのだから。


「貴方達、太古の神々に敵わないことは分かっていた」

「……? ええ。だから貴方はククルを差し向けた」


 そうだ。それは確かに当たっている。ただ正解じゃあない。


「そう。ただ、それだけではどうなるか分からなかった。ならどうすれば貴方を殺せるか。ずっと考えていた」


 無意識に腕を掴む力が強くなる。


「それで? いい加減手を離してくれるかしら? ここまできた褒美として付き合ってあげたけれど、もう十分のはずよ」


 彼女が私の手を振り払おうとする。ただ私はそれを頑としてさせない。今この瞬間こそが、何より重要なのだから。


「貴方達を殺せるのは、貴方達だけ。であるなら、それを使うまで」

 

 不死鳥の力は、他者から魔素を奪う。


 ――それは、太古の神々といえど例外ではない。


「何をッ!?」


 ミームから魔素を奪う。その力を、根こそぎ残さず。全て飲み込み自らの糧とする。


「やめなさいッ!!」


 慌てて私の腕を振り払うも振り解く事はできない。させない。彼女が私の腕をその力で切り裂こうとしても、切った側から炎で再生していく。ミームは随分と慌てている。……そんな表情、初めて見た。


「貴方は、何をしているか分かっているの!?」


 自分の身体の中を高密度の魔素が駆け巡る。比喩でなく身体が破裂しそうに思えた。身体の中の血管が切れては治り、また切れているのが分かる。身体の表面にも漏れ出した血液が溢れだしていた。


「――貴方の魔素なら、貴方にも届くかな?」


 ミームから受け取った魔素を剣に込める。どんどんと剣に込められる魔素が増えていき、剣は耐え切れずピシピシとヒビが入っていく。


「ほら!? 悪あがきはよしなさい!」


 剣から炎が揺らめく。零れ落ちた魔素が発火したのだろう。


「いい加減にしなさい!! そんな事をしても意味などない!!」


 ミームはもはや私を振り払う力もない。ただでさえ限界だったはずなのに、そこからさらに魔素を奪われているのだ。いくら魔素を無尽蔵に持つ太古の神々といえど流石に底を着いたのだろう。


 私は剣を振りかざす。魔素で空間が歪んでいる。それは先ほどのミームが剣を作った時と同じ現象。ミームもククルも互いの攻撃で傷を負っていた。それであれば、同じ魔素を込めた私の攻撃が効かない筈はない。

 

「分かっているの!? 私は太古の神々の――「――関係ない。貴方は、ただの私の敵だ」


 剣を振り下ろす。その攻撃は今度こそ止まる事はなく、確かにミームの身体を引き裂いた。彼女の身体から血が溢れ出す。ミームは驚愕の表情を浮かべた。


「……私が死ぬ? 太古の神々の次女であるこの私が? ただの亜族に? ナイナイナイナイないナイナイ無いないな無いないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得な――」


 私は再度彼女へ剣を振るう。彼女は堪らず崩れ落ちる。まだただうわごとのように呟いていた。


「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘。だってあり得ないこんなこと私がなんでだって私は神でこの世界を守っていて私は――」


 私はとどめを刺すために剣を彼女の首元に向ける。ギョロリとこちらに目玉が向いた。

 

「――お前は、この世界にいてはならない存在だ」

 

 そんな言葉に笑ってしまう。太古の神々を敵に回した時点で、そんなこと覚悟の上だと言うのに。


 振り抜いた剣は彼女の首元を切り裂いた。その首から血が噴水のように吹き出し辺りを赤く彩る。彼女はピクピクと痙攣した後、すぐに動かなくなった。


「……これの、どこが綺麗なんだか」


 血で赤く染まった地面を見てもミームが言っていた美しさは到底理解できない。加えて立ち込める鉄臭さはただ不快でしかなかった。


「……ああそっか。ラフェシアってそういえば、似たような名前の花があったな」


 あの国旗にどこか見覚えがあったが、いまようやく思い出した。それは前世の世界では、世界中で知られている。


 赤い花弁を咲き誇らせ、その香りで虫達を誘引する。とりわけ特徴的なその造形と臭気は世界でも類を見ない。なるほど今にして思えばミームにはピッタリな花だ。


「まあもう私にはどーでもいいことだけど」


 私はその場にへたり込み息を吐く。

 

「全部終わったよ、みんな」


 ――私の復讐は、こうして終わりを遂げた。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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