帰還の宴
私達はアストリアへと帰還していた。
今度は一月後の戦いに向けて準備を行わねばならない。
だが、今は二人の帰還を喜ぼう。アリシア先輩とエリスが帰ってきたのだから。
久方ぶりに青薔薇のメンバーが我が家に集った。さらにグランブルーの皆も集まってくれたので流石に窮屈な状態になってしまった。
私はグランブルーの皆に挨拶をする。彼らは皆、騎士団の重役だ。
「グランさん、騎士団の方はどうですか?」
「ああ、うん。皆、熱心で良いのだが……なあ」
「え、ええ。国王陛下を聖天使様と……少し狂信者の気配が……」
グランさんの困惑にアンナさんも同調する。
あっ……伝えるの忘れてた。特に暗黒騎士団は元が散華ちゃんのファンクラブだから仕方ない。
「そうですか……あの子達の個性として大らかな目で見てもらうわけにはいかないでしょうか?」
「うーん。そうしてもいいんだが、いざ戦になった時にな……盾になって死ぬとか言い出しかねん」
しまった。私のせいかもしれん。少しばかり煽り過ぎてしまったようだ。どうしようか……
「そうですか……なら、聖天使様に決して死ぬなと釘をさしてもらいましょう」
「……逆効果になる気もするが……仕方ない。今はそうしておいてもらって、長い目で見ていくか」
「お手数をおかけします」
「いや、これが今の仕事だからな」
グランさんはそう言って満足気に笑う。良い笑顔だ。
それから私はクリスティに話しかけられた。
「私達がパーティーを組んでいたのは、アリスから聞いているだろうか? 冒険者として腕を上げて青薔薇の皆を驚かせようと思っていたのだが……こうなるとは思わなかったな」
「今は建国で一番忙しいですから。私はまだその機会はあると思っていますよ。クリスティ聖騎士団団長?」
ダンジョンに潜るだけが、冒険者の仕事ではない。時に騎士団と連携して、街の外に現れた魔物の討伐なども行ったりする。言ってみれば、傭兵に近い。
だから騎士団の仕事と被る点も多々ある。むしろその辺りの調整役かもしれない。
「ふふ。そうか、ではそれを楽しみにしておこう」
クリスティがやる気を見せるように微笑んだ。
今まで暗黒騎士団として敵対のような形をとってしまっていたが話してみるとクリスティは良い男だった。女だけど。少し藤乃に似ているかもしれない。
「ソニア・ロンド! 自慢ですか! 私にハーレムを自慢するために呼びつけたのですか!」
そこへ割り込むようにして来た聖女リリィは、相変わらずウザかった。来た時は「ハーレム、キター」と興奮していたのだが……
それをクリスティが慣れたように宥めている。こいつはクリスティに任せておくべきだろう。
そして、ここにいるのが珍しい人物がいる。華咲家執事、藤乃だ。
私は昔から知っているが、彼女は華咲家からめったに出ないイメージだ。そして実際、そうなのだろう。
「藤乃。よく来てくれましたね」
「……奥様から「家に縛り付けてしまってごめんなさいね」と泣かれました。それまで私は片時も奥様から離れるつもりはありませんでした。そして私はそれを誇りに思っていたのです」
……なぜか落ち込んでいる藤乃だった。
「ソニア・ロンド。私はどうしたら良かったのですか!?」
ええ、知らないよ。と言いそうになったが、真剣に悩んでいる様だ。こちらも真剣に応えねばなるまい。
「私の許に来るといいよ」
「ぶっとばしますよ!?」
むう。違ったらしい。非常に冷たい目で見られました。
「大体貴方は昔からお嬢様達だけでなく私にまで……私を弄んで何が楽しいんですか!」
「男装の麗人ですよ? 楽しく無いわけがないじゃないですか」と反論しそうになったが、グッと堪えた私は偉いと思う。
それからしばらく藤乃の愚痴を聞かされたのだった。
私はどうにか藤乃を宥めて抜け出すと、ツヴェルフさんと話をしている師匠に声をかけた。
「師匠、好きです。愛しています」
「ソニア。少し見ない間に頭が残念になりましたか?」
師匠のその容赦ない言葉に私は……惚れる! 素敵です! これこそクール美女の鑑です!
「いえ、今言っておかなければならない気がしたのです」
「そうですか……確かに私は国のことは手伝えません。それを心苦しいとも思っています。ですが、ちゃんと見ていますよ」
それから少し考えるような素振りを見せた後、師匠は続けた。
「そうですね……時間を作って聖堂へ来なさい。戦いがあるのでしょう? 師として私が貴方の力を見ましょう」
「おお。ありがとうございます! 必ず行きます!」
そこでそれを聞いていたツヴェルフさんから声がかかる。
「ソニア。私も行く。ソニアが帰って来てからあまり話せてない気がする」
ツヴェルフさんの少し不安気に言う言葉に、私はハッとする思いだった。
「うぐっ……すまねえ。決して蔑ろにしていたわけでは……そうですね。ツヴェルフさん、一緒に行こう」
確かにツヴェルフさんとは良く顔を合わせていたが、事務的なことしか話していなかった気がする。私も切羽詰まっていたのだなと改めて気付かされた。
顔を合わせていたがゆえに気付かなかったのだ。何という事か! あってはならない事だ!
「ツヴェルフさんは可愛いです!」
「? うん。良かった?」
「ええ。ツヴェルフさんもありがとう」
「? どういたしまして」
それから私はツヴェルフさんの隣で食事をしていたアイリスにも声をかける。もそもそと食べる姿は小動物のようだ。
「アイリスにも一言声をかけるべきだったかもしれないと思っているのです」
「何の話?」
「いや、ペンダントをね渡してしまったんだ。闇の鎧という物のね。わかるかな?」
「何となく……お姉ちゃんに聞いた。記憶には無い」
アイリスの言うお姉ちゃんとは師匠のことだ。二人は修道院で暮らしているからだ。
模造女神だった彼女への一応の断りが必要かと思ったのだ。
「それが必要だと言う人がいたんだ……悪かったね」
「ううん。大丈夫」
「そうか……ありがとう」
言葉は少ないが、アイリスは師匠に任せて大丈夫だ。
そうして私は皆と話した。そうすることが重要だった。私の失いたくない大切なものだから。
それを失くさないために動いていたはずなのに危うく見失うところだった。
私は不安を払拭するように皆と話すのだった。
そして今回の主役達に話かける。
「アリシア先輩、エリス。おかえりなさい」
「ソニアそして皆もありがとう。おかげで帰って来ることができました」
アリシア先輩も不安だったのかもしれない。
「ええ。私からも感謝を。そしてこれからもよろしくお願いするわ」
そのエリスの言葉の後、アリシア先輩は私の胸に飛び込んで泣いてしまった。良かった……良かった……と呟いている。
うむ。良かったと私も思う。
しかしおかしい、エリスが来ない。
「エリスも来て良いのですよ?」
私は聖人のような大らかな気持ちで、さあ来い、どんと来いとエリスにアピールする。
「……行かないわよ」
顔を赤らめて私から視線を逸らしてしまった。うむ。今、迷っていましたね。
エリス陥落計画は途中破綻してしまったが、それなりの効果はあったのだろうか。
「ご主人様の方へ行かないなら、代わりに私が胸を貸しましょうか」
リリスがそう言ってメイド服に包まれた豊満な胸を突き出す様にして、妖しい視線をエリスへと送った。
するとエリスは「ひっ……」と小さく悲鳴をあげて私の胸に飛び込んできた。
可憐なエルフと妖艶なダークエルフが我が手の内にッ! 歓喜ッ!
その光景を見て、皆が微笑んでいる。
闇の鎧は手放してしまったが二人はここに残る事ができるのだ。
クロ、リリス、アラネアの三魔族いや、三メイドは忙しく働いて貰っている。彼女達にも終わったら感謝を伝えよう。
その後も話して料理を食べるだけの宴ではあったが、楽しかった。本当に。
それから散華ちゃんと蓮華姉さんが私の許へ来た。
「ソニア。お前のおかげで父様に会えたのだと思う」
「そうですね。あの場で会うことができたのはソニアのおかげかもしれませんね」
「それは買い被りですよ。私も知りませんでしたし」
確かにミスト将軍も印象は良かったと言っていた。多少は影響したのだろうか?
「しかしお爺様が始めから伝えてくれていれば……いや、今更か」
「散華、お爺様も母上に怒られていましたから許してあげなさい」
「そうですね」
お爺さんは怒られたらしい。伝説の冒険者のはずだが……華咲の女を敵に回すと怖いのだ。
「それはともかくソニア、次の戦い必ず勝つぞ」
一時は心配したが、今の散華ちゃんなら大丈夫だ。蓮華姉さんもやる気をみせている。
ならば私も頑張る事ができるはずだ。
アストリア女王陛下へと頭を垂れて、私は恭しく礼を取ると言った。
「仰せのままに」




