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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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準備

 アリシアが部屋へ戻るとエリスが待っていた。

 二人は今、一緒に暮らしている。

 ここではあまり目立つわけにはいかないので一般的な部屋を借りている。

 木製の寝台、椅子、机、がそれぞれ一つ。

 故郷を意識したのか、わりと観葉植物が多いのが特徴的ではある。

 最近になってエリスが転がり込んだので、やや手狭な思いをしながら肩を寄せ合って暮らしている。


「エリス……」

「話してしまったのね?」

「判るの?」

「何年の付き合いよ……もちろん判るわ。でも困った事になったわね。いえ、女王様に知られていないならまだ大丈夫かしら。女王様だけでなく他の七剣にも注意するべきね」


 女王の七剣はエリスとアリシアで一つなのであと六剣だ。


「特に注意するべきなのは司祭スクルドね。他は近衛隊長のブリュンヒルデは動かないとしても、ミスト将軍にも気をつけるべきかしら」


 スクルドは「未来を見る」とまで言われている。

 本当に未来が見えるのか判らないが、感づかれたら厄介な相手には違いなかった。

 加えて彼女は司祭だけあって独自のネットワークを持っている。この街に居ても安全とは言えない。


 近衛隊長のブリュンヒルデは強いが女王様の傍を離れないだろう。


 ミスト将軍の霧魔法はアルフヘイム軍を常勝にしたと言われる。「霧が出たら気を付けろ」と周辺諸国を震撼させていた。


 他の残りの三剣も劣らぬ猛者だ。できる限り戦いは避けたい。


「ごめんなさい。巻き込んでしまったわ」

「本当よ……といっても私も蓮華を放って置けないし立場は同じなのよね」


 それを聞いて、どこか恍惚としながらアリシアはエリスに言う。


「私、分かったの」

「何を?」

「私の女王はあの子だったのよ」


 嬉しそうに話すアリシアに対して、それを聞かされるエリスはちょっと引き気味だ。


「そ、そう。でもその発言は拙いわ。控えなさい」

「……そうね」


 そうは言っても、決して同胞を裏切りたいわけではない。

 微妙な立場に立たされてしまっただけなのだ。


「何とか女王様を説得するしかないわね」

「そうなるとやはり鍵は……」

「お墓ね」


 二人は今後どう行動するか悩むのだった。


「既に帰還命令は下っているわ。あまり猶予は無いわよ?」

「できる限りの準備を整えてから出発しましょう」

「そうね」


 そうして二人は帰還準備に取り掛かかるのだった。



 †



 学園の端の聖堂に隣接する修道院。


 私は師匠に相談するためにここへ来ていた。

 女神だった少女は修道院で師匠達と暮らしている。

 何故かツヴェルフさんまで修道女になっていたのには驚いた。


 修道服を着た彼女は私にアピールしてくる。

 メイド服姿も捨てがたいが、これはこれで新鮮だった。

 同じ衣装でも師匠とはまた違った魅力がある。

 自動人形(オートマタ)の独特なクールさも相まって神秘性さえある。

 師匠の妹シスターに相応しい。


「とても可愛いです!」


 私がそう言うとツヴェルフさんは満足して仕事に戻った。


 女神だった少女は昔の記憶が無い。私達と戦った事も覚えていない様子だった。

 名前も判らない様だったので私達がつけた。


 彼女は庭の花に水をあげていた。

 今はしていないが女神だった時、頭に花冠をしていたのを思い出す。

 花が好きなのだろう。


「アイリス。調子はどう?」

「ソニア。もう大丈夫」

「そう、良かった。師匠は中にいる?」

「うん。案内する?」

「自分で行くからいいよ。仕事続けて」

「分かった」


 そうしてアイリスは水遣りに戻る。

 楽しそうに水遣りをする彼女はすっかり普通の娘だ。

 とてもあの女神だったとは信じられない。


 師匠の部屋へ行く。

 師匠への相談はもちろんアリシア先輩の事だ。


 事が事だけに相談にも相手を選ばなければならない。

 あまり拡散させると女王の耳に入ってしまう恐れがある。

 他にも一応、この国でも注意は必要だ。密偵は衛兵に逮捕されてもおかしくはない。

 だが、幸いこの街は荒くれ者の冒険者も多いのでその辺りは緩い。調べ始めれば切りが無いからだ。

 王都ならまた別なのだろうが……


 師匠の部屋へ入ると彼女は書き物をしていた。

 ちらりと見ると数字が並んでいる。

 経理的なアレか。人が増えたしな。

 私も得意とは言えないので敢えてそこには踏み込まない。


「師匠。仕事中すみません。相談したいことがありまして」

「良いですよ。迷える子羊の悩みを聞いてあげるのも仕事ですから」


 そう言って彼女は私を座るように促した。


 ……惚れました。いつものことですが。



「どうですか彼女の様子は?」


 いきなり本題に入るのもどうかと思ったので、はじめに私はアイリスの事を尋ねた。


「ええ。最初は何も分からずに大変でした。でも今は慣れたようで逆に助かっているくらいですよ」

「おお。流石師匠。既に恐怖で支配していたとは……」

「ソニア。人聞きの悪い事を言わないでください。ちゃんと懇切丁寧(こんせつていねい)に教えました」


 ……ええっ!?


「馬鹿な……。私にはあんなに厳しいのに……」

「彼女は良い子ですからね。悪い子には当然お仕置きです」

「くっ……どうしても師匠のお仕置きに心惹かれてしまうッ! 」


 甘美な香りさえするっ!


「ソニア……。もう貴女はそれでいいです」


 つける薬無しとばかりに彼女は匙を投げた。見捨てないで欲しい……


「それで話があるのでしょう?」

「そうでした。実は……」


 アリシア先輩に聞いたことを師匠には包み隠さず話した。


「……そうですか。理由はどうあれ、ここをしばらく離れるとなると皆に知らせないわけには行きません。一度皆で集まりましょう。一緒に予定していたギルドのランクアップのお祝いもしましょうか」

「おお。それは良いですね!」


 そうして皆で一度集まる事になった。



 †



 生徒会 

 新体制になってから第一回目の会議。

 基本的には顔合わせだ。


 毎回思うが何故私がここにいるのだろう?

 今回はアリスにどうしてもと頼まれていた。

 彼女が言うには最初が肝心なのだそうな。


 会議には暗黒騎士団からは幹部連中が参加することになっている。

 確かに我々暗黒騎士団は新参だ。今まで務めてきた聖騎士団に一日の長があるのは否めない。

 しかも憧れだった聖天使様にお近づきになれるのだ。舞い上がってしまうのは仕方がない。


 聖騎士団の方を見るとアリスが大会で戦ったクリスティの隣に同じく大会で戦った聖女リリィが居た。

 聖騎士団に引き抜かれた様だ。聖騎士団の方も暗黒騎士団を意識しての行動に違いなかった。


 さらに今回は特に皆、異様な緊張感に包まれていた。暗黒騎士団だけでなく聖騎士団まで。

 それもそのはず。


「どうして蓮華姉さんまでいるんですか?」


 散華ちゃんの隣でピッタリとくっついているのは蓮華姉さんだった。

 私がそう聞くと反応したのは他の学生だ。


「やはりあれは蓮華様……」

「大天使様までご降臨なされるとは……」


 皆知ってはいても一様に驚いている。

 すでに大天使様と呼ばれていた。


 蓮華姉さんは私の質問に答えた。


「この度の損害によります街からの監査役として参りました。華咲蓮華です。一応教師という立場になりますのでよろしくお願いいたします」


 この女、やりやがった!

 華咲家の力で強引に捩じ込んだに違いない。

 そこまでして散華ちゃんと一緒に居たいかッ!


 まあ良いか……。見ていて面白いし。


 続いて散華ちゃんが言った。その表情はどことなく疲れている気がする。


「うむ。そういう事だ。皆よろしく頼む。……あと姉様、近いです」

「あら。ごめんなさい」


 そう言いながらも全く離れる気は無い蓮華姉さんだった。流石っす。


「そうですね。せっかくですし、ここでは姉様ではなく蓮華先生にしましょうか?」

「……分かりました。蓮華先生」


 渋々言わされる散華ちゃん……

 どうしてこうなった……と顔を伏せながら呟いていた。


「ふふ。新鮮で良いものですね」


 対照的に蓮華先生は喜色満面だった。


 その後、簡単な自己紹介が終わると副会長のツヴェルフさんが現状報告をした。

 大会会場の闘技場は現在、復旧工事中だ。

 他にも破壊された場所の点検、工事と報告を聞いた。

 思っていたより、破壊の損害が大きかった。


「これは蓮華先生に来てもらって正解でしたね」


 私が散華ちゃんにそう言うと、散華ちゃんもその点には感謝しているのだろう。


「そうだな。蓮華先生。しばらく忙しくなるでしょうがよろしくお願いいたします」


 散華ちゃんのその言葉にさらに気を良くした蓮華先生は……


「ええ。一緒に頑張りましょう!」


 ちょろいなッ!


 そうしてこの日の会議は終わった。



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