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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
41/186

衝突――挿絵

 試したい……

 凄く試したい……

 お婆ちゃんに習ったことを試したいのです!


 識界から戻った私は休んでいたエリスに話しかける。


「エリス。体調は戻りましたか?」

「ええ。良くなったわ。ありがとう」


 良くなったそうだ。ならば問題ないだろう。

 そう思って話を進めることにする。


「お婆ちゃんは復習が大事だと言っていたのです。練習しておくように言われたのです……」

「いきなり何の話?」

「魔法を試したいのです。エリス。相手になってください。いえ、標的(まと)になってください」

「何故、嫌な方に言い直した……」

「立ってるだけで良いんです! できるだけ痛くしませんから」

「しかも痛いヤツじゃない。絶対嫌よ!」


 断られた。むむ。エリスのくせにっ!

 今の私は些か攻撃的になっているかもしれない。

 覚えた魔法を試したくて仕方ないのだ。

 禁断症状に似ているかもしれない。もちろんそんなものになったことが無いので分からないが……


「むう。仕方ないアリシア先輩にするか……。しかし、先輩だと喜んでしまう可能性が……。それはリリスも同じか。やはり確実に嫌がってくれるエリスでなくては……」

「一体どんな魔法を習ったのよ……」

「むっ。興味がおありですね?」

「それは……無いわけじゃないわよ。私もダークエルフだし」


 一般にエルフ達は魔法が得意と言われている。エリスも興味はある様だ。


「では標的(まと)に……」

「……的は嫌よ。相手にならなってあげるわよ」

「むう。仕方ない。それで手を打ってやるか。くっ、エリスのくせにっ!」


 つい本音が。やはり今の私は攻撃的(アグレッシブ)のようです。


「エリスのくせにって……前々から思ってたけどソニア。私の扱い酷くないかしら」

「うむ。そこはかとない格下感がエリスの良いところだと思っている」


 どうしても、あの師匠とのやりとりを思い出してしまうので仕方ない……


「……酷い誤解がある様ね。良いわ相手になってあげる。ただし私も攻撃するわ」

「拳で語ってしまうのか。良いだろう。相手になろう」


 そうしてエリスと戦う事になった。

 簡単な模擬戦だ。それほど時間はかからないだろう。

 アリシア先輩に馬車を適当な場所に止めてもらう。

 何もないような平地に二人は降り立った。


「降参するか。動けなくなったら負けで良いわね」

「うむ。良かろう。かかって来るが良い」

「何でソニアが言い出したのに偉そうなのよ……」


 対峙したエリスは呆れている。

 ふっ……すでに勝負は始まっているのだよ。


「ソニア頑張って!」


 アリシア先輩が応援してくれる。


「エリス頑張りなさい。負けたらお仕置きですわ」


 リリスがエリスを応援? している。

 エリスはビクッとして緊張してしまっている。

 リリスの応援は逆効果だ。私の援護射撃となっていた。


 私はチャンスとばかりに先手を取る。


「ではさっそく行きますよ!」


 私は青の書を開くと直ぐに詠唱から魔法を放った。


「それは青き枷。それは青き首輪。(いまし)めよ」


「『青薔薇の束縛(ブルーローズバインド)』!」


 魔法陣から青の茨がエリスを拘束しようと飛び出す!


「くっ! 拘束魔法かっ! でもそう簡単にはやられないわ!」


 エリスは咄嗟に避けた。


 むう。エリスにも躱された。お婆ちゃんは仕方ないとしてもエリスにまで。

 もっと練習が必要かもしれない。


 続けて二撃、三撃と同様に放ったがやはり捕まらなかった。

 しかも初めよりエリスの動きが良くなっている。


「ふふ。もう終わりかしら。じゃあこちらの番ね」


 ぐぬぬ。エリスの余裕の表情が小憎らしい。

 やはり初撃で仕留められなかったのが痛い。手の内がばれてしまっては効果も半減だ。


 不意を突くような一手を……と考えていたところ。


 エリスの反撃が来る!


「『紫電』」


 そう言ってエリスは身体と細剣(レイピア)に紫の雷を帯びると私に向かってきた。


 速い! 電光石火の攻撃だ!

 身体強化魔法か!

 エリスの軌跡に従って紫電が残像の様に流れる。


 私は咄嗟に双剣を構え防御に入ることしか出来なかった。

 いや、防御できただけましだろう。師匠との訓練のお陰だ。


 私はそのまま吹き飛ばされる。

 防御のおかげで何とか耐えた。

 危なかった……冷や汗が背中に流れた。


 大会では見せなかっただろう! アリシア先輩も驚いている。


 エリスは余裕の表情のまま言った。


「あら。良く防御できたわね。初見で防御できる子はなかなかいないわよ」

「むう。もう勝った気ですか。エリスのくせにっ。吠え面かかせてやるぅ!」

「うふふ。 やって御覧なさい!」


 くっ。完全に勝った気でいやがる。

 しかし、どうする?


「青薔薇の庭園」は……駄目だ。あれは大魔法だ。隙が無ければ確実にこちらが先にやられる。

 お婆ちゃんはわざと使わせてくれたのだ。エリスにそれを期待することはできない。


 紫電という技……まさに雷の如き速さと威力。

 伊達に蓮華姉さんと組んでいたわけではないという事か……


 私は青の書に意識を集中する。

 精神を落ち着ける。


 飛び込んで来るなら迎え撃てば良い。

 蜘蛛の巣を張るように。

 罠を張るのだ。


 強度よりも柔軟性だ。

 対象は相手ではなく自分。


 私は呪文を詠唱する。


「それは青き枷。それは青き首輪。(いまし)めよ」


「『青薔薇の束縛(ブルーローズバインド)』!」


 それに反応するエリスは勝利を確信している。


「甘いわよっ! 今の私の速さにはついて来られないッ!」


 そういうとやはり先の技が来た!


「『紫電』!」


 だが私はあえてエリスの攻撃を受けた。

 私は吹っ飛ぶ!


「なっ!! 何をしたの?」


 エリスの悲鳴が上がった。

 青薔薇にエリスが拘束されていた。


「奥儀 自縄自縛!」


 私は私を束縛したのだが、吹き飛ばされたのでエリスが私の身代わりになったのだ。


 リリスも嫣然と微笑みながら感心している。


「自縄自縛、さすがご主人様……驚異のド変態ですわね……」


 リリス。それは誉め言葉ではありませんよ。


「むう。とはいえ吹き飛ばされて危うく意識を持っていかれるところだった」


 私はエリスを見る。


 青薔薇の茨に囚われたダークエルフ。

 エリスは軽装なので褐色の肌に茨が食い込んでいる。


「美しい! 良いものですね……ずっと観賞したいのですが……。そう簡単には諦めてはくれませんか」


 エリスはもがき苦しみながらも逃れようとする。

 もがいた拍子に血が流れていた。私も強かに叩かれたのでお相子だが。


「くっ……このくらいでッ!」


 エリスは強引にふりほどきながら細剣(レイピア)を振るった。


 いくつかの茨が刻まれる。


「させませんよ!」


 私は魔力を操り茨で締め上げる!


「ぐっ……! ふふ。やってくれるわねソニア」

「まだ諦めないつもりですか?」

「そうね。私を舐めている子には負けられないわよ!」

「……ふむ。そちらも誤解しているようですね。私の愛情が分からないとは……。たっぷりと教えて差し上げますよ!」


 私はエリスを更に締め上げる!

 仕方ない。このまま落としてしまおう。


 エリスは血と汗を流しながらも懸命に耐える。

 だが、油断はできない。ゆえに慎重にだ。


 何を狙っている?


 エリスの唇が動いた!


 やはり来るか! エリスも本気だった。


「私が決めて……。私が創る……」


「天の原 踏み轟かし 鳴る神も 思ふ仲をば 裂くるものかは」


 独自魔法!

 先の大会でアリシア先輩を負かした技だ!


 私は更に強く締め上げるが効果は無い。

 エリスの集中力が凄い!

 次第にエリスの周囲の空間が紫電を帯電していく。

 それに伴って茨が焼かれている。

 拙い!


「『紫の雷霆(ケラウノス)』!」


 一瞬、紫電が激しく輝くと一気に茨が焼き尽くされた!


 更にその紫の電光は次第に嵐となっていく。

 そして私に向かって来る!


 これは止まらない! 止められない!


 だが、エリスがあれだけ耐えて見せたのだ。

 私にも意地がある!


「それは束縛の青き庭。 身体を縛れ。 精神(こころ)を掴め。 青薔薇よ 咲き乱れよ!」


「『青薔薇の庭園(ブルーローズガーデン)』!」


 青薔薇の庭が私を護る。

 それに私はあらん限りの魔力を込める。

 隙あらばエリスを捕らえる算段だ。


 そして紫電の嵐と青薔薇の庭が激突した。


 周囲に紫電と紫電によって散った青薔薇の花弁が舞い踊る。


 アリシア先輩とリリスはその光景に目を奪われていた。


「綺麗ね……」

「ええ。本当に」


 どちらともなくそんな呟きが聞こえた。



 †



 気が付くと私は馬車に寝かされていた。

 エリスが隣で寝ている。


「どうなったんだ? 負けたのか?」


 その疑問にリリスが応えてくれた。


「二人とも魔力切れで倒れたのよ。引き分けかしら」

「そっか……」


 お互い力を尽くした。私の気は晴れていた。

 傷は先輩達が治してくれていた。


 私は手に何かをぎゅっと握り締めていた。

 何だろうと思って見れば青薔薇が一輪。


 普通は魔素に戻ってしまうはずだが……

 疑問には思ったが、まあ良いかと思う。

 私はそれをおもむろに持ち直すと、寝ているエリスの髪に挿してみた。


 ダークエルフの銀髪ロングストレートに一輪の青が映える。


「似合うな……」

「……何のつもりかしら?」


 起きていたようだ。

 エリスは少し不貞腐(ふてくさ)れている様子だった。

 勝てなかったのが悔しいのだろうか。


「頑張ったご褒美?」

「そう。ありがとう」


 クールな対応だが、エリスの頬は朱に染まり目は泳いでいる。

 アリシア先輩はそれを羨ましそうに見ているのだった。



挿絵(By みてみん)

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