魔悪獣浄化士‐フェアリー‐
人々を救わんとする一人の女子高生の秘密のお話です。若干日曜朝の八時三十分に出てくるアニメの影響もあるかと思われますが、それのパロディに近いものと思っていただけたらば、幸いです。
一応は魔法少女っぽいお話かも?
高校生、ユウコには秘密がある。
それは誰にも言えない――いや、『言う』ということが恥ずかし過ぎる秘密である。ハートの形をしたヘアピンをし、どこか憂鬱そうに彼女が登校していると、誰かに声をかけられた。そちらの方を見れば、そこには彼女の友人であるサヤカが手を振っているではないか。
「おはよー、ユウコ」
「うん、おはよ」
二人は幼い頃から仲が良く、ほぼ毎日遊んでいるようなものである。彼女と合流したところで彼女たちの歩くペースはほんの少しだけ上がった。
一瞬の沈黙ののち、サヤカは「ねー」と呼びかけてくる。
「昨日の夜のこと知ってる?」
彼女のその言葉に、僅かながらユウコは反応を見せた。だが、サヤカは気付いていない。
「き、昨日のこと……?」
どこかたどたどしくも、それでもサヤカは気付かない。
「そうだよ。何でも、通り魔でも強盗でもないし、野良犬とかでもない奇妙なバケモノがOLの人を襲ったって。ウチのおとーさんが言ってたんだよ。ていうか、見たんだって」
「へ、へぇ。こ、怖いね……そ、そのOLの人って無事なの?」
「うん、その時に何かキラキラとしたカッコの人が助けて無事だったんだってさ」
「……そう……」
この話題に関してサヤカと視線を合わせようとしないユウコ。更に彼女は学校の教室でも話題になっているOL謎のバケモノ事件にあまり関心を抱こうとしていなかった。それを最初から知っていたから。
目撃者はサヤカの父親以外にも目撃者は多数いる。それすらも知っていたから。
それには理由がある。
何故って、そのOLを助けたのは何を隠そう――。
「なんで、毎度ながらこんなカッコしなくちゃいけないんですか!?」
涙ぐむはどこぞの日曜朝八時三十分頃にテレビに出てくるアニメキャラが如し服装の女子。ヒラヒラのフワフワとしたレース付きの女児が好みそうなピンク系のスカートに、胸元には大きなかわいらしいリボンが。その真ん中にあるのはブローチだろうか。ハートの形をしているではないか。
「これ、高校生が着てもいいモノじゃないでしょ、絶対に!」
顔隠しのつもりでもあるのだろう。目元だけ隠すように施されたマスクが。
そう、涙目で眼前に居る白衣の老人に対して訴えているのはユウコである。
「もっと、こんなのじゃない服がいいです!」
「ふーむ、そうは言ってもね。じゃあ、これは? とあるプロレスラーの衣装をモチーフにして……ほら、きちんと誰だか判らないようにしてマスクもあるよ」
「嫌ですよ!? ていうか、派手過ぎるでしょ」
自分は目立ちたくないと彼女は断言した。その言葉を老人は受け入れる気が無いのか「目立ってナンボでしょ」と開き直っているではないか。
「正義の味方は常に目立っておくべきだ。戦隊ヒーロー然り、仮面ラ●ダー然り、プリ●ュア然り。みんな燦然と輝いているだろう?」
「それって、創作の世界での話ですよね? これ、現実ですよ。現実」
こんな格好をするくらいならば、とユウコが現在来ている衣装から学校の制服に着替えようと部屋から出ようとした時だった。
突如として部屋の電気が真っ赤に変わり、サイレンが鳴り響いた。そんな状況を待っていたと言わんばかりに、老人は「魔悪獣じゃ!」と嬉しそう。
「ユウコよ、キミの出番だ! この町の人は謎のヒロインである魔悪獣浄化士が来るのを待ちわびているぞ!」
「絶対嘘だ!」
なんて怒鳴り散らしても無駄だということを彼女は知っていた。何故かと言うと、願っても考えてもいないのに体が浮遊し出したからである。これはすぐに魔悪獣のもとへと行くことができる魔悪獣浄化士の能力でもあるのだ。
「魔悪獣浄化士よ、幸運を祈るぞ!」
グットラックとでも親指を立てる白衣の老人に、怒りの念を飛ばしていたユウコは瞬く間にその場から飛び去って行ってしまった。
冗談じゃない、こんなの止めたいと思っていたとしても、それは叶わない話である。これに彼女は大きくため息を吐いていると、もう魔悪獣のところへと辿り着いた。
それが狙っていた人物を彼女は見て驚愕する。その人物こそ、ユウコの友人であるサヤカだったからだ。
「サヤカ!?」
ここで恥ずかしがっている場合ではない。彼女はサヤカを助けるべく、右足に力を込めて毛むくじゃらの魔悪獣を蹴り飛ばした。
「へ、はっ!?」
驚くのも無理はないだろう。突然のバケモノの登場に加えて、謎のヒロインが助けに入ったからだ。傍から見れば、何かの特撮でもしているのだろうかとカメラを探しそうなほどである。だが、これはテレビのロケでもない。
現実である。
「も、魔悪獣! あなたのしようとしたことはこの魔悪獣浄化士が許さないんだから!」
ゆっくりと地上に降りてきて、相手を指さすユウコ。これが恥ずかしいのだが、まだマスクをしている分マシと言えるだろう。
しかし、声でサヤカにばれてしまえば、一発でアウト。痛い人間にしか見えないだろう。
だとしても、魔悪獣はお構いなし。誰かを襲う前に、邪魔者であるユウコを倒さんとして躍起になっていた。大声の雄叫び。こんな閑静な住宅街ででかい声を上げてしまえば――。
「う、うわっ!? なんだありゃ!?」
「えっ!? 昨日のバケモノみたいなの!?」
当然、野次馬が増えるだろう。戦い難いのではあるが、そんな悠長なことは言っていられない。何としてでもすぐに退治しなければ、被害は大きくなる一方だから。
ユウコはあの老人から聞かされていたことを思い出す。
【良いか、ユウコよ。魔悪獣は人の魂を奪い取って、それを喰らう。まさしくモンスターと呼ぶに相応しいバケモノどもじゃ。それを阻止するのが魔悪獣を浄化する役目を持つ魔悪獣浄化士、ユウコのことなんだよ】
何故に魔悪獣を浄化しなければならないのかも思い出した。
【元々、魔悪獣は悪霊が手を付けられないほどまでに邪悪化した存在である。古来よりエクソシストたちが悪魔祓いやらを応用してきていたのだが……ヤツらを成仏させるのは魔悪獣浄化士の素質があるユウコだけなんじゃ!】
そう、ユウコはこの世に現れる最悪悪霊を成仏させるための高等悪魔祓いの者なのである。
「その子には――手を出させない!」
彼女は羞恥心よりも、友人の無事を願う。
「この世を彷徨う迷い子よ、古来より引き継がれてきた清き退魔術の力によって裁きを。全ての悪の権化よ、正義の浄化により成仏せよ!」
直後、ユウコの胸元にあるハート型のブローチが光り出す。その光はやがて収束していくと――。
「聖☆光線!!」
一気に眩い光が魔悪獣へとぶつかる。その攻撃を受けて、それは苦しそうに唸り声を上げていた。
「天まで届け!」
光線が消えたかと思えば、魔悪獣が居た場所は轟音を辺り一帯に散らかしながら爆発してしまった。爆音に爆煙、誰もが爆心地を見ることはできないぐらい目を開けられないようだ。
やがて、煙が晴れた頃には魔悪獣も魔悪獣浄化士もいなくなっていた。
「あ、あれ……?」
呆然と元爆心地を見つめる民衆。そんな彼らをユウコは電柱の上で見つめていた。もう魔悪獣は成仏されたのだ。だから、彼女があの場に居る必要はない。
彼女はサヤカを含めた野次馬に背を向けると、その場から飛び去って行ってしまった。
高校生、ユウコには秘密がある。
それは誰にも言えない――姿格好は恥ずかしいのだが、日夜この世に生きる者たちを守るために彼女は戦うのだ。
それが魔悪獣浄化士、ユウコである。




