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深空のダンジョン攻略編 閑話 リュシオル達の決断

更新時間不定期でご迷惑をおかけします。

 ガッタン……プシュゥゥゥーーー!


 「マスター?着きましたよ。ほら起きて下さい」


 ポンポンとジュドに起こされて、寝ていた事に気付いた僕。どうやらジュドの肩に寄りかかって寝ていたんだね。


 ジュドに涎つけてない?あ、大丈夫?


 「淘汰様、さあ行きましょう。ここからはスレイプニル馬車で行きます」


 僕の事も気にかけながら、リュシオル達を案内してくれていた湯治さん。ジュドにありがとうと言っている間に、ガコンッと客車の入り口が開いたみたいだね。


 湯治さんの声に気付き、慌てて合流する僕の目の前にあったのは、雪の壁に挟まれた道に待機するスレイプニル浮遊馬車の姿。


 「あれ?ここにもスレイプニルがいるんだね」


 「はい。温泉が気に入った個体を誘致しましたから」


 湯本さんが言うには、移動手段にスレイプニル浮遊馬車が欲しくて直接スレイプニル達に交渉したんだって。だから、此処にはスレイプニル専用の温泉も完備しているらしいよ。


 ……それはそれで面白い光景だろうねぇ。


 スレイプニル達の温泉に入っている姿も名物だと言う湯本さんが、寒さに震える僕にコートを被せてくれる。


 うん、あったかい……!流石、準備が良いなぁ。


 ほっこりしていると、リュシオル達は湯本一家のコートの中に隠れているみたいだね。リュシオル達小さいし、専用コートないからなぁ。


 なんてちょっと心配してたけど、あったかい馬車の中に移動するとすぐに飛び回っていたから良かったよ。


 窓際に座る僕の息が窓を白くする寒さの中、天然温泉郷に移動中の車内では、初めて見る白銀の世界に寒さを忘れて魅入っていたリュシオル達。


 そんなリュシオル達の微笑ましい様子にほんわかしていた僕に、湯治さんがちょっと相談が、と声をかけてきたんだけどね。


 「ん?何か足りないものでもあった?」


 「いえ、物は十二分に備えて頂いておりますのでご安心下さい。むしろ足りないのは……その、お客さまの方でして……」


 ちょっと困ったように言う湯治さん。聞いてみたらね、僕らがどうやら初めてのお客さまなんだって!?


 此処でジュドも補足してくれたけどね。亜空間ワールドの住民が増えたとはいえ、まだ数にして総勢500弱。


 それに比べて、亜空間ワールド内の生活圏は広大。今や湖の中、街、浮島、温泉卿と広がり人手は常に足りない状況なんだって。


 それに、住民達の一番の人気生活圏は、やはり街。


 総括さんじゃないけど、迎賓館や僕の住む本館が最先端と言う事もあり、皆が街に移動する事はあっても温泉郷にまで足を運ぶ事があまりないらしいんだ。


 あ、でも湯本さん達や湯本旅館で働いている人達は、温泉郷に愛着を抱いているから移動する気は全くないんだけど……


 「やはり、自慢の宿にお客様がいないのは、少々寂しいものがありまして……」

 

 言い淀む湯治さんの言葉に、同じ思いの泉さんや湧さんからもお願いされた僕。


 ……と言ってもなぁ……最近取り込んだのは夜島だし。僕が今出来る事って名付けくらいだし……って、名付けかあ……!


 確かセイクリッドジェリーマーメイド達は、亜空間ワールドが名付けしたんだよね。という事は……?


 ちょっと思い付いた僕がジュドに念話で確認してみたら、なんとあっさり出来るとの事。


 「ええええ!ジュド!だったら言ってよ!」


 「マスターから提案されないと動けませんし」


 思わず声に出して、ジュドに掴みかかっていっちゃった僕。


 ジュドもジュドでふう……とため息吐いているけど、その顔は面白がっていたな……!ジュドめ!


 なんて一幕もあったけど、湯治さんにはまずは天然温泉卿の全容を案内してもらってから、と伝えておいたんだ。


 そしたら3人揃って良かったって喜び合うんだよ?まだ何も言ってないのに。


 うわあ……全面的に信頼されてるっていいんだろうけど。……楽したいだけって言ったらいけない雰囲気だね、これ。


 そんな僕が頬を指でぽりぽり掻いていると、カタンッと止まったスレイプニル馬車。


 「さ!着きましたよ。ここが、亜空間天然温泉郷です!」


 さっきまでの不安顔は何処へやら。湯治さんがドアを開けると、温泉卿ならではの匂いと寒さに迎えられて、懐かしい気持ちになった僕。


 旅館までの短い道のりを、足元のかまくらライトや雪壁の中のライトの灯りが優しく照らし、途中途中にある歓迎の雪だるまや雪兎にほっこりさせられる。


 ただ、初めてこの匂いを嗅いだリュシオル達が鼻をつまんでいたのには笑ったなぁ。

 

 そんな笑い声が起こる中、湯治さんが歩きながら全貌を教えてくれたんだけどね。


 今、歩いている道の両脇は、雪が無くなれば岩盤浴や足湯もできる場所になるらしいんだ。冬の間は残念ながら入浴禁止区域なんだって。


 あ、スレイプニル温泉だけは常時解放しているらしいよ。見学できるみたいだから、後で行ってみよっと。


 湯本さん達の案内を聞きつつ歩いていると、道の先に見えてきた大きな煉瓦調の洋館こそが湯本旅館本館。


 なんと、湯本旅館は別館が六つもあり、各館は廊下でつながっている大型の旅館施設だったんだ!


 因みに、本館が湯本旅館の主要な場所。客室や食事何処や休憩所やお土産や大広間がある、僕らがメインで過ごす場所だって。


 更に、各館を端的に説明するとこんな感じ。


 別館『壱』は、職員宿舎や湯本一家が暮らす館。だけど温泉施設はお客様にも解放しているんだって。ここの温泉の効能は、疲労回復。


 別館『弐』からは温泉施設のみ。『弐』は美肌、『参』は傷回復、『四』は飲泉で胃腸回復、『五』は洞窟迷路風呂で魔力回復、『六』は砂風呂で魔力体力成長作用があるんだって。


 僕らが連れて行きたいのは『五』館だね。


 頭の中で館内を確認していると、説明し終わった湯本一家からの視線を感じた僕。


 あ、まずはチェックインね。


 本館の中へついた僕らは、「いらっしゃいませ!」と気合いの入った女中さんや番頭さんに迎えられて、まずはそこでリュシオル達にこの後説明に入ったんだけど。


 「マスター、先に作りましょう」


 何やら考えがあるジュドに促されて、僕は湯治さんに例の件の解決策を作っていいかを確認しに行ったんだ。


 「此処は、淘汰様の所有地です。御心のままに」


 そこまで敬わなくていいよ、と慌ててジュドの側に戻ってきた僕が、ジュドに許可を出して、一瞬で作って貰ったのは7館目の別館。


 そして、そこの温泉の効能は『従属』。……僕がやりたい事わかったかな?


 「もしや、命名の儀を当旅館に任せてもらえるので?」


 いち早く理解した湯治さんが震える声で僕に確認してきたけど、僕が楽したいからって提案したんじゃないからね!


 言い訳だけど、亜空間ワールドに完全に溶け込みたいなら、僕に従属して人化できるほうがいいし、何よりこの旅館にくる目的があればその為に人は集まるし、温泉の良さだってわかって貰えると思ったんだ。


 「うん。だからこの温泉だけは、完全予約制。それもアフターケア付きになるから、ちょっと湯本さん達に負担がいくよ?それでもいいかな?」

 

 一応、僕の考えも伝えた上で、確認のために湯本さん達に聞いてみたらね。


 ……え?なんでみんな跪いているの!?


 「淘汰様の寛大な配慮に心より感謝を。私共、湯本旅館は、この亜空間ワールドにおける重要な任務を、謹んでお受けさせて頂きます。


 淘汰様がこの世界でただ一つ掲げた指針、『互いを思いやる優しさ』を、亜空間ワールドの一員となったばかりの仲間にもしっかり伝わるように、職員一同励んで行く所存です」


 旅館を代表して湯治さんが宣言してくれたのはいいけど、まさかそこまで重く捉えられるとは思わなかったんだよね。


 アワアワした僕がみんなを立たせに行ったらね、そんな僕の様子にスタッフのみんなが笑い出しちゃってさ。


 ジュドが「マスターは、畏まった態度は苦手ですよ?」と助け船を出してくれたから、その場の雰囲気は元に戻ったんだ。


 でもね……


 「ならば、最初の予約を我らがしてもいいだろうか?」


 なんと、この場の一連の様子を見ていたリュシオルの数人が、湯治さんの前に願い出てきたんだ。


 それを見た残りのリュシオル達も続いて、結局50人全員が願い出てきたんだよ。


 「……では、ご予約を頂く前に一つ質問をさせて頂いても宜しいですか?」


 リュシオル達の真剣な様子に、すぐに対応してくれた湯治さん達。そして了承したリュシオル達に湯治さんが質問した事は……


 「これからは亜空間ワールドを故郷とし、住民達と協力し合う事も誓えますか?」


 と言うもの。何よりも僕が望んでいる事を、湯治さんはちゃんと理解してくれていたんだね。


 そして、その思いはリュシオル達にもしっかり届いていたみたい。即座に全員が了承と共に宣言したんだ。


 「我らも『互いを思いやる心を忘れない』!」


 堂々と言い切ったリュシオル達の態度に満足した湯治さんは、早速スタッフに指示を出していたよ。


 ……湯本一家、この亜空間ワールド唯一の法律をリュシオル達に伝えていたんだね。


 嬉しいやら照れ臭いやらだけど、それを理解した上で亜空間ワールドの家族になってくれるなら心強い……!


 ポッケの中で眠っている長にこの場面を見せられなかったのは残念だけどね。


 ともかく此処は湯本一家に任せて、長を少しでも回復させる為に『五』館へと移動する事にした僕ら。


 その後ろでは、更にやりがいを見いだした湯治さん。


「さあ、湯本旅館開店以来の大仕事だ!みんな、張り切って行こう!」


 「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 うん、みんな頼りにしてます!

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