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ごちゃごちゃ  作者: 池田 ヒロ
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ドッキリ大成功

 テレビ番組『ドッキリ大成功』で初めてテレビ出演であるギヤー・クリキッド。彼は人気の女性アイドルリカたんの寝起きドッキリのためにホテルから合鍵を拝借して、部屋へと侵入するのだが――?

「おはよぅございまぁーす」


 暗がりの中、お笑い芸人ギヤー・クリキッドが朝のあいさつをする。現在の時刻は朝の五時三十分である。そして、彼がいる場所は都内のホテル。こんな早朝に何をしようというのかと言うと――ギヤー・クリキッドがポケットから何かを取り出す。その何かとはホテルのとある一室の合鍵である。


 それを見せびらかしながら「これより」と周りに考慮して小さな声を出す。


「これより、話題沸騰中のアイドル、リカたんの部屋に侵入しようと思いまぁーす」


 アイドル、リカたん。その名の人物はSNSをしている老若男女に人気の女性アイドルなのである。今のご時世とは思えないほどまでにCDの売り上げを叩き出していたりもする。そこまで有名アイドルに対して、ホテルの室内へと侵入する不審者――失敬。お笑い芸人ギヤー・クリキッドはちょっとずつではあるが、売れ始めている若手芸人である。そんな彼がどうしてこのようなことをしているかというと、テレビ番組の寝起きドッキリをするのである。


 より臨場感を出すために、カメラマンや音声担当は入らない。代わりにギヤー・クリキッドただ一人がカメラを持ってリカたんの部屋に入るのである。内心ワクワクしながら、鍵をゆっくりと回す。乾いた音が聞こえると「開きましたー」とごく当たり前のことを言う。


「早速、入ってみましょー」


 中へと入ると、ホテルの独特なにおいとほんのり香水のにおいが漂っていた。これがリカたんのにおいか、と彼は堪能する。


 ギヤー・クリキッドはアイドル寝起きドッキリでよくある歯ブラシや割りばし舐めをやったり、置かれていた服のにおいを嗅いだりと変態を見せきったところでリカたんが寝ているであろうベッドの前にやってきた。どうやら彼女はうつ伏せで寝ているようで顔がよく見えなかったのだが「寝ている、寝ている」と至極当然のことを言うあほ。


 ディレクターから聞かされていたやり方は一気に布団を取るということだった。


 もしも、リカたんが全裸で寝ていたらと考えるだけで鼻血が出てきそう。


 俺が芸人で初めてリカたんの裸を見るかもしれないという羨望を抱きながらも、「おはようございまーす!」と勢いよく掛布団を取った。


 取った途端、寝ていたリカたん――いや、男性がびっくりした様子で起き上がった。何が何だかわからない様子で「は?」と機嫌悪そうな声音でギヤー・クリキッドを睨みつける。


「誰、お前」


 一方でギヤー・クリキッドもまさかのリカたんではないことに驚きを隠せなかった。あまりの混乱に「え?」とばかり言っている。いや、それはこちらのセリフだとして、男性は「え、じゃねぇし」とすこぶる機嫌悪そう。


「いきなり人の部屋に入ってきて何、お前。――ちょ、従業員さん……」


「いやいや、待ってくださいよ!」


 必死に男性を止めようとする。ない頭を必死でフル回転させて、現状を理解しようとしていた。そこで導き出された答え。


 逆ドッキリ!


 つまり、男性が電話するというのは嘘で、従業員だと思ってこちらにくるのはリカたんたち。「ドッキリ大成功」という逆ドッキリを仕掛けていたのかもしれない。ここは若手芸人であるならば、わざとでも引っかからなければ。どこかに隠しカメラがあるかもしれないから。


 そう考えたギヤー・クリキッドは「待ってくださいよ」とどこか必死になりつつも、男性の通報を許した。


 そうしていると、部屋の方に従業員が重々しい表情でやって来た。あら、ここでドッキリ大成功ではないのか。それならば、どこでなのか。


 先が読めないドッキリに戸惑っていると、従業員は「何をしているんですか?」と怪訝そうに訊いてくる。


「あなた、どうやって他のお客様の部屋に侵入されたんですか?」


「え、いや、合鍵を使って……」


「はい? 何をしているんです? 窃盗と不法侵入ですよ。ちょっと、事務所に来てもらっていいですか?」


 あれ、何かがおかしいぞ。雲行きがあやしいぞ、と思いながらも素直に従業員に連れられて事務所へ。そこでも「ドッキリ大成功」はなく、代わりに来たのは警察だった。


 いよいよとドッキリどころではなくなってきた状況にギヤー・クリキッドは泣きたくなった。自分はただ単にリカたんの寝起きドッキリを実行しようとしただけなのに。向こうの事務所から許可ももらっているはずなのに。


 どうなっているんだ、と不安ながらも一日留置所にいなくてはいけなかったという。それから翌日にギヤー・クリキッドが連れていかれた場所はなんと裁判所。流石に現行犯逮捕されて翌日に裁判所に連れていかれるなんてありえないと知っている彼は、本当はここで「ドッキリ大成功」が出るだろうと少しだけ余裕が生まれた。


 中へと入り、弁護すらも一切なく『死刑』と言い渡される。これにやっぱり、と確信を持つ。そろそろ札を持ってリカたんたちがやってくるだろう。ここでシミュレーションするならば「もお~」か。それとも「よかったぁ~」か。いや、わざとらしいから「ここに連れてこられた時点で気付きました」と言うべきだろう。


 見え見えの逆ドッキリだったのか。そんな安心をしたまま――。


――数年が過ぎた。


 ギヤー・クリキッド――本名坂田タカオは刑務所の中で数年も「ドッキリ大成功」を待ち続けながら過ごしていた。どれだけ待っても、それはやってこない。精神的にもすり減らされている気がする。だって、同じ刑務所に普通に報道で見るような犯罪者と一緒にいるんだもの。怖いわ。


 怖い、怖いと頭がハゲそうになりながらも――。


――死刑執行日が来てしまった。


 まだ「ドッキリ大成功」はない。もう、これってドッキリではなくなっている気がしていた。自分は本当に犯罪者というレッテルを張られたままなのか。それは違う。自分はディレクターの言う通りにあの部屋に入り、アイドルのリカたんに寝起きドッキリを仕掛けようとしたのだ。


 何もおかしなことはしていない。それなのにだ。


 死に逝く時間が刻々と近づいてきた。時というのは非情だ。いや、テレビ業界自体が非情だ。誰も弁解してくれないだなんて。


 坂田タカオの目には一筋の涙が。そのときだった。頭上からパカッと軽い音が聞こえてきた。何かと思えば、上の方からキンキラの紙吹雪が落ちてくる。思わず見上げた。そこにあったのは――。


『ドッキリ大成功』


 そう書かれたくす玉だった。


 そうだ、ようやく長い長いドッキリは終わったのである。自分がいた部屋に数年ぶりに見たリカたんやディレクターたちが中へと入ってくる。坂田タカオ――ギヤー・クリキッドは何かしらの反応を見せるために口を開こうとするのだが、その前に彼女が――。


「終わりました」


 何のこっちゃ。


 首を捻っていると、ディレクターが「ごめんね」と笑いながら言う。


「これ、数年かけた盛大ドッキリだったんだけど、もう番組が打ち切りになっちゃったのよ」


「えっ、ぼ、僕のところのオンエアは……」


「本当にごめん。全部カット」


 こちらのドッキリよりも、番組打ち切りという事実に驚かされたギヤー・クリキッドであった。

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