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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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準備期間

「今日はありがとう。楽しかったわ」


 帰還祝いもお開きになり皆が帰る中、アリシア先輩がそう言って帰りを告げてきた。エリスと一緒に帰るようだ。


「泊まってくれても、構いませんよ?」


 こちらへ戻ったばかりで大変だろうと思っての申し出だったのだが、二人は首を横に振った。


「それは有難いけど、遠慮しておくわ。ソニアも忙しいでしょう? あまり甘えるわけにはいかないわ」

「そうですか? まあ、何かあれば言ってください」

「ええ、ありがとう」


 二人は正式に女王の剣から離脱したので、これからはその支援を受けられない。

 その分こちらで働いてもらうことになっているので、出来る限りのことはするつもりだったのだが……

 事後処理とかで忙しいのかも知れない。


「……ああ、そうだアリシア先輩とエリスにも渡しておかなければ」

「何かしら?」

「これなんですが……」


 私は皆に渡したそれを二人にも渡した。聖樹のお守りだ。


「これは……」

「アルフヘイム王国のお土産です。すいませんこのところバタバタしたせいで他に用意できず、ペンダントの代わりにはならないかもしれませんが……」

「いいえ、ありがとう」

「ありがとう。大切にするわ。まさか自分の国のお土産を貰うとは思わなかったけど」


 エリスの指摘に内心、少し焦る。悪いとは思ったが、時間的に仕方なかった。

 主に宰相になってしまったせいだ。


「はは。すいません。でも約束しましたからね。またの機会には別の物をお渡ししますので今回はこれでお願いします。」

「責めているわけじゃないわ。故郷の自慢じゃないけどこれは良い物よ」

「そうね。普段、故郷のお土産なんて買わないものね」


 エリスの言葉にアリシア先輩も同意してくれた。不満だった訳ではないらしく、ホッとする。

 そうして別れの挨拶をして二人は帰って行った。



 †



 アルフヘイム王国。王城。


 一ヶ月という期間は移動も考えると短い。しかも王都へ帰る為にすでに一週間ほど経っている。

 馬の速さで多少は変わるだろうが、現地へ行くのにまた一週間ほどかかる予定なので、準備期間はどちら側もあと二週間程度だ。

 日時はお互いに連絡し合えば変更も可能だが、しかしこれ以上先延ばしにしたところでやることは変わらない。


 帰国したアルフヘイム近衛騎士団、団長ブリュンヒルデは早々と準備を進めたが、とても困っていた。

 アリシアとエリスが抜けた穴が埋まらないためだ。

 そのせいで、陛下が「我が出よう」などと言い出した。どうにか思いとどまる様に説得しているが、このままでは本当にそうなりかねない。

 やむを得ない。ダメもとであの男に声をかけてみよう、とブリュンヒルデは決断した。


「双樹殿。できれば手を貸していただきたい。先に抜けた者がいるのでこちらも戦力不足でな」

「ええ。構いませんよ」

「いや、わかっている。貴殿を取り返すために貴殿が出ては意味の分からないことに……ん? 良いと言ったのか?」


 聞き間違いか? と思い確認をするブリュンヒルデ。いくら捕虜の身とはいえ、強制はしたくない。

 だが、それは要らぬ懸念だったらしい。


「ええ。私も娘達の成長は気になっていますからね。楽しみです」

「んん? それはアストリア王自ら出陣すると?」

「ええ。娘達はそういう性格ですから。きっと父上に似たのでしょう。助けてもらった恩返しになれば良いのですが」


 ブリュンヒルデは納得していた。これが華咲なのだと。

 故にきっとこの男は手抜きをしない。そうした同じ武人としての確信があった。


「感謝します」

「いえ、こちらこそ」


 双樹は実に楽しそうにしている。それは清々しいほどに。

 それはブリュンヒルデを真剣にさせるものだった。


「今度の戦い、相当に厳しいものになるな……だが陛下の念願を叶えるためには絶対に勝たねばならない」


 ブリュンヒルデは決意を新たにするのだった。



 †


 

 魔導書店「知恵の泉」


 皆が帰った後、私は自室に籠り、机へと向かった。

 散華ちゃんから、アルフヘイムとの戦いに向けて出陣メンバーの選出を頼まれているためだ。


 先ず絶対に出るのが散華ちゃんと蓮華姉さん。

 国王と王妃には自重してもらいたいところではあるが、この戦いには双樹氏の帰還がかかっている。

 となると、全力を出さなくてはならない。

 万一、負けた場合、「あの時私が出ていれば……」などという後悔をさせないためにも。


 次に出るのは、その二人の護衛たる近衛騎士団の二人、藤乃とツヴェルフさん。

 藤乃は今まで華咲を守ってきた実績があるが、ツヴェルフさんは初めてだろう。

 その辺りは藤乃から学んでもらうとしよう。


 二人のエルフ娘、エリスとアリシア先輩は敵情を知り尽くしている。連れて行くべきだ。

 ただし、向こうも二人の事は知り尽くしているだろうから、注意が必要だ。


 場所は大森林か……意外性でアラネアを連れて行こうか。

 大森林では罠を張れる彼女はきっと大いに役立ってくれるだろう。

 しかし、戦闘にはやや不安が残る。それをカバーできるのはやはりリリスか、私も手伝えば何とかなるか……


 これで九人。あと一人をどうしようか……師匠を連れ出すのは無理がある。国の代表として戦うのは彼女のもっとも嫌がることだろう。


 グランブルーの皆は私達の代理で残ってもらう。何か起きた場合の対応をするためにも動かせない。

 となると、仕方ない。店をしばらく休みにしてクロを連れ出すか。あまり長期休業は歓迎されないだろうが。


 確認の為に書き出してみる。

 散華、蓮華、藤乃、ツヴェルフ、エリス、アリシア、アラネア、リリス、クロ、ソニア。

 うん、ちゃんと十人だ。

 とりあえずはこの案で承認してもらおう。


 今、クロ、リリスには後片付けをしてもらっている。

 アラネアには別の仕事を任せている。間に合うかどうかは微妙だが、戦闘服作りだ。

 アラネアには悪いが移動中も作ってもらえば、三週間程か。

 無理はさせられないので、間に合えばいいなくらいでお願いしておいた。


 なぜそうなったかというと皆が帰った後、前々から作っていたリリスの服が完成したので、それを渡していたからだ。呪い封じの腕輪のお礼の件だ。


 それはとても素晴らしいものだった。それを着たリリスも大いに喜んでいた。

 例えるなら「夜ノ女王」と言ったところか。しかも戦闘でも使えるほど丈夫だそうだ。私と同じく見ていたクロも羨ましそうにしていた。


 それを見て私がアラネアに頼み込んだのだった。

 今はそのリリスの服をベースに案を練ってもらっている。

 後で、決まったリリス以外のメンバーを優先的に作ってもらうように言っておこう。


 この前、散華ちゃんと蓮華姉さんの為に作ってもらったのは式典用だ。

 戦闘に使えなくもないが浮いてしまうだろう。新たに作ってもらおう。

 それから後は戦術プランを考えるか……

 そうして考えている内に夜は更けていった。



 †



 アルフヘイム王国王城。王の間。

 そこで一人になったアルフヘイム女王、マリー・アネットは興奮を抑えられない様子だった。

 長年に渡り追って来た手掛かりが遂に手中に収まったからだ。


「遂に揃った……しかしこのペンダントの二つ、神気に当てられて変質してしまっている。他の六つも使用者の影響を受けているな。復元は可能だろうか?」


 一頻りそれらを観察した後、アルフヘイム女王はそれらを手の上で弄ぶようにしながら考える。


「さて、どうしたものか……」


 瞑目して考える様に呟くと……ふと、直感だったのだろうか。

 あるいは怨念に似た何か……それが囁いた気がした。

 八つのペンダントが誘惑する様に輝く。


「舐めろだと! 馬鹿なッ! そんな事……いや、しかし……ええい、ままよ!」


 案ずるより産むが安しとばかりに……女王はぺろっと舌を伸ばした。


 するとペンダントが闇を纏い変質する。女王の意思が通じたかの様にそれは結合し、影となって女王へと纏わりついた。

 その時、影は一つのイメージを女王へと伝えていた。

 それは青い魔女だ。それが扇動して闇の鎧の結晶を舐めさせている。それが変質をもたらした正体か。


「うおおおお!! 貴様か……ソニア・ロンドッ! 負けぬ! 負けられぬ!」


 対抗心を燃やした女王は凄まじいまでの魔素の奔流に耐え続ける。

 かつてその八つのペンダントが一つだった時、散華はその闇に飲まれた。


 それは確かに変質していた。いや、だからこそ女王はそこに光を見た。


 赤と白の光が女王を導く。

 そしてそれを手に取る様に……手を伸ばした。


 闇の鎧の上に青い光が脈動していた。


「不覚……助けられたか……しかし、これはキツイな……」


 知らず涙があふれていた。闇の魔女の嘆きの一端が垣間見えた気がしていた。


 戻るように念じると、八つのペンダントは結晶部分が結合していた。


「む。寒っ」


 何故か裸になっていた。服は何処へ? いや、あれだけ強力な鎧だ。

 魔素に還元されたに違いない。女王はそう悟っていた。


「陛下! どうされました!」


 先ほどの叫び声を聞きつけて心配したブリュンヒルデがやって来た。


「も、申し訳ございません。、着替え中でしたか。しかし先ほどの雄叫びのような声は一体……」

「ああ、いや。うん。すまなかった。ちょっとした実験でな……」

「そうですか……あまり危険な事は控えていただきますようお願いいたします」

「ああ。わかった」


 そうは答えたものの、女王はこの力が闇の魔女へと繋がっていると確信していた。

 そうして女王は当面の間、自室へ籠る事にした。この力を制御するために。





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