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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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サバイバル(二)

 倒れたクロとリリスはダン率いる審判団達によって街まで運ばれて行った。

「まさか……いきなりの自爆とは」とダン達も驚いていた。

 私も頭を抱える大失態だ。

 しかし、悔やんでばかりもいられない。さて、となるとどうするか……


「この場は駄目だろうな……」


 流石にあんな大技を放ってしまっては、敵に気づかれただろう。

 罠を張るには相応しくない。


「いや、逆に寄って来る場合もあるか? しかしそうなると時間が……とりあえず散華ちゃん達に連絡だけはしておくか」


 私はいつもの通信用の魔道具を耳にした。

 すぐに繋がると、私はクロとリリスの経緯(いきさつ)を話した。止められなかった謝罪も。


「そうか……まあ、起きてしまったことは仕方ない。ならばそれを踏まえて行動するのみだ」

「うん。そういうことでよろしく」


 そうして通信を終えると、丁度、偵察に出ていた二人が戻って来た。

 エリスとアリシア先輩だ。二人にも説明が必要だろう。


「何かあったの? 凄い魔力の流れを感じたから戻って来たんだけど?」

「それが……喧嘩が起こりまして……いきなりですが二人脱落しました」

「ええっ!?」

「それは……拙いわね。でも、起きてしまったものは仕方ないか……切り替えていきましょう」


 驚くアリシア先輩に対してエリスは冷静だ。

 私は偵察の結果を聞きながら尋ねる。


「それで場所を替えたいんですが、良さそうな場所は有りましたか?」

「ええ。案内するわ。ついてきて」


 そうして二人についてしばらく進むと、少しだけ他より通りやすそうな場所に出た。獣道だろうか?

 森なので通りやすい場所と通り難い場所がある。敵も通り難い場所をわざわざ切り開いて見つかるような真似はしないだろう。


「道を変えなければ、この辺りを通るはずだわ」

「わかりました。アラネアやっちゃってください」

「了解しました!」


 アラネアが罠を張る。その間は私達はその護衛だ。

 しばらくは何事もなく時間だけが過ぎていった。そして……真っ先に気づいたのはアリシア先輩だった。


「ソニア! エリス! 何か来るわ! 注意して!」


 しかして、それは突然現れた。

 樹上から何かが降って来たのだ!


「一番槍ぃぃぃぃぃいいいい!!」

「何だッ!!」


 私達は咄嗟に散開して、その突撃を躱す!

 躱されたと知るや、それは何か言っている。詠唱か?


「サッと殺って、サッと帰る。サッと殺ってサッと帰る。サッと……殺!!」


 全く違った!! なんかブツブツ言ってる。完全にヤバい人だ!!


 いや、よく見ると見覚えはある。昨日「帰りたい」と言ってた人だ。たしかスカディ将軍だったはず……

 昨日の雰囲気とはまるで別人だが……こんな人だったか?


「スカディ!?」

「む!? よく見ればアリシアとエリスか。当たりを引いちまったか……三対一か、さすがに分が悪いか?」


 冷静な判断力はあるのか、と思ったが……


「否! 一人十殺! そして私は帰るぞッ!!」

「何を……言ってるんだ?」

「私は帰る!!」


 帰ると言いながら殺気を放つスカディに、アリシア先輩とエリスが困惑している。

 話が通じていない。もっとも、話が通じたとしても戦わなくてはならないのだが。


 しかし、これは丁度良い。見れば一人だけのようだ。

 罠か? いや、例え罠だとしてもこれは好機だ!


 何せ、こちらは既に二名損失がある。

 単純にポイントで言うなら、十対八だ。ゼロになった方が負けだ。

 少しの勝機も見逃してはならない!


「エリス、アリシア先輩。迎え打ちます!!」

「ええ!」

「わかったわ!」


 そして最も重要なことは、後方で罠を張っているアラネアを気取らせてはならない。そしてアラネアには敵を近づかせてもいけない。

 それを意識しながらスカディとの戦いが始まった。


 スカディに様子見などという冷静な行動は無かった。

 ひたすらに槍を振るって来る。

 三対一だというのにスカディは猛烈な攻撃で私達の攻撃を凌ぐ。

 縦横無尽に振り回す槍が私達の攻撃を防ぎきる。


「くッ……こいつ!」

「私はッ!」

「なんてやる気なんだ!」

「帰るッ!!」

「帰れよ!!」


 思わず言ってしまったが、本当に帰って欲しい。言っていることは無茶苦茶だったが、凄い気迫だった。

 だが、やはり数の劣勢は否めない。スカディには次第に傷が増えてきていた。


 もうひと押しというところで、私は周囲の異変に気付く。

 にわかに霧が出て来ていた。


「これは……」


 以前に一度見ていなかったら危なかっただろう。恐らくはミスト将軍の霧だ。

 霧の中で恐ろしいのは場所を特定されて狙い撃ちにされる事だ。

 そう見当をつけると、私はすぐさま戦う二人に告げる。


「エリス、アリシア先輩、一旦退きます」

「了解」

「わかったわ」


 私達は散開して駆けだした。


「待てい!!」


 スカディは逃がさぬとばかりに、猪突猛進で追って来る。


 追って来るのか!?


 まさかとは思ったが、しかしこれは好機(チャンス)だ。

 後退しつつ後方のアラネアと合流する。


「アラネア状況は?」

「はい、ご主人様。完璧ではありませんが、大方は完了しました」

「良くやった。充分だ」


 そこでアリシア先輩が提案してくる。


「ソニア、霧なら私の風魔法で散らせようか?」

「いえ、これは好機です。そのままにしておきましょう」

「なるほどね。見えづらいものがさらに見えづらくなるものね」


 案の定、それはすぐに起こった。


「うわ! 何だ!!」


 どうやらアラネアの用意した罠に引っ掛かったようだ。



 †



 スカディのものらしい悲鳴を聞いたアルヴィトとミストだったが、故にここは慎重に行動しなくてはならない。


「……どうやらスカディは敵の罠に掛かってしまったようですね」

「あいつは……誘いこまれてしまいましたか。先生、どうしますか?」

「ここはもう退くべきでしょうね。既に罠の中でしょうから……ただ、それをさせてくれるでしょうか?」


 アルヴィトのその問いかけを聞いて、霧の中から二人のエルフが現れる。


「いいえ、逃がしませんよ。先生」

「やっぱり、この霧ミストだったのね」


 現れたのはアリシアとエリスだ。


「やはり来ましたか。罠はバレてしまえば回避可能ですからね。先手を打ちに来ましたか……まったく賢しい事ですね。ソニアの指示ですか?」

「ええ。先生でも連絡されるわけにはいきませんので。アリシア、先生は私が」

「わかったわ。じゃあ、私はミストね」


 こうしてエリスとアルヴィト、アリシアとミストが対峙した。



 †



 見事に蜘蛛の巣に引っ掛かったスカディはそれでも抜け出ようと、もがいていた。

 恐るべきことにそれが、半ば成功しつつある。


「なんて膂力(りょりょく)してんだ!?」


 私は無詠唱でスカディに雷撃を撃ち込む。


「グアッ!? 帰る!!」

「次は本気で撃ちます! 降参しなさい!」

「帰るッ!!」


 そう降参を促すも、ダメだ……通じない。

 仕方がない倒すか……ミスト将軍が相手となれば、すぐにでもエリスとアリシア先輩の応援に行かなくてはならない。

 そう思って詠唱をしようとしたところ……


「帰るッ!!」


 スカディは力で蜘蛛の巣を引きちぎり、抜け出ていた!


「嘘っ!?」


 そして、すぐに槍を構えるとこちらに突進してきた。

 意表を突かれたのは今度はこちらの番だった。


 まさかアラネアの蜘蛛の糸を引きちぎるとは!

 しかし、私はこうした場合のために壁役を用意したのだ!


 詠唱している暇は無い!

 そう判断すると、私は魔石核を投げて無詠唱でゴーレムを創り出す!


 だが咄嗟に作ったそれは泥人形(ゴーレム)ですらなく泥の塊だった。


「何故だ!? 焦り過ぎたか? いや、しまった! 霧のせいか!!」


 霧のせいで水分量が多すぎたのだ! 加えて確かに焦りもあったのだろう。そう気づくには遅すぎた。


「帰るッ!!」


 スカディはそう叫びながら槍を構えて驀進(ばくしん)してきた。

 当然のことにそれは壁にはならず、まさしく水の様に粉砕した。


 べちゃり、と。


 私は半ば負けを覚悟しかけていたが……


 しかし、どういうわけかスカディの槍は私の眼前で止まっていた。

 どうした? と思って私は槍先から顔を上げると。


 そこには全身で「悲しみ」を背負った泥まみれのエルフがいた。

 その瞳にはキラリと光るものが有る。


 スカディは頭から全身で泥を被っていた……それもそのはず。泥の壁に突っ込んだのだから。

 それは冷水を浴びせられたかの如くスカディの心を萎えさせた。

 そう、スカディは泥まみれの自分の姿に悲しくなってしまったのだ!


 そこには微妙な沈黙が流れていた。

 全身で泥の壁にぶつかったスカディは戦慄(わなな)きながら静止している。


「まあ、そういう事もあるさ……」


 とりあえず私は知った風なことを言っておいてあげました。


「うわぁあああああああ!! 帰るッ!!」


 するとその泥だらけのエルフは泣きながら私の前から走り去りました。

 今度こそ本当に帰った様子でした。


 私は唖然としてそれを見送っていると。


「お前は酷い奴だ……」


 それを見ていたのだろう、森からダンが姿を現して私にそう言い放ちました。

 同情したのかその目からは涙が零れていた。


 なんでよ!?


「だが、お前の勝ちだ」

「お、おう」


 何とも微妙な勝利だった。


 後方で牽制しながら見ていたアラネアも近づいてくる。


「ご主人様……」


 アラネアはただそう言ったきり、目を逸らしました。


 何故か私が悪者になってる!?


 アラネアは何と声をかけたら良いのか分からない様子でした。悪気があるわけではないのです。


 ただ……私が泣きそうですよ?



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