表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
86/186

地鎮祭

 その村へ到着して皆が療養中のある日の深夜。皆、疲れて寝静まっている。


「ソニア。良く頑張りましたね」


 その声にピクリと目を覚ますと、目が合う。

 ベッドの脇に立つのは黒衣の女性だった……顔は仮面で隠している。

 冷静に考えれば怪しすぎるが、その纏う雰囲気が私を警戒させなかった。

 見舞いに来てくれたのか? とそんなことを考えていた。


「……師匠?」


 その雰囲気から何となくそんなことを思い。確認の為に抱き着くと揉んでおいた。確認のためだ!

 おお! やはりこれは……すばらしい!


「!?」


 その行動に驚いたのか……呆れたのかは仮面越しでは分からなかったが……


「まったく、油断も隙もないですね……眠りなさい(スリープ)


 それからの意識がない……



 †



 あれから数日経ったが、私はそんなことがあったなと今更思い出していた。

 正確に言えばあったような無かったような……だ。

 師匠のはず無いか……アストリアにいるはずだし。それに顔を隠す意味もわからない。

 という事は夢か幻覚だろうか……


「むう。そんなにも師匠に会いたいのか……」


 それはもちろん会いたいです。

 しかし……幻覚を見るほどか……

 そう考えると……そうなんだな! と納得する。

 師匠を水に例えるなら私は今枯れ木寸前……


「み……水を……」


 師匠の愛が枯渇している! 早く帰らねば死んでしまう!


「何をやっているんだ? ソニア……これから重要な会議だぞ……」


 廊下で水を求めている所を、散華ちゃんに見咎められた。


「そうでした。今は耐える時!」


 散華ちゃんは聞かなかった振りをしてさっさと行ってしまった。


 むう。今は耐える時!

 私は散華ちゃんの後を追うのだった……



 村の集会所を借りて国家の重役達が一堂に会している。

 療養中だった皆は全快とは言えないまでも、好調と言えるまでには回復していた。

 アルヴィトが仕切り、話を始める。


「まず、今回の災害において皆様の多大なる尽力に感謝を述べさせていただきます。そしてそれを踏まえて今後の両国の協力体制について話し合いをお願い致します」

「了解した」


 散華ちゃんは了承する。


「ではまず我から先の会合での非礼を詫びると共に、今回の感謝の意として国宝の一つ『風の書』を贈ろう」


 その女王の言葉にアルヴィトは説明を加える。


「補足説明させていただきますと、風の書とは別名『緑の書』と呼ばれるエルフ族の至宝の一つ。今は使い手がおらず聖樹の(ふもと)の祠に安置されています。よってアリシアにはそれを取りに来てもらいたいのです」

「え、私?」


 いきなり話を振られてアリシア先輩は戸惑っている。

 ちらりとこちらを見るが、私は……


 はい「緑の書」見つかりました。アルヴィトさん……国宝ですし、言えないのはわかりますけど……秘密多くない?

 しかもなんだかんだで、療養中だった私はあれから詳しい話を聞いていない。

 そんなことを考えていた。


「貴女が一番適応しそうだとの判断です」


 本の方が使い手を選んだりするのだろうか……するんだろう。

 しかし……そのアリシア先輩は混乱するばかりだった。


「え? でも私だけせっかく戻ったのにまた戻るの?」

「そうですね……ではエリスもついて来なさい。貴女も「紫の書」を使いこなせる様に一緒に修行しましょうか」

「……先生に言われては断れないわね。わかりました」

「そういうことでしっかりと二人を修行させてから、返しますのでよろしくお願いいたします」


 本当に二人は行ったり来たりで忙しいな! でもこれは感謝と友好の印なので無下にはできない。

 と話が決まりかかったところ散華ちゃんが異を唱える。


「いや、そんな大事な物を貰うわけには……」

「散華、ここは両国の友好のためにも貰っておくべきかと……それにあちらにも何やら思惑があるのでしょう」

「姉様がそう仰るなら……わかりました。ありがたく受け取らせていただきます」


 蓮華姉さんのフォローによって、そのまま話は進む。こうしたところはやはり経験の差が出るのだろう。

 ただアリシア先輩はへこんでいた。行ったり来たりになってしまうので仕方ない。

 そして女王は続けるように話す。


「今回の件で我は痛感した。貴殿等の力を甘く見過ぎていたようだ。許してほしい。そして願わくば「黒の書」及びその使い手の捜索に力を貸してもらえないだろうか?」

「それがアストリアの魔窟(ダンジョン)だと?」

「確証はない。しかし今は砕けてしまったが、闇の鎧はあったと聞いた」


 それを一番知っているのは散華ちゃんだ。


「そうですね。わかりました。私も縁がないわけではない。協力しましょう」

「感謝する……」


 女王は深々と礼を取り、その謝意を示した。

 こうして後日、アルフヘイム女王のアストリア訪問が決まった。


 関連して神聖カリス王国とはこれで貸し借りは無しということで落ち着いたことを聞かされた。不測の事態があったとはいえ、もともとがそうした話だったからだ。

 副団長はともかくダンは役に立ってないし、妥当なところだろう。未だダンは見つかっていない。行方不明者の一人だ。


 因みに今回の事件の首謀者は取り逃がしたものの、国外追放として処分してあるらしい。逃げる際に転移系の魔導具を使用したとの事だ。


 転移魔法……それが使える者は少ない。物流を根底から覆しかねないこの魔法は多くの研究者がいるにも関わらず、その再現は困難を極めている。その魔導具となれば相当な希少品だろう。



 重要な会議が終わり、私が部屋で休んでいるとアルヴィトが訪ねて来た。

 私は扉を開けてアルヴィトを部屋へ迎え入れる。


「約束しましたので話をしに来ました」

「ありがとうございます」

「いえ、礼を言うのはこちらです……あら、このやり取りは前にしましたね」

「そうですね」


 そう言いながらアルヴィトが微笑むので私も返した。


「では早速本題に入りましょうか……と言っても、もうほぼ全て私の知っている事は会議で話したようなものですし、聡明な貴女ならもう気付いているかも知れませんが、確認がてら聞いてください」

「わかりました」


 私はアルヴィトの言葉をまるで講義を受けるように真剣に聞いた。


「まず一般に魔法には属性が七つあると言われています。そしてそれに対応する特別な魔導書も七つ。これを総称して『七識(しちしき)の書』と呼びます。それは属性を色で対応させたものです。

 つまり……

 日月火水木金土……一週間のそれです。

 光闇火水風雷土……と対応させています。

 白黒赤青緑紫黄……それを七色で表しています。

 つまり貴女の持つ青の書……もともとの名を「水の書」と言いました」


 なんだと!……蒼炎を使いまくっている青の書がまさかの水の書……


「しかし……それは代々の使い手達によって開発、進化そして変化していきました。水の書がまさか蒼炎などを呼び出すことになるとは、何とも魔女らしい皮肉ですよね」


 そう言ってアルヴィトは微笑む。


 現状をまとめると、その「七識の書」は……


「青の書」は私が持っている。

「紫の書」はアルヴィトから受け取ってエリスが持っている。エリスはアルヴィトへ返そうとしたのだが、貴女が持っていなさいとのことだったそうだ。

「緑の書」はアルフヘイム王都の聖樹の祠にある。贈与されてアリシア先輩が取りに行くことになった。

「黒の書」はアストリアのダンジョンにあるかもしれない。


 ということだ。


「……これは言うべきか迷いましたが、七識の書が集まりつつある現状、いずれ目にするかもしれません」

「何ですか改まって……怖い話ですか?」

「ええ。怖い話です」


 ええっ! やめて! 夜寝られなくなっちゃう!


「『赤の書』それだけは手にしてはなりません。あれは代々の使い手達によって血塗られてしまったのです……」

「それは……」

「私も詳しくはわかりませんでした。ただ、手を出すなとだけは古くからの言い伝えで残っています。ですので、今は忘れてください。いずれそれを目にした時、絶対に手を出してはならないことだけを覚えておいてください」

「……わかりました」


 何やら釈然としないものは残ったが、了承しておく。


 禁忌の書というのは幾つかある。家も魔導書店なので幾つかは扱っているはずだ。それらは店頭へ並ぶことは無いが、厳重に保管してある……はず。

 まさか、家に無いよな……お婆ちゃんからは何も聞いてないし、無いだろうな。


 沈み込んだ空気を払拭するようにアルヴィトは話を切り替えた。


「それはさておき、しばらくの間エリスとアリシアを預かりますが、ちゃんと返しますので安心してください」

「ええ。よろしくお願いします」

「そうですね……代わりの通信役が必要でしょうか? フレイア」

「失礼します」


 呼ばれて入ってきたのは世話になりっぱなしのエルフメイドだった。フレイアというらしい。


「彼女を同行させましょう。こちらからの情報も彼女を通して伝えられるようにしておきます」

「良いのですか?」


 私は二人に聞く。確かにリーヴの街は壊滅状態だが、それゆえに人手は足りないはず……


「はい。よろしくお願いいたします。青の英雄様」


 丁寧にお辞儀するその所作は洗練されている。さすが領主の館に仕えているだけはある。

 うむ。やはりエルフメイドは良い。ご好意には甘えよう!


「よろしくお願いします。それと英雄様はちょっと……ソニアでおねがいします」

「わかりましたソニア様。私のこともフレイアとお呼びください」

「ええ。フレイア」


 私が微笑みながらそう言うと、彼女は丁寧にお辞儀した。お辞儀で隠した顔は少し赤くなっていた。

 そんな初々しいエルフメイドと同行することとなった。


 アルヴィトはそれから言い難いことを話すように申し訳なさそうにして。


「ええと、それで折り入って相談があるのですが……」

「何です? 改まって……」

「実はあれ以来スカディが、出て来ないのです。用意した食事はとっているようですが……」


 結局スカディは領主の館の部屋から出てこなかったらしい。避難したとばかり思っていたが……


「まさか……まだ領主の館にいるんですか? あの崩れかけの?」

「ええ……そのようです。困りましたね。復旧作業に入りたいと言われているのですが……」


 フンババが来たはずだが、あれで出て来ないとは……ある意味凄いな!


「やはり私の責任か……仕方ない。何とか説得を考えましょう」

「ありがとうございます。それではお願いします」


 こうして私はスカディを部屋から出させる案を練ることになった。



 †



 スカディが部屋から出て来ないのはどうやら私のせいらしい……経緯を話して事故とは説明したが……

 納得はしてもらっている。

 ただ、皆一様に微妙な顔をしていたのは否定できない。


 天の岩戸に籠ったという太陽神の如く出て来ないらしい。

 ならば話は簡単だ。

 故事に倣って外で祭りを開けば良いのだ。

 スカディの為に泥祭り、いや地鎮祭だ。これはむしろフンババや、散っていった者達の為でもある。


 私達は廃墟となったリーヴの街へ戻り、領主の館の庭で祭りの準備を始める。

 その際、エルフメイド……フレイアは勝手知ったる様子で大いに活躍してくれた。

 生き残った者、避難した者達にも参加を呼びかけてある。

 そして祭りは始まった。それは戦勝祝いも兼ねて盛大に開かれる事になった。


「なぜだ……」


 散華ちゃんは困惑していた。


「さあ、国王陛下お願いいたします」

「本当にやるのか?」

「はい。お願いします」

「……わかった」


 皆が注視する中、散華ちゃんは広めに作られた浅い泥の中へ入って行く。


「うう……ぬめっとして動きにくい……」


 エルフの吟遊詩人が音楽を奏で始める。

 そしてそれに合わせる様に散華ちゃんは東方から伝わる先祖伝来の舞を舞った。


「……美しい」


 そう言ってキラキラした瞳で見つめているのは蓮華姉さんだ。

 泥が跳ねて泥まみれなんですけど……蓮華姉さんの目には何か補正がかかっているに違いない……


「王妃もよろしければどうぞ」

「……ええ。そうね」


 散華ちゃんに続いて、蓮華姉さんも加わる。


「うむ。確かになんだか美しい気がしてきた……それに楽しそうだな」


 下が泥なのはスカディの為なのだ! 泥は怖くない、安心して出てこいというメッセージだ。


「アストリア王だけ踊らせるわけにも行くまい。我も参加しよう」

「陛下が踊られるなら私も……」

「仕方ないですね……」


 それに感化されたのか、女王陛下が加わると続いてブリュンヒルデ、アルヴィトも続いた。

 他のエルフ達は泥に入るのが嫌そうで少し遠巻きに見ていたのだが、女王が動いた事で皆が参加しだす。

 そして皆が泥の中、円を回る様に踊る。


 そしてついに……


「馬鹿にしてんのかー!!」


 スカディはたいそうご立腹で部屋から出てきました。


「あれぇ?」


 むう、予想外の展開……そうきたか……


「出てきたし問題ないな!」

「あるわ!」


 そうして泥まみれになりながらも、踊りかかって来るスカディから逃げながら泥を飛ばし続けてやりました。

 お陰で皆が泥まみれになったのはスカディのせいだ。

 私のせいではない。断じて違う!


 踊り終えると女王の命令で、幕が張られ簡易の更衣室が出来上がる。

 泥は水魔法で流して、服は火で乾かしました。

 着替え中、やはりエルフ達はええのう……と見ていたら不審がられたのでほどほどにしておきました。


 その後、フレイア達によって用意された食事が振る舞われ、吟遊詩人が唄いその日は大盛況となった。

 この泥祭りはリーヴの街復興後も続くことになるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ