13話.勇者と魔王と
ソフィは確かに復活した。だけど、当然それだけですべてが終わったわけではない。
戦いはこれからなのだ。
だけど、俺の役目はこれで終わりだ。
あとは----------
「ザック!村の人達の避難は?」
ソフィが言う。
その声は、勇者一行のリーダーにふさわしいハキハキとしたものだった。
昔の大人しいソフィからは、考えられない一面を見た気がした。
「終わってるはずだ。村の奴ら全員逃げてってたからな」
「ソフィ!これを!」
ミカエラが何もない空間から剣を取り出し、ソフィの方に投げる。
「ありがとうミカエラ」
ソフィはそれを受け取り、魔王ゼクロスと向き直る。
「…お前では俺には勝てん。分かっているはずだがな。それとも、寝すぎてさきの戦いのことは忘れたか?」
「たしかに、あなたは強い。でも、どうしてかな。今は負ける気がしないの」
ソフィの強く、まっすぐな瞳が魔王を捉える。
その短い会話ののちすぐに戦いは始まった。
ソフィが一直線にゼクロスに駆け寄り、斬りつける。
「サンシャインスマッシュ!」
ソフィは上段から剣を振り下ろす。
剣が光を帯びているのは、魔法だろうか。
ゼクロスはそれを腕で受け止める。
その一撃は相当な威力だったらしく、ゼクロスが踏ん張っている地面はベコンとへこみ、ゼクロスも顔を少し歪めた。
ソフィは間髪入れずに横なぎを打ち込む。
「スターストライク!」
ゼクロスは、その攻撃も受け止める。だが、ソフィの攻撃は止まらない。
「フェニックスファイア!、ホーリースラッシュ!、ブレイクバースト!!」
ゼクロスは、怒涛の必殺技を受け切れず、
最後の一撃はまともに喰らい、吹き飛ばされる。
そして、どこまで吹き飛んでいく。
おそらく、村の方まで。ソフィはそこを戦場にするつもりなんだ。
満身創痍のおれたちを巻き込まないために。
俺の考えを裏付けるように、ソフィも魔王が飛んでいく軌跡を追って飛んでいった。
「か~~~。相変わらず聞いてて恥ずかしくなるような技名だなぁ」
ザックが言った。
「確かに。少々緊張感に欠けるな。まぁ、あいつらしいが」
ミカエラが笑って言う。
そして、2人が同意を求めようと思ったとき、こちらの異変に気付く。
おれは両手で顔を押さえて、俯いていた。
「どうした?」
「いや、あの技名、全部考えたの俺…です」
それは、幼い日、ソフィに最強の必殺技案としてお披露目した、聞いたら恥ずかしくなるような必殺技のいくつか。
今思えば、ネーミングセンスのかけらもない恥ずかしい技だ。
よく女の子であるソフィにあんなものを見せていたなと思う。
完全に黒歴史の記憶。
それを、ソフィは再現していたのか。
俺の昔の話を聞いていたザックは、事情を察したようだ。
「あ~、何言ってもソフィが技名変えなかったのはそういうわけか。ま、まぁ男ならガキの時に必殺技に憧れるのは分からんでもねぇ。あとでお前の口から言っときな」
どうやら俺は相当ソフィに影響を与えていたようだ。
ザックたちから前々から聞かされてはいたが、そのことがようやく実感となった。
◇
ミカエラが、魔法でザックの治療をする。
左腕を失い、腹を貫かれ、なお先程のような日常のような会話ができていたのは、よく考えたらとんでもないとしか思えなかった。
「レオ殿の傷も決して浅くないはずだ。はやくこっちへ」
治療してくれるということだろう。
だが、俺は首を振りそれを断る。
確かに今も激しく痛むが、まだ辛うじて動ける。
「俺は、行く。行かないといけないんだ」
「行く?その必要はないだろう。足手まといになるだけだ。誰が行っても、な」
「分かってる。それでも見届けたいんだ」
この勝負の決着を。
俺の夢の結末を。
「それがどれだけ危険なことか分かっているのか!?どれだけの規模の戦いになるか、私たちだって想像すらつかないんだぞ」
「危険なことはしない。邪魔にならないように遠くから見るだけだ。それでもし、巻き込まれて死んだとしても構わない」
「しかし」
ミカエラは言葉に詰まる。
反論の言葉を探しているようだった。
確かに危険なことも、人質にとられるようなことがあるかもしれない。
だが、それでも見届けたかった。
そうしないと、前に進めない気がしたから。
「行けよ」
ミカエラが次の言葉を発する前に、ザックが援護してくれる。
「ザック!」
「勘違いすんなよ。俺ぁ、今死にそうなんだ。つきっきりで治してもらわねぇと本当に死んじまう。お前はじゃまなんだよ。レオ」
「ああ、行ってくる。ありがとう」
俺は、すぐに走り出した。
「おい!」
ミカエラの静止を無視して走る。
村までの道は当然分かる。
ハァ、ハァ
息が上がるが、スピードは緩めない。
激しい衝撃音が聞こえてくる。
その音の大きさが、いかに激しい災害のような戦いが行われているのかを物語っていた。
今もソフィは戦ってるんだ。
それを見たい。
森を抜けると、村が見えてくる。
俺は木で身を隠しながら、ソフィとゼクロスの姿を探す。
村の中央辺りにそれを見つけた。
大きな血しぶきが上がる。
丁度決着だったようだ。
魔王ゼクロスが、ソフィの一撃のもと倒れ伏した。
その光景が目について離れない。
「すげぇ」
思わず言葉が口から漏れ出す。
こうして、魔王と勇者の3年に及ぶ長い長い戦いは決着がついた。
「誰かじゃなかったな」
そう、俺たちを救ってくれたのは誰かじゃない。
ソフィだ。
世界を脅かす魔王から人々を救う英雄。
それは俺じゃなかった。
だけど、俺にとっては知らない誰かじゃない。
俺の幼馴染のソフィだった。それだけでどれだけ救われたことだろう。
こんなに嬉しいことがあるだろうか。
確かに俺の夢は叶わなかった。
だけど、その妥協点としては、文句のない、超最高到達地点ではないだろうか。
「は、は、はははははは」
俺は大きく笑った。
距離が離れていたため、ソフィに気づかれることはなかった。
俺は笑い続けた。
嬉しくて仕方なかった。
「やったな。ソフィ」
そうして、俺は、長い長い夢にひと段落つけた。
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