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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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あべこべ

「まだ人形遊びなんてしているの? ……気持ち悪い」


 そんな言葉を聞いたのは、直接だったか間接だったかかもはや覚えてはいない。

 さして仲良くも無かったのだろう。そんな今では顔すら覚えていない子の言葉だ。


 ただ私はそのきっかけで大事にしていた人形を捨ててしまったのだと思う。

 その子のせいにするつもりはない。私も子供で未熟だったのだ。

 ふとした時にそれを想う。


 あれは……本当に捨てるべきだったのか?

 人形はともかく、私は本当に大切な何かを捨ててしまったのではないだろうか?


 他の誰かは「そうやって皆が成長して行くんだ……」などと本当かどうかもわからないことを言った。


 なので「皆がそんな成長したら逆に怖いわ!」と反抗してしまいました。

 若気の至りです。

 それを聞いて悲しそうにしていたので、それはもしかしたら父親だったかもしれない……


 それはそれとして。

 ただその件で私が失敗を犯したと確信している事が一つある。


 それは周りに合わせてしまったことだ。

 協調が悪いと言っているのではない。


 本当に大切なものだけはそれをしてはならない。


 そう思うのだ。



 †



 何故かそんな昔の夢を私は見た……


「あれ、泣いてたのかな……」


 目から一筋の涙がこぼれ落ちていた。

 それを袖で拭うと、ベッドから起き上がるように手を伸ばす。


 ムニッとした手触りと共に隣を見るとエリスが眠っていた。


 んん?


 取り敢えず揉んでおくが、あまり反応がない……まるで屍のようだ……

 とは思ったが息はしているので本当に疲れて寝ているのだろう。


 反対側にはアリシア先輩が寝ている。取り敢えず揉んでおく。

 確認のためだ。他意はない……ないったらない!


 二人を揉みながら自身の体調も確認する。

 私も完全には疲れが取れていないらしい。気怠(けだる)さが残っていた。


「んん……」


 そんな事をしていると、どちらともなくそう声がした。

 私はビクッ……として言い訳をするように。


「うん。起こしたら悪いしな……」


 疲れて泥のように眠る二人だったので、気を遣う。

 周りを見ると二人と同様にやはり疲れて死んだように眠る美女エルフ達。


「どうやら、私は天国へ来てしまったらしいな……だが悪くない」


 むしろ最高です! これがハーレムかッ!


「皆で天国へ……そんなわけないか……」


 おそらく部屋が足りなかったのだろう。

 見てみると、その部屋の一角は流されたのか、吹き飛んだのか……天井から月が見えていた。

 青白い光が煌々と辺りを照らしている。

 無残に転がった調度品からはそこが領主の館の一室だとわかった。


 心地良い手触りを惜しみつつもベッドを抜け出し、窓へ近づいて眼下を覗く。

 そこからは街が一望できた。

 月明かりに照らされて見えるのは街であったらしい廃墟だったが……


 今も避難した皆はテントやら野宿で眠っているのだろうか。

 勝ちはした。運命には抗った。

 しかし、散っていった者も多い。

 残ったのはあまりに喜べない現状だった……


「神を相手にもっとと……そう望んでしまうのは贅沢過ぎるだろうか……」


 もっと上手くやれたのでは? そう思ってしまうのは……冒涜(ぼうとく)なのだろうか……


「起きられたのですね。青の英雄様」


 窓から外を見ながらそんなことを考えていると、部屋へ入って来た者にそう声をかけられる。


「それは私のことだろうか? 君は……」


 それはここに来ていろいろと世話になったエルフメイドだった。


「皆さまのお世話をするように言付かっております。どうぞ何なりとお申し付けくださいませ」

「ああ。うん。ありがとう」

「お礼を申し上げるのはこちらの方です。街は残念でしたが、避難した皆は無事でした」

「そう……」


 それに良かったと応えてしまうのは、あまりに軽率に思えたので言葉が続かない……


「そんなに気にやまないでください。私達は無事なのですから」


 それはそんな私を気遣うような言葉だった。

 本当にエルフ達のプライドには頭が下がる思いだ。

 きっと何が本当に大切なのか彼女達は知っているのだろう。


「やっぱりこう言ってしまうな……ありがとう」

「ふふ。それはおかしいですよ。あべこべです」


 そう言ってエルフメイドは笑った。

 つられて私も笑う。


 私はこの笑顔は守れたのかなと思うのだった。



 †



 やりやがった……やり遂げやがった……

 あいつに負けを認めるなんて死んでも嫌ではあるが……


 スクルドはかつて見た絶望的な未来予知が、今は見えないことに驚き動揺していた。

 姉たちはそんなスクルドを心配しながらも、重要なことは確認しなくてはならない。


「それでスクルド、もう危機は去ったのですか?」


 ウルドの問いにどう答えるべきか……悩みながらも。


「今は……見えない」


 スクルドはそう口にするのだった。


「そうですか! すぐに報告して参ります」

「やったね!」


 ウルドとヴェルザンディはそそくさとその部屋を出て行った。


「むう……当たらないなら当たらないで、それは無能ということに……」


 スクルドはこれまでに無く複雑な心境だった。


「何にしろ例外はあるか……」


 そう自身を納得させた。何より悪い気分ではなかったのだ。


「むしろ、私が手伝ったおかげとも言えるしな……」


 スクルドは少しだけ、前向きに考えることができるようになっていた。



 †



 一晩休み、少し体力に余裕ができると私達は被害の無かった近隣の村へと移送された。

 壊滅状態のリーヴの街では充分な休息が取れないとの判断だ。

 これには避難など後方支援をしていた審判団の副団長が大いに働いてくれた。


 ただ、未だにダンは見つかっていないらしい。だが、この状況ではそうした者達も多い。

 奴が死んだなどとはどうしても思えないが、悪い奴では無かった……ご冥福をお祈り申し上げます。


 怪我や呪いなどで倒れた者達の治療と体力、魔力の回復を図る。

 死の息を浴びた者達はブリュンヒルデと同様に数日の拘束を余儀なくされていた。


 双樹氏、散華ちゃん、蓮華姉さん、藤乃、ツヴェルフさんを見舞う。

 ツヴェルフさんは大丈夫そうだったが、他の皆は辛そうにしていた。

 とは言え自動人形のツヴェルフさんはここでは詳しい状態がわからないので、アストリアへ帰ってから教授に見てもらうしかない。


 特に気になったのは散華ちゃんの落ち込み様が酷い……。私には表面的には見せないが、強がっているのは明白だった。

 ただ、今無理に話をして倒れられても困るので蓮華姉さんに任せる事にした。アイコンタクトで蓮華姉さんが頷いてくれる。


 かくして、私も万全とは言えないまでも次第に調子を戻していた。

 本調子では無い私達を甲斐甲斐しく世話をしてくれたエルフメイドのおかげでもある。

 ただ、英雄様と呼ばれると激しい違和感に襲われるのだったが……


 壊滅状態にあったリーヴの街は領主主導の許、復興の準備が進められている。

 それはゼロからの作り直しというよりも瓦礫などのせいでマイナスからの作り直しだった。

 魔法や魔導具を駆使して急ピッチで進められているが、元の姿に戻るには数年はかかりそうだとの話だった。

 だが、女王陛下が王都からも支援を送るように指示していたので大丈夫だろう。


 その後、街の廃墟に鎮座ましましていたフンババの遺骸は解体され、商業ギルドへ売られて今回の報奨金として分配された。

 その際、簡易な祭壇が設けられ犠牲者の追悼と共に大地母神への祀りが執り行われた。アルヴィトの話ではこれによってフンババの復活はかなり先へと送られるらしい。


 こうしてアルフヘイム王国は今回の件で大変な痛手を被ったが、いずれは起きていたであろう災害ということで認識されることとなった。

 この件によってアルフヘイム王国とアストリア王国は今一度の会合を求められているが、両国の王が不調の今、回復を待つ状況である。



 †



「……私を女神と呼ぶなッ!!」


 散華は何かから逃げるようにガバッと起き上がると、周囲の景色を認識した。

 そこは領主の館とは比べられないが、他国の王という事で割と豪華な一室を用意してくれていた。


「……夢か」


 荒い息を吐き出しながら、乱れた呼吸を整える。

 その背には嫌な汗が伝っていた。


 それは呪いの様に散華を苦しめる。


 巨獣が倒された時、散華は自身も死の息に倒れながらもそれと目が合った。

 その目は訴える様に……非難するように……

 そして声が聞こえた。


「何故だ? 女神よ……何故そちら側の味方をする? 世界の破壊者達の味方をする? 応えよ!」


 それは巨獣の断末魔の叫びだった。無念の叫びだった。


「お前も私を女神と呼ぶのか……」


 かつて散華をそう呼んだデュラハンも今はいない……


 それは呪いとなって散華を苦しめる。


「散華……」

「姉様!? 起きていたのですか? というより何故私のベッドに……」

「そんなことは夫婦にはよくあることです。そんなことよりも少し話をしましょう」

「いろいろぶっ飛びすぎてて、理解不能ですが……わかりました」


 姉様の言っていることは理解不能だが、とりあえず心配してくれていることは分かった。

 私が聞く姿勢を取ると姉様は話を切り出す。


「わたくしもこうした身の上ですから神のことは調べた事があります。そして知ったのは、言うなれば神というのは世界の柱です。人で言うなら背骨でしょうか?」


 いまいち要領を得ない丁寧な説明に、散華は混乱しながら聞いていた。


「単体で世界を滅ぼしてしまうような存在には当然ですが、創世神の遺した力で制限が課せられています。自分達が作ったものを自分達で壊してしまわないためにです。化身という条件もその一つ。ともあれそうした存在ですので基本的に接触は厳禁とされています」

「それが……何か?」


 なぜ今そんな話をと、思わずにはいられない散華だったが……蓮華は続ける。


「全能たる神の訴えを、人が聞くのはあべこべだということです」

「!? それは……姉様にも聞こえていたのですか!?」


 それは散華を驚かせた。


「はて、当然でしょう? わたくしと散華は一心同体なのですから」


 何をおかしな事を言っているんだと言わんばかりの蓮華の態度に、悩んでいる自分が滑稽に見える散華だった。


「全く……姉様には敵いませんね」

「貴女は優しすぎるのですよ」

「そうでしょうか……」

「ですが……貴女はそれで良いのです」

「姉様……」


 悩みは完全に解決したわけでは無かったが、今は少し余裕が取り戻せた散華だった。

 何より強い味方がいるのだ。



 そして、二人は互いに見つめ合い……


「……ソニア。何でそんなところでじっと見ているんだ」

「むッ……バレたか……どうぞお構いなく」

「構うわ!」


 ソニアが部屋の扉の隙間から中を窺っていた。

 そこからは不気味に目だけ覗かせている……怖いわ!


 まったく……こいつは何をやっているのだろう。

 今やこの国では称えられるほどの英雄だというのに。


「何だか差をつけられた気分だな……」

「何を言っているのかわかりませんが……さっさとイチャイチャすれば良いじゃない!」

「しないわ!」


 目だけを覗かせながら拗ねたように言うソニアにそう返答すると、逆に姉様が拗ねていたという……


「一体、何が正解なんだ……」


 散華の悩みは尽きないのだった……



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