お披露目
ミスト将軍からの連絡のあった通りそれは開催された。
歴史を感じさせる領主の館に、この地の名士達が集まっている。
控室に通された私達は紹介を受けて入室することになっていた。
「それではそれぞれの国を代表する勇士達を紹介しましょう」
そうアナウンスされると一斉に拍手が巻き起こる。
「とその前に……進行と解説、並びに審判を務めますのはこの俺、炎の勇者改め神聖カリス王国将軍、ダンだ!」
広間から伝わって来たのは、ダンの声だったらしい。
「勇者王は本当に審判を送ってきたのか……っていうか、ダンかよ……厄介払いじゃないだろうか……」
そんなことを勘ぐっていると案内のメイドさんが入って来る。
「お待たせいたしました。それでは入室してください」
そのメイドさんの指示に従って、私達は整列すると控室から広間へと通される。
その時、反対側の控室から同時に出てきた一団と合流した。並び立つ隣には白銀に輝く鎧姿のエルフ達。明日戦うアルフヘイム軍だ。
一方こちらはアラネア謹製の戦闘服「夜ノ女王」シリーズで揃えた漆黒のアストリア軍。
両軍が入室すると、驚きと共に歓声が部屋中に満ちるのだった。
白銀に輝く鎧姿のアルフヘイム軍に対して、漆黒の光沢を纏った戦闘服姿のアストリア軍。
その姿は歴史ある建物と相まって一枚の絵画の様相さえ呈していた。
故に見る者は感動と衝撃を覚えざるを得なかった。
方々で「なんと素晴らしい」やら「あの衣装はどなたが作られたのか」などと聞こえてくる。
そうして私達は万雷の拍手で迎えられた。
それが一頻り鳴り終わると、ダンが紹介に入る。
「では選手達の紹介をさせていただきます。先ずはアルフヘイム軍から──」
「リーダー、言わずと知れたアルフヘイム最強。近衛騎士団長ブリュンヒルデ」
ブリュンヒルデが慣れた様子で美しい一礼を返す。
「客将華咲双樹。何とこのお方はアストリア王の父親だ!」
散華ちゃんと蓮華姉さんが、その紹介でピクリと眉が吊り上がった。私も驚いたが、華咲だからと言われてしまえば納得できる。
「アルフヘイムが誇る双璧、ミスト将軍並びにスカディ将軍」
「神官三姉妹ウルド、ヴェルザンディ、スクルド」
「宮廷魔術師ゲンドゥル」
「現女王陛下の最大の片腕、アルヴィト」
私はその紹介で一番驚いていただろう。
まさか、扱いづらいはずのアルヴィトまで担ぎ出してくるとは……女王は本当に本気の様だ。
隣でアリシア先輩とエリスが息を呑むのが分かる。
「そして最後に正体不明、謎の騎士M」
ザワザワと「誰だ? 知っているか?」との声が広がる……いや、どう見ても女王陛下だろう?
フルフェイスの鎧姿で一見分からないようにしているが、私が献上したペンダントを胸にしている。
女王があれを他人に渡すはずがない。本気で言っているのか? と私が訝しんでいると紹介がこちらに移った。
「そして対するアストリア軍──」
「リーダー、華咲散華。アストリア王その人だ!」
「それを補佐する、ん? 王妃? ねえこれ合ってるの? おかしくない? ああ。そう……それは残ね……ヒィッ!……おほん、ともかくその姉、華咲蓮華」
ダンが係の人に紹介文の確認をしようとして、蓮華姉さんに睨まれたのだ。
ダンめ、残念と言おうとしたな……ダンは蓮華姉さんからの強烈な威圧を受けて滝のような汗を流している。
この間までは同じパーティーメンバーだったのだ。その恐ろしさは骨身にしみているのだろう。
「……ええ、紹介を続けます。その二人の守護騎士。アストリア近衛騎士団長、藤乃。副長、ツヴェルフ」
「アストリア宰相ソニア・ロンド。そしてその使い魔たる三魔族。クロ、リリス、アラネア」
魔族と紹介されて眉をひそめる者はいたが、本当に眉をひそめただけだった。
むしろ紹介されたリリスがお辞儀を返すと「い、良いんじゃないかな」と顔を赤らめる人が続出した。
「そして元はアルフヘイム出身の傭兵エリス、アリシア」
むしろこちらの方が微妙な顔をされた。裏切り者とでも思われているのだろうか?
まあ、アルフヘイム側にも客将が居ますからな、とそんな声が聞こえた。
心配してエリス達を見ると。
「あいつ、まだ肩書が無いからって傭兵とかいい加減なこと言って……」
「後でソニアにちゃんと仕事もらわないと」
あまり気にしてないようだ。うむ。帰ってからしっかりと働いてもらおう。
「それでは今紹介いたしました、それぞれ十名の勇士達に今一度拍手をお願い致します」
ダンに促されて皆が一様に拍手をする。
「アストリア王、御自ら……しかもまさかの親子対決……これは盛り上がりますな!」
その様な声が聞こえてくるほど、とても盛り上がった様子だった。
「では続いて概要を説明させていただきます。各チームには森へ別々のルートから入ってもらいます。そこで魔物や魔獣を狩りながら相手チームを探してください。作戦は各チームに委ねられています。負けを認めるか、戦闘不能と見做された者から脱落していきます」
そこでダンは一度区切るようにして。
「勿論、途中棄権や、帰ってしまった場合も負けですよ?」
そう言って笑いが起こった。それは数名から「帰りたい」との声が聞こえてきているからだ。主にアルフヘイム側から。
言われたゲンドゥルはチッと舌打ちし、同じくスクルドとスカディはウルドに怒られている。
そしてそれを抑えるようにヴェルザンディがとりなしていた。まるで中間管理職のようだ。私は少し同情した。
「ご主人様……私には場違い過ぎます。帰りたいです」
「アラネアお前もか! いや、気持ちはわかる。もう少しだけ我慢してくれ」
「はい……」
うーむ。アラネアは売れっ子になるはずだ。早めに慣れさせた方が良いのだろうか?
でも私としてはこのまま素直なアラネアで居て欲しい。おっと、まだ説明の途中だ。
「……ええ、続けますが、そして最後に残った者のいるチームの勝利とさせていただきます。補足ですが、両国の今後の為にも殺人は無しの方向でお願いします。行った場合、問答無用で敗北とさせていただきます。ただし事故、もしくは魔物や、魔獣に殺されてしまった場合はその限りではありません。注意してください」
これは前回の会合で決められたことを詳細にしたものだろう。戦争を起こさないために、こうしているので戦争が起こるようなことをしてはならない。
「また審判として俺と数名の護衛、記者が同行しますが誤って攻撃しないようにお願いします。その場合も失格とさせていただきます」
ダン達も来るのか……魔法に巻き込まないよう気をつけないと。
特にダンは巻き込まれ体質だろうからな!
「それでは両チームの健闘を祈っております。ご清聴ありがとうございました」
そう言い残すと、大勢の拍手に送られてダンは退場した。
それに代わり、領主らしいエルフの壮年の男がやって来る。
「それでは皆様ささやかながら、この街の名物をご用意いたしました。どうぞ時間の許す限りご歓談ください」
これで一応は終了らしい。だが帰れるかと言われれば立場上、そういうわけにもいかないだろう。
周りを見れば案の定というか、散華ちゃんと蓮華姉さんが双樹氏に食って掛かっていた。
「一応聞いておきますが……父様、何故そちら側に?」
「うむ。これも一宿一飯の義という奴だ。散華、蓮華。明日は全力でかかって来るが良い。私も本気をだそう」
「!! 分かりました。望むところです」
「仕方ないですね。これも華咲の血ですか……」
双樹氏に対して闘志を燃やす二人だった。
他方ではミスト将軍とブリュンヒルデが。
「ん、どうしたブリュンヒルデ?」
「いや、何やら先刻から寒気が……」
「風邪か? 帰って休むか?」
「いや、大丈夫だ。それ程ではない」
そんな話が聞こえてきた。何か問題があったのだろうか? 隣でアラネアも心配そうに見ている。
「あの方……どこかで……」
「ん、知り合い? アラネアはアルフヘイム出身だし……」
「出身と言いますか……洞窟内に居ただけと言いますか……」
何か悲しい話になりそうだったので話を戻す。
「ブリュンヒルデの方だよね」
「ええと、思い出せません……見かけただけでしょうか……」
「そっか。そういうこともあるよね」
思い出せないものは仕方ない。アラネアは今人型だ。街中では特に気を使っているためだ。
魔族と紹介したので大丈夫だとは思うが、魔物や魔獣として襲われてはたまらない。
過去にそういうこともあったらしい。アラネアは苦労人なのだ。
それから私は忘れないうちにアルヴィトに挨拶に行く。
「アルヴィト。その節はお世話になりました」
「ああ。ソニア・ロンド。良いのですよ。しかし、明日は手加減できませんよ? 私を担ぎ出すほど彼女は本気ですからね。」
「わかりました。望むところです。ですが……どうして女王陛下は姿を隠しているのですか?」
「な、何のことでしょう? はは、わかりませんね」
その目が、それ以上は聞くなと訴えかけていた。込み入った事情があるのだろうか? 仕方ない、諦めよう。
それから話を聞いていたのか、エリスが割って入る。
「そうね。先生が出るなら私が奮起しなくてはね」
「私もいるわよ!」
エリスとアリシア先輩にアルヴィトは微笑みをかえして。
「皆逞しくなりましたね」
彼女たちはそれからも話を続けていた。
そんな中、辺りを見るとクロとリリスは微妙な距離で立っていた。それはまるで牽制し合うかの様に……何かあるのか? とは思ったが、別段何かある様子でもなかったので気にせず私は他に目を移してしまった。
この時、私は不覚にもこの失敗に気づいてすらいなかったのだ。
双樹氏と話を終えた散華ちゃんと蓮華姉さんは卒なく挨拶をして回っている。そこに藤乃とツヴェルフさんも護衛としてついて回る。
散華ちゃん達は今は領主と話をしていた。
この場にはエルフ、獣人、ドワーフ、人族など雑多な種族の人々が並んでいる。アラネアが蜘蛛の姿でも関係なかったかもしれない。この辺りは、アルフヘイム王都とは少し違うのだろう。
「我々としてはですね。このような辺境の地をもしっかりと見てくださる王を望んでいるのです。ああ、もちろん現女王陛下はしっかりと見てくださっていますよ。誤解の無いようにお願いしますね」
「ええ。分かっております。それに我が国も先頃までは僻地と呼ばれておりました。そのことは十分に」
散華ちゃんの言う通り、そうした意味ではここはアストリアの感覚に近いものがある。
「おお、そうでしたね。お若いのに大したものだと皆感心しているのですよ。王権というものは誰もが握れるものではありません。それは強力な力です。しかしながら国というのは民が作るものです。特に冒険者ギルドをはじめ、各ギルドの力は今や王権にさえ匹敵すると言われている程です。くれぐれも油断なきように」
「ええ。肝に銘じておきます」
「おや、これは失礼な事を申し上げましたかな。僻地出身としては応援したくなりましてな。もちろん、アルフヘイムの次にですがね」
そう言うとエルフの領主はニッと笑った。
「はは。ありがとうございます」
そんな話をしていた。冒険者ギルドか……確かに実態は把握できていない。
それはその力が各国に及んでいるからだ。あるいは敢えて把握させないようにしている……のか? 他にも商業ギルドも全く同じ状況だ。
宰相になってはじめて知った事だが、かつては暗殺者ギルドなる組織があったとかも聞こえてきている。
今後は、そうした勢力にも十分に注意を払わなくてはならないだろう。
それから私達は頃合いを見計らって宿へと帰った。
明日の戦いの為に早めに休むのだった。




