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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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サバイバル(一)

 定刻になりアルフヘイム軍とアストリア軍はそれぞれのルートからリーヴ大森林へと突入した。


「では作戦通り私達は先行して罠を張ります。散華ちゃん達、本隊はゆっくりと進軍してください」

「うむ。だが本当に良いのだな? 森はエルフ達の方が圧倒的に有利なはずだぞ」

「だからこそです。それに私達にも聖樹の加護が働いているはずです」


 そうなのだ。何となくだが方向がわかる。森の中で迷う事はないだろう。


「あのお守りか!」

「偶然ですけどね。森でもそれなりには戦えるはずかと。それにこちらにもアリシア先輩とエリスが居ますから」


 そのアリシア先輩とエリスには真っ先に敵の進軍ルートを偵察に行ってもらっている。罠を張るためには必要な情報だからだ。

 偵察なので魔物との戦いはできるだけ避けてもらう。見つかっては元も子もない。


 こうして本隊と別れ私、クロ、リリス、アラネアの四人は罠を張るべく先行した。



 †



 一方、アルフヘイム側では少し異様な雰囲気になっていた。


「休暇じゃあああああ!! サッと殺ってサッと帰る!」

「アストリア軍は殺してはだめだ。あと休暇とは言っていない」

「嫌ぁあああああああ!! 聞こえなぁあああああい!! あぁぁああい!!」

「聞こえてるだろ……」


 スカディ将軍が先頭に立って魔物を屠って行くのだが、とにかくうるさい。ミスト将軍も困っていた。

 無駄にうるさいスカディをウルドが宥めようと近づくと。


「仕事、嫌ぁあああああああ!!」


 叫んで逃げ出してしまった。


「何故、私を仕事と認識したのでしょう?」

「自覚無いのか……しかし、どうしたんだ? スカディの奴は?」


 一応、心配してミスト将軍はウルドに尋ねた。

 この間までウルドはスカディと一緒に仕事していたからだ。


「休暇がもらえず、おかしくなっているのです」

「どういう事だ? ちゃんと休暇はあったはずだろう?」

「それがですね……護衛対象がいつの間にか暗殺されるという事件がおきまして。それを最近まで調査していたようです」

「ああ。あの元カリスの造反者の件か……しかしあれは結局犯人が捕まらず、陛下が調査の中止を告げたはずだが……」

「あれで真面目ですからね。責任を感じたのでしょう」


 暗殺者に入られるなど、確かに警備上の不備を指摘されても仕方ない。その点は改善されなくてはならないが……とミスト将軍も考えていた。


「そうか……しかし、死んでも当然の男だったと聞いているが?」

「そうです。ですがそれでも真面目に仕事はする。そこが彼女の良い所なのでしょうね」

「ふむ……仕事嫌といいながら、真面目に仕事するのか……難儀な性格だな」

「そうですね。結局犯人は見つからなかったようですし……さて、このままでは良い的になってしまうでしょう。追わなくてはなりませんね」


 しかし、そう言ってウルドは逡巡する。私が追ったらまた逃げ出してしまうのではないかと。


「仕方ありませんね……私が追いましょう」

「先生が行かれるなら私も」


 アルヴィトが申し出るとミスト将軍も続いた。

 そして確認する様にアルヴィトが騎士Mを一瞥すると、彼女は頷いた。


「ではミスト行きますよ」

「はい、先生」


 アルヴィトとミストは消えたスカディを追ったのだった。



 †



 本隊より先行した私達は順調に森を進んでいた。

 クロが率先して魔獣や魔物を倒して行く。


 森の中だけあって魔獣が多い。

 狼や猪などの獣が魔石を取り込んだり、魔素の吹き溜まりに留まったりすると魔獣化すると言われている。


 稀に小鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)などの魔物とも遭遇したが、クロの敵ではなかった。


 私も始めの内はクロを褒め称えていたのだが、途中で何やら雲行きが怪しい事に気づかされた。

 事あるごとにクロが私にアピールしてくる。そして決まってリリスの方にドヤ顔をするのだ。

 リリスは何事もなく振舞ってはいるが……


「まずいかもしれないな」


 私は不安を感じずにいられなかった。


 旅先だからだろうか? 思えばクロにはずっと留守番を任せきりだった気がする。

 加えて彼女の本質は猫だ。留守番など最も性に合わないだろう。

 しかもリリスは有能すぎた。そうしたことが積もり積もって、恐らくクロに不満が溜まってしまったのだ。


 これはやってしまったかもしれない。

 私のせいだ。いや、今は責任よりもどうにか宥めなくては……


 そう思っていた矢先。それは爆発してしまった。


「どうやらわたくしに不満が有るようですわね?」


 リリスの冷めた視線がクロを射る。


「何のことニャ?」

「白々しい事を……私、短気ではないと自負しておりますが、こうも挑発されては黙っていられませんの」

「ほう? それはやる気ニャ?」

「良いでしょう。この辺りで一度決着をつけておくのも悪くはありませんわ」

「受けて立つニャ。これで勝った方が正式にメイド長ニャ!」

「良い覚悟ですわ! ではそのメイド長の座、いただきましょう!!」

「渡さないニャ!!」


 まさに青天の霹靂だった。


「いや、待って! 二人とも冷静になって!!」


 私は何とか思いとどめようとするが……


「止めないでくださいご主人様。魔族の掟にあるのです。「いつやるの? 今でしょう!!」と!」


 どんな掟!? 嘘でしょう!!


「そうニャ。これは避けられない戦い。通過儀礼ニャ!」


 二人から闘気が立ち上って見える。

 なんて漢らしい……じゃなくて!


「いや、今やっちゃダメだから! ダメな時ってあるから!!」


 そう叫んだものの……


「「いざ!!」」


 二人はそうしてぶつかり合った。


「……聞いてねえ」


 ここにきて痛恨の人選ミス! 私は頭を抱えるしかなかった。


「あわわ……どうしましょう? 止めた方が良いですよね……」

「そうなんだけど……もう、ここまできたらやらせた方が良い気がする」

「ええっ!」

「その分、試合は私達がフォローしよう。アラネアには特に期待している」

「……わ、わかりました。うう……責任が重いです」


 戦いの方はまさかのリリスが押されていた。

 動物的直感だろうか? クロはリリスの魔眼を寸前で躱している。

 しかも攻撃が素早いのだ。


 クロの連続攻撃にリリスは防戦一方に陥っていた。

 クロは今までの不満を爆発させるかのように、押して押して押しまくる!


「くッ……なんて勘してるのかしらッ! 猫なら猫らしく発情でもしてなさい!!」

「フン、本気で来いニャ! 本気でもなお届かない高みを教えてやるニャ!!」

「調子にのるなッ!」


 おお、クロが調子に乗りまくっている。

 クロって強かったんだな……留守番ばかりさせてごめんよ。

 リリスはリリスで底冷えするような凄みがあった。リリスも最初は面食らっていたようだが、次第に攻撃を合わせ始めている。


「こちらにも意地があるのですわッ!」

「合わせられているニャ!?」


 そして二人は何度も打ち合うと……ピタリと攻撃を止めた。


「埒が明かないニャ……」

「そうですわね……」


 すっかり観戦モードだった私たちもハッとして、「おお! そうだ! 気づいたか!」と喜びそうになったが……


「私が決めるニャ──」

「わたくしが創る──」


「蛇は樹の根に巣を作り、鳥は樹の枝で子を育て、闇の娘は住処を幹に作っていた」

 ──夜ノ女王


「猫に九生あり、女に九描の生あり。好奇心は猫を殺す」

 ──黒猫


 リリスを中心に夜の闇が広がっていく。その闇から現れたのは蛇と獅子頭鷲(アンズー)

 対するクロは九匹の黒猫に分かれていた。


 独自魔法によって広がる夜の闇の中、蛇と獅子頭鷲と九匹の黒猫がぶつかり合った!



「独自魔法かよ! 二人とも本気出し過ぎ!!」

「はわわ……どうしましょう!? やっぱり止めた方が良いですよね!?」

「もうどうする事もできないよ。ただ、アラネアは正しい」

「ええっ! そんな……」


 そして決着がつく──


「やりますわね」

「おまえもニャ」


 などと言い合うと二人は同時に倒れた。


 なんと決着は最悪の相打ち!

 何が最悪かというと、早々にこれで二名脱落したことだ。

 だが、倒れた二人は何故か満足そうで清々しいほどの笑顔だった……


 こうしてアストリア軍は開始早々に八名にまで戦力が低下してしまったのだった。

 私は序盤からの大失態に頭を地につけたい思いだった。


「しばらくメイド長はお預けだな……」



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