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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第三章 魔窟編(上)
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ナインテール

 アストリア郊外の小高い丘陵。

 そこからは遠く城壁に囲まれたアストリア王都が一望できる。

 その光景を見下ろしながら二人の男が情報を交換していた。


「あと一歩のところで封じられてしまったな」

「……しかし、この程度では冒険者ギルドも犯罪者ギルドも動きませんでしょう? これからどうするのです? 扇動者(アジテーター)さん」

「揺さぶりくらいにはなっただろう……引き際も肝心だ」

「そうですね……」


 そこで扇動者の男は隣の薔薇の男を見遣る。


「大怪我をして寝込んでいると聞いていたが、もう良いのか?」

「いえ、今でも痛いですよ……ですが寝てばかりもいられないでしょう?」

「ふん。ご苦労な事だな」

「ええ。苦労人ですから」

「自分で言うな」


 扇動者の男は呆れるが、同時にその行動力には驚かされていた。


「ハハ。近いうちにより大きな事が起こりそうですよ。私もこの怪我ですし、しばらく様子見です。貴方もここから退避しては? 巻き込まれても知りませんよ」

「具体的に言え」

「暗殺者ギルドが動き出しています」


 扇動者はその言葉に驚くというよりは考えるようにして。


「ついに来るか……ならば忠告に従うとしよう」

「賢明な判断です」


 情報交換を終えると二人は別々の道へと歩き去る。

 去り際に思い出したように薔薇の男は尋ねる。

 

 「ああ、ところでどうしてポニーテール学派だったんですか?」


 扇動者はその問いには答えず、フッと深い笑みを湛えてそのまま去るのだった。


 

 †



 犯罪者達は労役などで処罰され事態は一応の収束へと向かっていた。

 実はナインテールと呼ばれる者も見つかっていた。髪を九本縛ったお婆さんだったが……


 ポニーテール学派とツインテール学派は彼女をありがたがってご神体として崇めることになったらしい。

 その存在意義に疑問を持たれ、苦境に立たされた両学派は手を取り合い、強引なこじつけを行ったのだ。


 曰く「ナインテール様は改心なされて我等を庇護してくださる」だそうな。

 何だかなとは思うが、それで良いならこちらもあえて関わる気はない。

 実際に先のフンババの様な本当に伝説の魔獣が現れたら困るが……


 しかし結局、扇動者は見つからなかった。今は指名手配犯として情報を集めている。

 事件が終息したので見つけるのは難しいだろう。

 その目的は分かっていないが、ただ治安は守られたはずだ。


 この一件は後に一つの寓話を生み出す事になる。

 悪い事をするとツインテールカッターと呼ばれる怪人が現れるというものだ。

 親が子供に言い聞かせるらしい。


「ツインテール滅すべし!」


 夜道にそうして現れた怪人は人を襲う。

 そして強制的にツインテールにした挙句、その片方を刈り取って行くという……

 怖い!? 因みに作者は私です。ええ、酷く疲れていた自覚はあります。


 「次回、ナインテールvsツインテールカッター」

 

 ゆくゆくはダークヒーローものとして子供から大人まで大人気に……


 やはり私は疲れているらしい。


 それはそれとして。


「結局何だったんだ……ああ、酷く時間を無駄にした……」


 多くの疲れを残して私は家へ帰った。


「まさか……私達を疲れさせることが目的じゃないだろうな……」


 それが案外、的を射ているような気がしてならなかった。

 どっと疲れた私はベッドへ倒れ込むように眠りにつく。

 アストリアへ帰還してすぐの事だったので余計に疲れが出たのだろう。

 意識が落ちるように眠っていた。



 その晩、私は夢を見た。

 夢の中でお婆ちゃんが語り掛けてくる。

 なんだかこのところバタバタしていたせいか、ひどく久しぶりな気がする。


「ソニア……お前が頑張ったのは知っているよ。でも少し面倒な事になったねえ……」

「ん? どういうこと?」


 当然、思い当たるのは神様の一角を倒してしまった事だ。フンババの方だ。決して九尾(ナインテール)ではない。


「こっちでも多少の混乱があるのさ。ソニア、しばらくこっちには来るんじゃないよ」

「ええっ! 何で?」

「お前が気にすることじゃない。よくある見解の相違というやつさ。こっちのことは任せておきな」

「うん。わかった。ありがとう」


 夢の中でお婆ちゃんはニッと笑う。


 お婆ちゃんの家が見張られていたりするのだろうか?

 という事は識界に行ったら捕まるのか?

 正直、向こうの状況まで構っていられない。

 今は言われた通りにお婆ちゃんに任せようと思う。


「そうか……しばらく会えないのか……」


 そう思うと寂しい。話題は何でもいいだろう。お婆ちゃんにもう少し付き合ってもらう。


「お婆ちゃんは九尾って知ってる?」

「ああ。あのババアか……何度となく戦ったが、まだ生きてるのかね? こっちに来てないってことはまだしぶとく生きているのだろうね」

「えっ!? ……まさかの本物?」

「ふふ。さあね……それは当人のみぞ知るというやつさ。私が知っているのは、奴は強かったということだけさ。それこそ伝説になるくらいにはね」


 まさかの本物を引き当てるとは……。やりますね……ツインテール学派そしてポニーテール学派……


 しかし、お婆ちゃんはニコニコしている。


「むむ。冗談ですか?」

「さあ、どうだろうね? 気になるならお前がその目で判断しな」

「いや、そこまで興味があるわけでは……というよりもう関わりたくない。とんだ骨折り損だった」

「はは。そういう事もあるさ」


 真相はわからなかった。

 やはり私は疲れていて、話の途中でさらに深い眠りについてしまったのだった……



 †



 某国某所。

 大理石造りの荘厳な聖堂は、まさかその場所が暗殺者ギルドの総本山などとは誰にも悟らせない。

 その奥の間に設えられた神座に座す女は、部下の修道女から報告を聞いていた。


「アストライア様。六剣聖アイリーン様が謀反を起こした模様です」

「やはりそうですか……困ったものですね」

 

 ソニア・ロンド……面識はないがアイリーンの弟子と目される青の書を持つ魔女。

 それが斬れるか斬れないか……それは一つの試金石だった。アイリーンには青の書の回収を命じていたのである。

 かつてのアイリーンなら躊躇(ちゅうちょ)なく斬っていただろう。私はそう育てたはずだった。


「試すような命令は失敗だったかしら?」


 そう言いながらも、女に後悔があるわけではない。


「誰かを向かわせようにもアイリーンが相手では他の六剣聖くらいしか務まらないでしょうし。かといって他の六剣聖は七識の書の捜索に出してますし……」


 何しろアイリーンは私の直弟子(じきでし)だ。そうでなくては困る。


「やはり私が出向くしかないでしょうね……アストリアへ向かいますよ。準備なさい」

「ハッ!」


 命令を受けて報告を行っていた修道女は準備へと向かう。

 それを見下ろしながら女は彼の地へと思いを馳せる。 

 

 アストリア王国……かつてアストリア領と呼ばれた頃から忌々しい土地だ。

 その名の冠するがごとく、そこでは昔から女神アストライアを信奉していた。

「断罪の剣」発祥の地にしてかつての聖地であり、今はその地を追われた因縁の土地だ。

 そう、追われたのだ。冒険者ギルド、そして犯罪者ギルドと呼ばれる二大ギルドによって。


「始祖達の尻拭いは嫌ですが……仕方ありませんね。これも機というものでしょう」


 かつてアイリーンはその二大ギルドへの刺客として送り込まれたはずだった。しかし、その結果がこれだ。


「私の直弟子で最も信頼していましたのに……どこでどう間違ったのかしら? 良いでしょう。もう一度、調教してあげましょう」


 それはそれで面白そうだとアストライアの名を継承した女は歓喜に震える。


 だが、二大ギルドを侮っては過去の繰り返しだ。

 はっきり言って始祖達はやり過ぎたのだ。同じ轍は踏むまい。


「慎重に事を進めねばなりませんね。ついでに青も刈り取りましょうか」


 断罪の剣は静かに動き出した。暗殺者ギルドと呼ばれるように……



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