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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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 アルフヘイム王国。


 女王の間。

 そこは女王の間とは思えないほど華美を排した部屋だった。

 設えられた調度品は一級品であるものの余計な装飾は無く、無味乾燥としている。

 いわゆる華がない、まるで修験者の部屋の様相だ。


 その部屋で一人のエルフの美しい女性が床に結跏趺坐(けっかふざ)を組み座っている。

 彼女は静かに瞑想に入っていた。


 彼女こそハイエルフにしてアルフヘイム女王マリー・アネットである。


 その容姿はまるで十代の少女の様だ。とても(よわい)千歳を超えているとは思われない。

 顔立ちはエルフらしく整い碧眼、金髪のロングヘアーは床に舞っている。

 しかしその美貌には焦燥が浮かんでいた。


「やはり見つからぬ……」


 何度目の落胆だろうか。

 十万回を超えた辺りからもはや数えるのはやめた。

 彼女は一日に一度、必ずこうして識界を探索する。

 ある人物を探しているためだ。


 それはかつて「闇の魔女」と呼ばれた女性だ。

 魔女が亡くなると識界へ(おもむ)くのは分かっている。

 ならば識界の何処かに居るはずなのだ。


 見つからないまま既に千年が経ってしまっていた。

 その間に女王と呼ばれる様になっていた。

 いや、闇の魔女を探すために女王になったのだ。


「何処にいるのだ我が(あるじ)……もう私が耐えられないよ……」


 それは常に彼女を苛んでいた。苦しめていた。

 しかし普段は強靭な精神力でそれを抑え込んでいる。


 だがそれでも時折思ってしまうのだ。

 もう会えないのではないかと。


 それを認めたくなくて彼女はまた焦燥に駆られるのだった。


「早く……せめて彼女の墓さえ見つかれば……」


 彼女にとって闇の魔女とはそれほどの存在だった。



 †



 ランクアップの祝賀会と送別会を兼ねて皆が私の家に集まった。

 結局私の家が便利だろうという話になったためだ。


 私の家は魔導書店ではあるが、お婆ちゃんが造った魔女の家でもある。

 何だかんだで防音とか防壁もしっかりしているのだ。

 お婆ちゃんは「お城より安全かも知れないね」と言っていたが本当だろうか。


 パーティーメンバーの他にもアイリスが来ている。

 あれから生活にもだいぶ慣れたとはいえ、彼女はまだまだ覚えることが多い。

 修道院に一人で残しておくことは出来なかったのだ。


 他にグランさんとアンナさんも来ている。大会の時、二人は救助活動でお世話になっていた。

 その時の功績で二人もランクアップしていたのだ。グランさんが四星、アンナさんは五星になっていた。

 そのお祝いとお礼も兼ねている。特にアンナさんは蒼炎の魔女の家に興味津々でとても喜んでいた。


「まさか俺が四星になるとはな……分からないものだな」

「グランは実力はあるのよ。運が決定的に無いだけ」

「ぐっ……決定的って……」


 グランさんとアンナさんはそんな事を話している。

 うむ、全くもってその通りだ。私もなんだかんだでまだ二星だ。

 それでも一般の年齢的に見ればかなり優秀な方だが、周りと比べるとかなり劣る。

 一度グランさんと冒険者ギルドに抗議するべきだろうか?

 悲運の二人として……


 男はグランさん一人だ。とても肩身が狭そうにしている。「胃が痛い」とまで言っている。

 美女ばかりのハーレム状態ではあるが、隣のアンナさんが目を光らせているのだ。

 彼にとっては拷問状態かも知れない。


 そしてもう一人美女がいる。

 それはもう美女だ。

 整った顔は蠱惑的で扇情的。長髪の黒髪は途中からウエーブがかかり自然に流れている。

 紫の瞳は妖しく輝き、惹きつけられるような魅力を放っている。

 極めつけは身体のいわゆるボンキュッボンだ。大人の魅力である。


 メイド姿なのであまり気にしていないかも知れないが、見慣れないので誰だろうとは思っているはずだ。

 彼女は私が呼んだ今回のための特別ゲストだ。

 私は早速とばかりに言う。


「皆さん気になっている事でしょう。分かります。では紹介しましょう」


 私はあえて仰々しい身振りで注目を集め、促す。


「はい。皆様初めまして。リリスと申します。今回こちらのソニア様と契約いたしまして、こちらでお世話になる事になりました。よろしくお願いいたします」


 リリスが簡単な自己紹介をした。簡素な紹介ではあったが、優雅で完璧なお辞儀は皆に印象づけるのに充分だった。


「ええ。今はメイドさんですが、何と彼女は魔族なのです!」


 私が補足でそう言っても、皆不審気な視線を寄せる。

 それもそのはずで、魔族はそう言うだけで嫌われる事も多いので公にしない者が多い。

 というより、この場合はまるでそんなふうには見えないからだ。


「分かりました。証拠をお見せしましょう」


 そう言って彼女はグランさんの目を見た。つられてグランさんが彼女の目を見てしまった。

 グランさんはダンジョンならそんなことは無かっただろうが、宴の席ということで完全に油断していた。


「うおおおお!!」

「なっ! グラン!?」


 グランさんはやおら立ち上がると、アンナさんを抱きかかえて何処かへ走り去ってしまった。


「……お幸せに」


 私は合掌して見送るのだった。


 皆は呆然として何が起こったのか分からないでいた。

 内心では私も驚いていたが、アンナさんは嬉しそうだったので良いだろうと思う事にする。

 ちょっと冷や汗が出たのは内緒だ……

 クール美少女に動揺は許されないのである!

 それに後はアンナさんが何とかするだろう。ギルドランクも彼女の方が上だしな。


 リリスの目は魔眼だ。と言っても常時発動しているわけではない。魔法と同じで目に魔力を込めるのだ。

 目から魔法を放つ感覚だろう。真似しようとは思わないが。


「まさか……サキュバス!?」

「こいつ本当に召喚しやがった……」


 師匠の言葉に、散華ちゃんが唖然として言っていた。


「納得してもらえたようですね。良かったです」


 そう紹介が終わると彼女は仕事に戻った。彼女は呼んだばかりなのでクロに仕事を教わっている。クロも魔族なので後輩ができて嬉しそうだった。


「フフフ。このまま後輩が増えれば必然的にクロがメイド長ニャ……」


 クロにも野心があったようです。


 その後、皆にはアリシア先輩とエリスが国に帰らなくてはならなくなった事と。

 それに関して私が親御さん(的な立場の人)を説得に行かなければならなくなった事を話した。

 心配をかけてしまうだけな気がしたのでスパイ云々は話さない事にした。

 と言っても師匠は知っているので何かあればよろしくお願いしておいた。


「娘さんをくださいと言いに行かなければならないのです」

「そ、そうか……頑張って来てくれ」


 私がそう言うと散華ちゃんは微妙な顔をしたが、アリシア先輩はとても嬉しそうだった。



 †



 宴会が終わり、私は散華ちゃんと話す。


「すまないソニア。私は今ここを離れるわけにはいかない」

「分かってるよ散華ちゃん。本当は皆で行きたいけど仕方ないよね。しばらく留守にするけど後はお願いするね」


 学園があの状況だ。学生会会長の散華ちゃんと副会長のツヴェルフさんが今ここを離れるわけにはいかない。

 同じく監査役の蓮華先生も。

 師匠もまだアイリスに全て任せるわけにはいかない。

 クロは仕事もあるので留守番だ。

 結局アリシア先輩とエリスについて行くのは私だけになった。

 ああ。そういえばもう一人。リリスはどうするのだろう。後で聞いてみよう。


「ああ。こちらは任せて、安心して行って来ると良い。だが、くれぐれも道中には気をつけるんだぞ」

「うん。でもアリシア先輩とエリスがいるから大丈夫」

「そうだな」


 はっきり言って私は引きこもり系だ。家で読書していた方がマシだと思っているタイプだ。

 だから旅になんか出た事が無い。散華ちゃんが不安になるのもわかる。

 そうは言っても全く興味が無いわけではない。

 何よりお婆ちゃんは冒険者だった頃よく旅に出ていたらしい。

 だから私も楽しみにしている。


「両手に花だしな!」

「ソニア……」


 散華ちゃんが呆れている。しまった声に出てしまった様だ。


「まあ。いつも通りなら良いか」

「もっと寂しがってくれても良いのですよ?」


 私は戯けて催促してみる。


「はは。そうだな。寂しいから早く帰ってくるんだぞ」

「おおっ! 何かやる気でた! ソニア・ロンド必ずや迅速に任務を果たし帰還いたします!」

「ああ。待っている」


 私は皆が散華ちゃんの前でちょろくなってしまうのは仕方がない事だったなと再認識するのだった。



 †



 月明かりが二つの影を照らし出している。

 蓮華とエリス。

 前のパーティー、エリュシオンからの付き合いだ。

 エリスは蓮華に言った。


「蓮華。しばらくお別れね」

「エリス……。すぐに帰って来るのでしょう?」

「ええ。そのつもりだけど実際どうなるかは分からないわね」

「女王様次第というわけですか……」


 エリスは蓮華に全て話していた。アリシアがソニアに話したことがきっかけになったことは言うまでもない。


 思えばエリュシオンに入ったのも蓮華に誘われたからだった。何故誘われたのか当時は分からなかったが今は分かる。

 当時は蓮華も入ったばかりで不安だったのだろう。ソニアと私を重ねたのだ。何だかんだ言いながら蓮華はソニアの事も妹のように気にしているのは知っている。

 きっかけはその程度のことだった。だがその手を取ったのは私だ。

 そしてそれで良かったと思っている。


「まあ、どうしようも無くなったら逃げてくるわ。その時は匿ってね?」

「ええ。もちろんです。華咲の名に懸けて必ず」

「ありがとう。頼もしいわ」


 エリスは思う。

 必ず帰って来ようと。



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