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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
42/186

暗雲

 

 カリス王国。王都カリス。


 全てのものはカリスに集まる。そう言われるほど華やかな都だ。

 それは強力な中央集権化した統治によろところが大きい。

 街並みは王族、貴族、商人、下民と明確に区分けされている。

 よってそこには必ずしも良いことばかりではなく、善も悪も等しく集っていた。


 しかし、光の勇者の死後、街の雰囲気は一変した。

 彼の勇者は王都においては絶大な人気があったからだ。特に商人、下民からは圧倒的な支持を得ていた。


 人々の心を映すかの様に辺りは薄暗く沈んでいる。

 天は今にも雨が降り出しそうなほど厚い雲に覆われていた。


「まったく何が元勇者パーティーだよ。金が無いんだったらもう来るんじゃないよ!」

「もう一杯ぃぃ……」


 一人の巨漢が酒場から追い出されてきた。

 男は脈なしと悟るとふらふらと壁を伝い歩き出す。


「なんだよ! 勇者が居た頃はあれだけ持ち上げておいて、居なくなった途端これだよ……皆で邪魔者扱いしやがって!」


 そう愚痴を言ったのは元エリュシオンのダンである。

 パーティーが解散して一人になってしまったダンは当てもなく過ごす日々を送っていた。

 悲しい事にダンは勇者のおまけとしてしか一般に認識されていなかった。

 なので他のパーティーから声がかかる事も無い。


 ふらつきながら歩いていたダンは壁に寄りかかりながらへたり込む。


「うあ? 飲みすぎたか? 足が上手く動かん……」


 そこへフードで顔を隠した怪しげな男がダンへ近づいて来た。

 その男は言った。


「随分と落ちぶれたものだな」

「ああ? 何だと? 喧嘩売ってんのか? 俺を誰だと思ってる? 元エリュシオンのダン様だぞ!」

「ああ、良く知ってるさ……」


 ドガッ! とダンの顔の真横で音がした。

 どっとダンの顔から冷や汗が出る。


 男はダンの顔をギリギリ外すように壁を蹴りつけたのだ!


「なっ! 何すんだ!」

「目が覚めたか? よく見ろよ」


 ダンはしっかりと相手を見た。


「!! おばばぁぁ!!」


 そこにいたのは死んだはずの光の勇者ローレン。


「なんだよ。お婆って……」

「おば……お化け……。死んだはずじゃあ……」

「ああ。死んださ。だが帰って来た。天国からな」

「??? つまりはお化けッ!」


 ダンは混乱している。酔いなど一瞬にして覚めていた。

 顔面は蒼白で巨漢とは思えないほど縮み上がっている。

 そんなダンに追い撃ちをかける様にローレンは言った。


「……天使の話をしてやろうか?」


 逃げようとしたのと、驚きすぎたことでダンは正座になっていた。


「結構です!」



 †



 俺はダンに丁寧に説明してやった。


「理解したか?」

「ああ。つまり光の勇者だったから帰って来れたんだな!」

「……お前に理解は無理だったな。もうそれでいいさ」

「それでまた俺と一旗あげようって事だな!」

「……まあそんなところだ」


 こいつは馬鹿だ。だから使える。


「でも何で顔を隠してるんだ? 生きてることが分かれば待遇だって良くなるだろ?」

「俺はここでは有名すぎるんだよ。身動きが取れなくなるほどな。それにこの状況が好都合なのさ」

「うん? そうか。まあ何だって良いや。それでこれからどうするんだ?」

「王都を離れる」


 ダンはポカンとして呆けていた。意味がわからなかったらしい。

 きっと以前のように王の命令で動くとでも思っていたのだろう。


「はあ? じゃあ何処行こうってんだよ?」

「エルフの国だ」

「何でまたそんなところに……」

「今なら確実に俺を高く売れるからさ」


 状況は俺に都合よく好転している。今は小さいが確実に火種は燃え上がろうとしている。

 それは薔薇の男からの情報だ。


「うーん。いまいちよく掴めないが……」

「でかい旗を掲げてやろうってだけさ」

「そうか。分かった!」


 俺はダンを探しに来たわけではない。

 偶々、使えそうな奴がいたので拾っただけだ。

 本来の目的は下調べだった。俺が死んでから王都の状況が変わったかどうか。


「掲げてやるさ……反旗って名の大きな旗をな」


 俺は喜んでいるダンに聞かれないように呟いていた。



 †



 ダンと会うより数日前。

 俺は天界からこちらへ引き戻された。俺を連れ戻したのはもちろん薔薇の男だ。


 対面の薔薇の男が俺を観察しながら喋った。


「いつも思うんですが、不思議ですよね。人形に魂が入ると、ちゃんとその人の形をとるんですから」

「何を言っている?」

「いえ、人というのは外面からだけではなく内面からもできているのですなと」

「内面が外面に影響すると?」

「そうかもしれません。そうではないかもしれません」


 こいつはいつもこうだ。真理を語るようにして、結局はぐらかす……

 一々、相手をするのも馬鹿らしいのだが、一応助けられた手前、付き合ってはやる。


「俺がいつも思うのは、お前のその人を食ったような性格がどうにかならないのかって事だ」

「おや。これは手厳しい。友人の忠告として肝に銘じておきますよ。直す気は全く無いですけどね」

「……」


 ……だそうだ。


「そんな事より身体の調子はどうですか? 可能な限りは元に近い形にしましたが」


 俺は身体を動かして簡単に確認してみる。やや動きがぎこちない気がする。


「動けるだけ十分か……。元の身体のようにとはいかないものだな」

「まだ馴染んでいませんからね。こればかりは慣れてもらうしかないですね」

「そうか……」


 俺は辺りを見回す。


「それでここは何処だ?」


 俺は天界から召喚された。おそらく召喚魔法だろう。なのでここが何処か分からない。


「秘密結社なので秘密です。……と言いたい所ですが外に出れば分かってしまうでしょう。王都ですよ。と言ってもだいぶ外れの方ですが」

「そうか……。しかし意外だな。お前の性格からもっと生々しい所かと思っていたが……」


 部屋を見渡すが意外と綺麗にしてある。……薔薇を飾りすぎなのは多少げんなりするが。


「ああ。よく言われるんですよね。グロいのとか想像してました? そんなの私が無理ですよ」

「……意外な弱点だな」

「嫌なんですよね。薔薇の香りが死んでしまうでしょう?」


 俺も戦場のような匂いはごめんだ。


「そう言えば、天使共がお前を追っている様子だったが?」

「ええ。少し向こうで悪戯書きをしましてね。それが見つかって追われてしまったのです」

「俺に関係あるのか?」

「いいえ、全く。ちょっとした研究みたいなものですよ。まあ巡り合わせ次第では今後関係して来るかもしれませんがね。私でも未来のことは分かりません」


 薔薇の男は続けて何か思い当たったように言った。


「……そう言えば未来が見えると言われているエルフもいるらしいですね」

「それは胡散臭いな。本当なのか?」

「さあどうでしょうか? 会って確かめてみては?」

「……そこまで興味はないさ」


 薔薇の男は一通り観察を終えると言った。


「では私は報告に行って来るとしましょうか。勇者様はしばらくこの辺りで身体の調整をなさってください。と言っても外出はお勧めしませんよ。勇者が戻って来たと知れたら大騒ぎになりますからね」

「そうだな。それは俺も都合が悪い」


 適度に身体の動きを確かめながら返事をしていく。


「しばらくは自由になさってください。必要な物は用意しておきます」

「助かる。それでお前は俺に何をさせたい?」

「ええ。少し会って欲しい人が居ましてね。貴方の目的にも合致するかと思うのです」

「誰だ?」


 今、言うべきか少し迷ったような素振りをした後、薔薇男は言った。


「アルフヘイムの女王。マリー・アネット様です」


 またエルフか。どうやら本気で会わせたいらしい。


「……王というものには嫌悪感しかないのだが」

「彼女をこの国の王様と一緒にしてはいけませんよ。まあ一度会って見てください」

「……分かった。お前には借りもある会いに行こう」

「おお! ありがとうございます! 絶対、損はさせませんよ。こちらで準備を進めておきますので整い次第向かいましょう」


 それには少し驚いた。


「意外だな。お前も来るのか?」

「ええ。何せ女王陛下ですからね。会うだけでもコネや根回しが必要なんですよ」

「そうか……」


 そうして薔薇の男は去った。報告とやらに行ったのだろう。

 残された俺は……


「先ずは身体の調整だな……」


 言われた通り身体を調整するため、剣の修練に向かうのだった。



 †



 数日後。

 薔薇の男が「準備が整った」と報告してきたので、俺はダンを連れて来ていた。

 薔薇の男はそれを見て言った。


「おや。この方も連れて行かれるのですか?」

「ああ。見ての通り壁としては役に立つ」

「おおい、ちゃんと紹介しろよ」


 俺はダンの抗議を無視するが、薔薇の男はそつなく言った。


「ああ。結構ですよ。ダンさんですよね。大会見てましたよ。ご活躍でしたね。私の事は赤薔薇(レッドローズ)とでも呼んで下さい。私がアルフヘイムまで同行をお願いしたのです。よろしくお願いいたします」

「おお。そうだったか。こちらこそよろしく頼む。赤薔薇さん」


 赤薔薇は商人の格好だ。御者台へ上ると言った。


「ああ。言ってませんでしたが、我々は商人とその護衛ですのでよろしくお願いいたします」

「ああ。分かった」

「うん? そうか勇者って言っちゃ駄目なのか」

「そういうことだ。大騒ぎになるからな」


 俺の言葉にダンも納得したようだ。


 そうして馬車はアルフヘイム王国へと出発した。



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