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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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サバイバル(五)

 蓮華とソニアを追った二人、双樹とブリュンヒルデは追跡を諦め本隊と合流していた。


「蜘蛛の巣が多いな……敵の罠か?」

「そのようです。ミスト将軍が目印を付けてくれた様子ですが……取り払われたものもあります」

「おかげで取り逃がしてしまった」

「深追いしなくて、正解でしょう。分断される恐れがあります」


 どこか耐えるように話すブリュンヒルデに、双樹が答えていた。

 その二人を先頭にアルフヘイム側の本隊は罠を警戒しながら進んで行く。


 そこで魔が差したと言わざるを得ないだろう。

 少しだけ罠にかかれば負けたことにして帰れるのでは? と思ってしまった者がいた。

 そしてその誘惑にかかってしまった占い師姿のダークエルフの美女、ゲンドゥルはそれを実行に移した。

 左手を少しだけ罠に触れさせてみる。


「あら? ちょっと引っかかってしまったわ……これでは負けかしら……」


 そう言いながら、少し大袈裟に身振りを加えて訴えかける。


「ククッ……ドジっ子が!」


 それに反応したのは神官三姉妹の三女、スクルドだった。

 見た目はお人形さんのように可愛らしいが、大した毒の吐きようだ。


「コラ、失礼ですよ。ドジっ子にドジっ子と言ってはなりません!」


 スクルドが嗤って言ったのを聞いて長女、ウルドが諭している。傷をさらに抉っているのは自覚が無いようだ。この美女は真面目で、わざとやっているわけではないのだ。

 ウルドに対してスクルドは良くやったとサムズアップしているが、ウルドは意味が分からないと首をふっていた。

 さすがに苛立ってゲンドゥルは先の考えが吹き飛んだ。


「何ですって! こんなもの直ぐに焼き払ってやるわ!」


 激昂したゲンドゥルはそう言うと、今度は謎の騎士Mに咎められた。


「貴様……森を焼く気か?」

「ヒィッ! ……ごめんなさい。焼きません!!」

「ふん。さっさと脱出しろ……行くぞ」

「わかったわよ……」


 仮面越しからでも伝わる迫力に思わず謝罪するしかなかった。

 一体何者なのだろうか? 神官三姉妹も知らない様子だ。

 知っていそうなのはこの中ではブリュンヒルデくらいだろう。双樹はどうだろうか?


 それにしてもあの声はどこかで聞いた事があるような……どこだったかしら……


 そんなことを考えているうちに一行は進んで行ってしまった……ゲンドゥルを残して。


「あれ……抜けないッ!?……何これ、頑丈すぎない? あっ……待って……置いてかないで!」


 嘘でしょう!? 少し触れさせただけなのに!……と驚愕する。

 焦ったゲンドゥルは短剣を取り出して突き立てるが、それは魔導士如きの力では切れる事は無かった。


「防刃性能まで……焼くしかないか……少しだけなら大丈夫よね」


 魔法で少しだけ火炎を起こして当ててみる。

 すぐに火が消えてしまった。


「……ミストッ!!」


 その蜘蛛の巣は霧のせいで湿っていたのだ……


「いや、落ち着くのよゲンドゥル……私はドジっ子じゃない……大丈夫。そうよ。これなら燃え広がる事は無いわ。あとは乾いた場所だけ切り離せば良いのだから」


 乾いて火が付くまで火炎を当て続ける。根気のいる作業だ。

 皆はもう行ってしまった。後から来るとでも思っているのだろう。


「ここで負けを認めれば帰れる……しかし、その場合私のプライドが……」


 負けを認めればダン達、審判団が助けてくれるだろう。

 しかし、頭の中で先ほどスクルドに言われた「ドジっ子が!」という言葉がリフレインする。


「あの三女、性格ねじ曲がってるからな……私が言うのもアレだけど」


 長女はしっかりしていて、口うるさいだけだ。次女は中間管理職だ。大抵の場合あの三女が問題を起こす。

 未来が見えるとかのせいで相当なひねくれ者に育っている。


 私もそれなりには天邪鬼な自覚があるが奴ほどではない。

 このままだと何を言われるか分かったものでは無い。


「ここで降りたら、ドジっ子認定確実じゃないの……」


 それは許せんとばかりに慎重にだが、確実に左手に絡まった糸を燃やしていく……

 そして時間をかけてついに。


「やった! どうだ! 見たか! このゲンドゥル様を舐めんじゃないわよ!」


 左手が自由になったのだ!


 そして先に行った仲間を追いかけようと踏み出した。


「あ!?」


 動けなかった。

 左ひじを見てみるとそこに糸が絡まっていた……それはどうやら背中まで達している様だ。引っ張られるがあるような感覚がある。

 左手に集中するあまり、他が疎かになってしまったのだ……


「しかも背中とか難易度上がりすぎよ……」


 背中を確かめるべく、そっと右手を回してみる。


 ぺた、と嫌な感触がした。


「……終わった」


 背中へ回した右手がくっついていた。


 ゲンドゥルはあっさりと諦めた。

 何より背中で右手が固定されてちょっと恥ずかしい格好になっている!


 これでは最後の手段であった服の方を切るも使えない。

 大火力で燃やす? 山火事になって自分が死ぬわ!


 元々が乗り気ではない。適当に戦って帰るつもりだった。

 こんな負け方は嫌ではあるが……万策尽きた。


「認めざるを得ないようだな……私はドジっ子であると!」


 潔さは美徳だ。

 自分を納得させる様にゲンドゥルは負けを認めた。


 だが、ゲンドゥルは知らなかったのだ。

 それはたかが蜘蛛の巣と侮った者を確実に仕留めるアラネアの罠なのだ。

 この程度なら簡単に取れそうと思った時点で負けていたことに誰も気づかない。

 それは一つの芸術品。アラネアが完璧に仕上げると言ったことはそういうことだった。


 そしてそれは助けに入った審判団も例外ではなく、盛大な二次被害を起こしてちょっとした惨事となった。

 皆がどうにか抜け出して街へ帰った頃には妙な連帯感が生まれていた程だった。



 †



 一方、その罠の危険性に気づいた猛者たちもいる。


「ゲンドゥルさん、追って来ませんが……助けに行った方が良いのでは?」

「あれはあれで良い。今回のことも少しは苦い薬になるだろう」

「そうですか」


 それを提案した双樹は、騎士Mの言葉に納得して引き下がった。これは先を見てのことだろう。

 助ける事は可能だ。しかし、それでは今後同じことをしかねない。それはどちらの為にもならない。

 あれは自業自得だった。猛者たちの目は節穴ではない。


 双樹は正直なところ同じ王でもこうも違うものかと舌を巻かざるを得なかった。

 否、既に奴は王位を剥奪され犯罪者として処刑された。それはもはや王では無い。

 ただ、それは双樹にも王を止められなかった罪があると自覚させるものでもあった。


「できれば貴女のような方に仕えたかったものです」


 双樹の深い悔恨の想いと共に、それは自然と口から出ていた。


「何の事かな? 私はただの騎士だが?」

「ああ、そうでしたね」


 どうやらまだしばらく隠しておくらしい。納得して笑うと双樹は前衛へ戻る。

 先の戦乱は起こるべくして起こった。帰らぬ者も大勢いる。その罪が自身に無いわけではない。


「今は罪人(つみびと)としてアルフヘイムへ尽力しよう」


 そう悲壮な覚悟で双樹はこの戦いに臨むのだった……



 †



 罠を抜けて本陣へたどり着いた私達はすぐに散華ちゃん達に状況を話して臨戦態勢に移る。

 私は後衛に陣取りさらに後ろのアラネアを守る。

 その私達を守るようにツヴェルフさん。

 前衛が散華ちゃんと蓮華姉さん、その二人を守るように藤乃。という配置だ。


 正直なところバランスが悪くなってしまった感は否めない。

 しかしながら他の中、後衛達が倒されてしまったのだから仕方ない。二人の自爆はさすがに想定外だったが……


 そうして待つと、ほどなくして敵の本隊がやって来た。

 やはりブリュンヒルデと双樹氏を筆頭にその後ろに神官三姉妹。そして最奥に謎の騎士M。


「ん……一人いないな」


 すぐに気づいた。たしか宮廷魔術師のゲンドゥルがいない。逃げる前まではいたはずだ。

 伏兵か? いや、一人の伏兵って意味あるのか? そう考えると何かしらあったと考えるのが妥当か?

 分からないが、いないなら好都合だ。これで六対六だ。


 アラネアは工作兵なので戦力としては微妙だが、その分これまで十分に助けられた。

 それほど悪い状況でもないはずだ。


 私達は互いに対峙し認め合うと、戦闘の幕は切って落とされた。



 †



 リーヴの街の酒場。

 這う這うの体で帰り着いたゲンドゥル一行はそれを労うために酒場に集まっていた。


「お前等、今日はゲンドゥル姐さんのおごりだ! 感謝しろ!」

「姐さんありがとうございます!」

「いいのよ。今日は皆大変だったわね。皆のおかげで私はドジっ子じゃないことが証明されたわ」

「そうですよ。あんな強力な罠、見たことありませんよ。まあ、それは抜きにしても姐さんはドジっ子ですけどね。ワハハ!」

「アハハ! ブッ飛ばすわよ! でも油断するものじゃないわね……これじゃあ薔薇にも何を言われるか……」


 そこでゲンドゥルは中間管理職という言葉と共に神官三姉妹のヴェルザンディを思い出す。

 実際苦労しているのだろうが、それを微塵にも感じさせないのは凄いと思う。


 そして自身を振り返ると笑えなかった。結局自分も同じだ。

 どちら側にも味方して、どちら側にも味方しない。

 しかし、そこを女王陛下は認めてくださっている。


「……? 姐さん、何の話ですかい?」

「何でもないわよ! さあ、嫌な事は忘れて飲むわよ!」

「おお!!」


 酒場は大いに盛り上がっていた。

 ただゲンドゥルのドジっ子認定は取り消される事は無かった。



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