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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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サバイバル(十二)

「一言で言い現わすなら……あれは神です」


 アルヴィトの言葉に皆一様に息を呑む。それを先に知らされていた者にとっても、違いは無い。

 自らも慎重に言葉を選ぶようにしてアルヴィトは続けた。


「昔は自然神とも古代神とも呼ばれていたようです。神々がこの世界に力を及ぼす時、その力の一端を顕現させます。その存在を化身(けしん)と言いますが、彼の巨獣は大地母神キュベレの化身。伝承では大地母神の七つの鎧の一つ……その咆哮は洪水。その口は火。その息は死。その名をフンババ」


 フンババ……ついに来たか……神が……


 かつて私達は模造女神と呼ばれる存在と戦った。今はその力を失いアイリスと呼ばれている少女だ。

 模造女神と呼ばれるからには必然、女神の研究を行っていたことになる。

 大昔の人はなぜそんな研究を? と思っていたが今、その一端を垣間見た気がした。

 大地母神キュベレ……代表的な女神の中の女神だ。


「今は対応策を講じています。これは世界の危機です。申し訳ございませんがアストリア王国の方々も参加をお願いします」

「分かっている。この件に関して全面的な協力を約束しよう」

「ありがとうございます」


 散華ちゃんが代表して答える。

 そう、この非常時に政治的な取引など愚の骨頂。そんな事をしている間にも危機は迫っているのだ。

 こうしたところで王の器というものが知れる。


「散華ちゃん! いえ、アストリア王。一生ついて行きます!」

「ソニア……茶化すな。非常時だぞ」

「そうですよ。私が一生ついて行きますのでソニアは自由になさい」

「姉様……そう言う意味ではないのですが……」


 ぬう。褒めたつもりが、何故か怒られた。

 まあ、それはどうでもいい。そんなことより蓮華姉さんに対する散華ちゃんの抵抗がいつもより弱い気がする。

 アルヴィトを真似て一言で言い現わすなら……イチャイチャしておる!


「馬鹿な……散華ちゃんが落ちただと……あの冷淡な散華ちゃんが……私には全く靡かない散華ちゃんが」

「誰が冷淡だ。それに落ちてもいない!」


 散華ちゃんは真っ赤になって否定するが、私は計り知れない衝撃を受けていた。

 衝撃のあまりに周りの将軍達が引いているのさえ目に入らない。


 蓮華姉さん……一体どんな手を使ったんだ!


 ああ……もう神とかどうでもいい……


 ……良くないか。私はクール美少女。衝撃は受けても冷静な判断を下すのが信条。

 あれは放置できない怪物だ。

 私はクール美少女。そう三回唱えると私は衝撃から帰って来た。


「そう。今は早急に対策を決めなくてはならないのです」

「オホン。ああ……その通りだ」


 その私の自分に言い聞かせるような言葉に一つ咳払いをして、散華ちゃんが賛同する。


 うむん? 私の勘違いだったか……?

 その時にはいつも通りの雰囲気に戻っていた。


「私が言うのも気が引けますが……神聖カリス王国としても微力ながら手伝わせていただきます。ダン団長も探さなくてはなりませんし」


 そこまで話を聞いていた審判団の副団長が協力を申し出た。

 彼女は自分の地位で、申し出て良い話かどうか迷っていたのだろう。

 申し出ない方が不利益と判断した辺りはなかなか見どころがある。


 んん? そう言えば、言われて気づいたがダンは何処へ行ったんだ?

 この非常時に居ないとは……全く役に立たない奴だ。この副団長を見習って欲しい。


 他にも領主と女王が、対応について話合っていた。そこにこの街の冒険者ギルド長も話に加わっていた。

 そうして急遽結成された連合軍は急ぎつつも、重要なことを見落とさないように対策を話し合っていった。



 †



「困りましたね。どうしましょうか……」

「姉さん、無理に引き出しても戦力にはならないと思うよ」


 ウルドは困り果てていた。ヴェルザンディの言うことはもっともだ。

 だが、この事態に至ってはそうも言っていられない。


「戦力にならないのはともかく、そうであるなら尚のこと避難しなくてはなりません」

「そうなんだけどね。難しいと思う」


 スクルドは敗北で落ち込んだのか部屋から出て来ない。

 そればかりかスカディまで落ち込んで? 部屋から出て来ない。


「……仕方ありませんね。もうしばらく様子をみましょうか。ですが本当に危なくなったらヴェルザンディ、分かっていますね?」

「うん。力づくでも引っ張り出すよ」


 その答えに満足したのかウルドは頷く。


「では私達だけで行きましょう。人手はいくらあっても足りないのですから」


 説得を諦めたウルドとヴェルザンディは女王の許へと向かおうとした時、その扉は開いた。


「スクルド!」


 二人は驚きながらも駆け寄ると……


「……未来を見た。絶望的な未来を」


 顔を青ざめさせて部屋から出てきたスクルドは口を開くやいなやそう言った。


「!!」


 ウルドとヴェルザンディは驚きと共に意思を確認し合う。

 普段全く未来を語りたがらない妹が、自ら進言したのだ。

 つまりそれは妹でさえ言わずに留めては置けないと判断するほどの異常事態だった。



 †



 対策を講じるのも重要だが、まず今の状況を確認しなくては話にならない。


 ここは、前に一度来た領主の館だったらしい。どおりで調度品などが一段と豪華だと思った。

 とはいえ、今は緊急事態で前線基地の様相を呈している。そんなところに目を向けている暇は無い。


 街には一応、森から出現する一般的な魔物を警戒するための設備は整っているが、アレはそれで足りるレベルではないことは明白だった。


 他にブリュンヒルデの状態がよろしくない。どうやら伝承で言うところの死の息を浴びたらしい。

 死の息……ブリュンヒルデの症状から見るに火山性の毒ガスのようなものらしい。なるほど自然神と言われるだけある。ただそこに呪いらしきものが混ざっていたというから一筋縄ではいかないらしい。

 アルヴィトと女王のおかげで一命はとりとめたが、絶対安静の状態だった。今は病室で寝かせている。


 他にスカディとスクルドが敗戦で落ち込んで部屋から出て来ないらしい。今はそんな場合ではないのだが……主に私のせいなのは否定できない。


 蓮華姉さん、藤乃、ツヴェルフさんはかなり無理をしている。これ以上の無理はさせたくないが、そうも言ってはいられない。今は散華ちゃん、アストリア王の護りに戻っている。


 アラネアは寝込んでしまった。このところ働きすぎだったのに加え、私が無理をさせてしまったせいだ。

 しかし、アラネアは本当によくやってくれた。今なお、これだけの時間が稼げているのは彼女の張った罠のおかげに違いなかった。


 女王とアルヴィト、ゲンドゥル、ウルド、ヴェルザンディ、ミストのアルフヘイム軍に加えてアリシア、エリスはここを拠点に大魔法の準備をしている。

 エルフ族に伝わる強力な古代魔法(エンシェントマジック)らしい。手伝おうかと言ったら、門外不出とのことで断られた。というよりそれに関連して私には足止めをお願いされている。


 双樹氏は軍と傭兵と冒険者ギルドの集めた猛者達を引き連れて守備隊を編成している。今頃は外壁近くで布陣しているだろう。


 私も本調子ではない。本気のゴーレムが敗れたからだ。

 しかも魔石核が砕かれてしまった。お婆ちゃんの遺したガラクタだったが、それゆえに結構な希少品だったらしい。


 当然だが街の店は閉まり、避難を余儀なくされている。こんな状況下では代わりが見つからない。

 つまりはあのクラスのゴーレムは出せない。他の魔法で対処せざるを得ないのだが、あの大きさに通じるかどうか……

 なので今はもう少し休ませてもらおう。少しでも魔力の回復を図らなくてはならない。


「悪いけど、そういう事だから後をお願い」

「了解しました。ごゆっくりお休みください」

「任せるニャ。ご主人様が休む時間くらい稼いでやるニャ」


 早々に退場したリリスとクロの二人はわりと元気だった。

 といっても互いに独自魔法を打ち合ったので絶好調では無いのだろうが……

 この二人は私のサポートだ。


 皆の疲労が気になるところだった。

 はっきり言って状況はあまり良くない。

 私は後のことを二人に任せてしばらくの仮眠をとった。



 †



 結論を先に言ってしまえばリーヴの街は壊滅した。

 私達は連敗に次ぐ連敗で疲弊しきっている。

 もはや誰が亡くなったとかそうしたものは意識的に除外している。

 それを考えると気がふれてしまうから。


 巨獣はその進路を王都アルフヘイムへと変えている。

 人の集まるところを鋭敏に察知している様子だ。

 村々を焼き払い、踏みつぶし、洪水を起こし流し去る。

 それは天災もかくやという有様だった。


 敗戦のため私達はそれを追いかける形になってしまっている。

 遠距離通信で連絡をいれて、王都の防備を整えさせてはいるが、残存兵力は人を相手に想定したものだ。

 神の一端を担う者が相手では心もとない。


 数日後その懸念は現実のものとなる。

 私達が追いついた頃には街は焼け落ち、煤や灰が舞っていた。

 破壊の爪痕は大きく、しかし巨獣は何処へともなく去っていた。

 アルフヘイム王都もまた壊滅したのだ。


 すぐさま救助隊が編成され、助け出された者も大勢いたが亡くなった者はさらに多かった。

 助け出された者達はその恐怖から王都を離れざるをえなかった。


 ここにきて女王は一つの決断を下す。

 この土地を去るという決断を。

 ここにいてはいつまた巨獣が現れるかわからないからだ。

 今は各国の庇護の許、エルフ族は難民として散り散りになっている。

 この一件をもってアルフヘイム王国は事実上滅亡した。



 †



「……という予知を見ました」

「何だ予知夢みたいなものか……」


 驚かせおって! 迫真の演技だったじゃないか!

 これが夢落ちというものか……予知夢落ち?


 今は私が少し休んだ後、もう一度集合がかかったのだ。それはスクルドの未来予知を聞くためだった。

 安心したように言った私の言葉でスクルドに睨まれるが、それを咎める者はいない。

 スクルドの話を皆で聞いていたのだが、皆その顔は暗いものになっていたからだ。


 いや、わかっている。

 この予知は当たる。

 皆がそう感じているからこそ、真に迫るものがあったのだ。


「確かに今のままではそうなるでしょう。ならばその未来は変えなくてはなりませんね」


 誰かが言った。でもこれは皆の総意だった。

 ただ一人を除いて。


「未来が変えられるものか……」


 スクルドは平常運航だな。


「私には負けたけどね……」


 つい口走ってしまった。

 あまり皆が暗い顔をしていたので明るい材料になればと思っただけで、別にスクルドを否定したいわけじゃなかったが……


「あれは……見えなかっただけだ! 今度はしっかり見えている!」

「はいはい」

「お前!!」


 あわわ……私はスクルドに凄く睨まれる。

 スクルドを怒らせたいわけじゃなく下がる士気を盛り上げようとの意図だったのだが、どうにか汲み取ってもらえないものだろうか……

 そこで助けが入るようにアルフヘイム女王陛下が一言を発した。


「未来が見えようが見えなかろうが、我等のやる事は同じだ」

「確かに……そうですね。その未来は否定されなくてはなりません」


 女王にアルヴィトが賛同する。


「それに神を超えるんです。そしたら未来くらい変わりますよ」


 その言葉に皆がやる気になった。

 確かに言われてみればその通りだと思わせるものがあった。さすがは女王とアルヴィト……

 そうなのだ。そうなるというなら尚の事、それに抗わなくてはならない。


「お前達……」


 スクルドは驚いていた。

 スクルドとしても当たって欲しいわけじゃないのだろう。

 ただ諦めているだけなのだ。


「ならば見せつけてやらねばなるまい。格の違いというやつを!」

「ご主人様……何言ってるんだニャ?」


 乗っかるように言った私の決意は、クロには伝わらなかったようでした。

 はい……アルヴィトと女王陛下が格好良かったのでおこぼれに預かろうとしただけです。



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