14 虐殺少女
翌日、旅に出る。
今度の目的地は鎧の都アーミュアという城塞都市に向かっているらしい。
アーミュア近郊は凶暴な生き物が多く、腐人と呼ばれる謎の生き物もいるらしく、そいつらはある程度規則的な動きをしてきて危ないとミトンさんが言っていた。
「そうだね。あいつらは海岸近くにいることが多いから海岸近くには近づかないようにしよう」
ヘルが真剣な顔でそんな事を言う。
しばらく移動していると角猛牛の群れが襲ってきた。
群れの数は14匹。
その闘いは圧倒的だった。
ホーンブルと比べて背丈もほぼ同じ程度。
一番大きな個体に至ってはヘルよりも数十センチ高い。
そんな体格差がある相手に少女が駆け出し、群れの先頭に接敵すると同時に俺のナイフを弄ぶように回転させ、順手持ちから逆手持ちに変えて頸動脈を切り同時に強化されたであろう蹴りが入り、先頭の一番大きなホーンブルが1メートルほど吹き飛ぶ。
吹き飛んだホーンブルは首からとめどなく赤黒い鮮血がダバダバとあふれる。
それは数分もすれば恐らく失血死するという未来を戦闘経験などない俺ですら予期できるほどに勢い良く溢れていた。
だが、そのホーンブルの目には戦意があった。
同時に錆びた鉄のような匂いが数メートル離れている俺の鼻にツンと抜ける。
それは戦いを知らなかった俺にとっては吐き気を催すほどに醜悪に満ちた匂いでもあった。
吐き気を催し、胃と食道の間で胃液が行ったり来たりして不快感を感じる。
頸動脈を切られたホーンブルがヘルに突進すると、軽々と突進してきたホーンブルの力を使い、ホーンブルの背中に乗り込み、勢いを殺すべく背中にナイフを突き立てる。
そのナイフは深々と全てが肉に埋もれていた。
短剣をホーンブルから引き抜くと流れるようにホーンブルの首に刃があてがわれ、ホーンブルの頭が宙を舞う。
頭はゴトリと音を立てて落ち、身体は力なくその場に崩れ落ちる。
先ほどまで生きていたホーンブルの身体から鮮血が溢れ出し、それはまるで紅の絨毯のようだった。
そこからの闘いは蹂躙だった。
同じように頸動脈を切られたり、短剣の柄で頭蓋を割られたり、短剣の柄で顎を砕かれたり、短剣で角を切断されたり。
散々な死に方をしたホーンブルの数は8に上った頃、ホーンブルの群れは後退を余儀なくされ、そのホーンブルの目には最初の死者の勇猛な光はなく、真っ暗な絶望的な目をしていた。
そこに立っていたのは返り血により血まみれになりながら、息一つ乱していない。
それどころか、汗の一筋も流していない。
それは謎に満ちた死体を凝視したヘルという少女だった。
ただ、その顔には先ほどまで張り付いていた演技の笑顔でなく、彼女の本質を映したかのような狂気の笑みを貼り付けた少女がそこにいた。
彼女の目には相手の死を喜んでいるかのようにいつもより目の蒼が淀み、紺のように見える。
その現場を見た俺だけでなく、ミトンさんやグデンくんも生唾を飲み込む。
彼女の力の一端を見せつけられた。
ホーンブルは一体Cランクの上位に匹敵する。
それを蹂躙するなんて芸当、一つ上のBランク程度にできるだろうか。
そう。それは不可能。
あくまでランクはそのランク帯のモンスターを四人で討伐する事を前提として作られている。
Bランク程度がひとりでは、抑えられるのなんてCランク下位が限界だろう。
一体一体がBランクに近しいホーンブルを14体相手にして8体を仕留めたその力。
しかも、余力を残してだ。
息を一切切らしていなかったことから分かるだろうが、彼女が見せたのは力の一端であり、本気ではない。
ホーンブルを壊滅させることだってできたはずだ。
彼女の力は未知数であり、その力の一端を知った俺たちは彼女の力に恐怖を感じるのだった。
そう彼女は少なくともAランクの力がある。下手をすればSという化け物に上る可能性すらひめていた。
その時、北側から強い突風が突如として吹き始め、近くの木の葉から周囲に漂っていた血のさびた鉄のような匂いと共に死の気配がそこから吹き飛ばされる。
「渓谷風だね」
先ほどの狂気的な笑顔から普遍的な笑顔に変わったヘルが話しかけてくる。
「あと数日で乱砂が終わるな」
ミトンさんがそんな事を言う。
「渓谷風ということ風は北の山脈との間で作られた突風だからな」
「それが吹き始める頃に乱砂が終わるぞ」
「海岸の高潮もなくなるね」
ヘルがミトンさんの言葉へ補足する。
「腐人も数が増えなくなるな」
「乱砂の時期に腐人は増えるんですか?」
「ああ、なぜか乱砂の時期と腐人が増える時期は重なるんだ」
なんで増えるんだ?
嵐と高潮に関係があるのかな?
嵐の方向も高潮の発生場所も共通点はなさそうだし、たまたまなのか?
でも、なんだろう。
この違和感。
なぜか重なる乱砂と高潮と腐人という生き物。
もしかして何者かが人為的に起こしているのか?
そんな事を考えていると、空に何かが横切ったような気がして、上を見るが、そこには何もいなく、青天が広がっていた。
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