サービス業
※以前投稿した事のある作品です。
自営業で、『何でも屋』の事務所を構えるリストラされた伯父の仕事の手伝いをする事になった孝司は初めて仕事に着手する事となる。だが、その仕事の依頼内容が自分たちにとって全くの専門外である上、伯父の孝雄は危険を顧みようとしなかった。
『サービス業』
それだけ書かれた看板。雑居ビルの一室には少年と中年男性が事務机を向い合わせにして座っていた。
「……来ないな、客」
ぼそり、と男が呟くも、少年――孝司は当たり前だ、と心の中で呟いた。
ここはどういう所かと言うと、『何でも屋』である。その『何でも屋』を営んでいるのは彼の伯父である孝雄なのだ。
以前、孝雄はリストラに合い、再就職にやる気を見せなかった事に怒りを覚えた孝司の祖母が発破を掛けたのはいいのだが――何故かこのような怪しい店を展開してしまったのである。
身内の反対を押し切って、ここまでする彼に祖母は監視役としてアルバイトを考えていた孝司を送り込んだのである。因みに時給は五百円と安い。
「来ないって、伯父さんさ――宣伝とかした? ほら、SNSとか使って」
「もちろんだ。これでも俺は元IT企業に勤めていたからな。ネット関係は強い」
それならば、一件くらいの依頼があってもいいのではないだろうかとたじろぐ孝司。そうであろうとも、孝雄が営業を始めてから一度も客は来ていないのが現実。
だったならば、宣伝の仕方が悪い以外他無いとこの事務所――『サービス業』のホームページを見せてもらった。中々に無難な感じのようでもある。
「うーん、悪くは無いよね」
「そうだな。何でなんだろうか」
「まだ、電話も来ていないんだよね?」
孝司がそう尋ねた時、孝雄は片眉を上げて「電話?」と首を捻る。
「何で、そこで電話が出てくるんだ?」
その発言に頭を抱える甥。社会経験が無くとも、普通に考えて分かる電話依頼だと言うのに。もしかして、あれだろうか。メール以外の依頼は受け付ける気が無いとか。
孝司はメールで依頼を受けるのか、と聞いてみると――。
「もちろんだ」
意気揚々に答える。
「きちんと、メールのやり方は載っているからな」
自身の伯父のその発言に耳を疑わざるを得ない。わざわざそのような事をしなくても、今はネットの時代だから誰もが解ると言うのに――。そう思いつつもメールの送り方を開く。
①黒い封筒と黒い便箋を用意します。
②便箋には赤いペンで依頼内容を記入します。
※依頼主名、住所、電話番号の漏れが無いようにお願いします。
③窓辺に合わせ鏡を用意して、黒い便箋を入れた黒い封筒を真ん中に置きます。
④後は届くように念を込めるだけです。
「どこの黒魔術だよ!?」
何を考えて、こういう風にしたのか小一時間問い詰めたくなる程の混乱。むしろ、悪魔召喚とかの方なのでは? という以前に届いたならば、それはそれで素直にすげぇ。
そして、何よりそのメールの送り方としての分かり易い写真に自分が使われていたという事にもツッコミをせざるを得ない。明らかな合成写真に、無駄にクオリティが高いのが腹立つ要因を形成していた。
「伯父さん、こんな気味の悪いメールをするくらいならば、誰もが他を頼るよ」
「そうか? こっちの方がなんか人気が出そうだと思うんだけれどもなぁ」
「事実、切手張って郵送しないと届かないし」
何を考えているんだか、と孝司がため息を吐いた時――窓辺の方から孝雄が飼っているオウムがやって来た。口には黒い封筒を加えて。
「うわっ、マジで来た!」
ありえない話が、ありえる話へとすり替わってしまう。これには逆に不気味さを感じる。特にオウムがそれを見分けてこちらに届けに来てくれるという事が。
恐怖感を覚える彼をよそに孝雄は「ご苦労さん」と黒い手紙を受け取った。早速中身を開けて見るも――。
「見辛い」
便箋に執筆されているのは赤いペンである。見難いのは当然だ。
孝雄は室内の光や太陽の光を利用して、ようやく依頼内容を読み取る事が出来た。必死に解読をしている彼を見て孝司は馬鹿だな、としか思えなかった。
依頼内容は『家に奇妙な気配を感じるから何とかして欲しい』だった。
「奇妙な気配? 野良ネコとかネズミがいるとかかな?」
「いや、おそらくは幽霊の類だ。――という事で、孝司。憑りつかれないようにこの容器に手を入れろ」
どこからともなく取り出してくる器の中に彼は戸惑いながらも手を突っ込んだ。その途端に孝雄は大量の塩を投入してくる。これに慌てた彼は「待ってよ!」と呼び掛ける。
「何しているの、伯父さん! というか、僕たちだけで幽霊を退治出来ないでしょ!? それこそ、霊媒師の人たちとかに仲介して貰った方が――!!」
「俺は仲介料を取られるのが嫌なんだよ!!」
『あくまでも』彼は自分たちで何とかするらしい。出来るはずなど無いのに。下手すれば、こちらや依頼主が祟られるがオチだと言うのに。
塩で清めたくらいで何とかなる訳もないのに。
彼を思い留めさせようと、孝司は説得を試みるが――人の話を聞かずして、自分を連れて行こうとする最低伯父。こうして彼らは依頼主の下へと向かうのだった。
初の依頼主の表札には『阿加井』とあった。確かに、家の前に来て妙な気配はするなと孝司は思う。本当にど素人の自分たちが除霊なんてやってもいいものなのだろうか。
不安に思う彼をよそに孝雄は呼び鈴を鳴らした。すると、すぐに依頼主である阿加井が出て来てくれる。ぼさぼさ頭にどこか暗い表情の中年女性。顔色が悪そうであるが――。
「こんにちは、『サービス業』です! 此度はうちをご利用いただき、ありがとうございます!」
「……どうも。――早速、お願いをしてもらってもよろしいですか?」
「ええ、是非とも! ほら、入るぞ」
阿加井に案内されて、二人はとある一室へとやって来た。先程に比べて何とも気味の悪い雰囲気よ。依頼状を出す為に設置した合わせ鏡がより一層不気味さを強調させていた。
「……本当に届くとは思いませんでしたよ」
それはこちらの台詞です。
「――それで、奇妙な気配とやらは幽霊ですかね?」
「……みたい、です。家の中で何度か黒い影を見たり……」
「ほうほう、他には?」
「夜、寝ている時に上に乗って来て、首を絞めに来たり……」
――ガチの幽霊の奴だ!
これを請け負うなんて――本格的に除霊でもしてもらった方が万倍マシなのに。伯父は何を考えているのか。いや、というか普通に霊媒師にお願いをすればいいのに。
「お、伯父さん……」
ここは自分たちが入ってもいい領域じゃないよ、と孝雄に言おうとするが――。
「ならば、今から悪霊をこの家から追い払いましょう」
聞く耳を持たない。ああ、この人が祟らればいいのに。
除霊なんて全くの未経験。危険な行為を金欲しさにやってしまうとは何と愚かな。
そもそも、自分たちに災いが怒らないように塩塗れになっただけだと言うのに。それで何が出来ようか。
「なので――阿加井さんは部屋の真ん中で『空気椅子』をしてもらってもいいですか?」
――本当に何が出来ようか。
「何を考えているの、伯父さん!?」
「何? 何って――今からお前と幽霊が椅子取りゲームをするんだよ」
――馬鹿じゃねぇの? いや、マジで。
自分と悪霊が阿久井の席を賭けて勝負、って誰が上手い除霊法をしろと言った?
いや、それ以前に彼女は孝雄の言う事に従って本当に空気椅子を実践している。
「まず、幽霊も現れないとゲームは出来ないからな。阿加井さん、頑張って」
「現れるまで阿加井さんそのままなの!?」
それはそれで一番ひどい。そして何より、阿加井が限界なのか赤い顔になって来ている。更に、幽霊は現れる気配は無い。
「…………!」
それでも粘り続けて空気椅子を実践している。
「あ、阿加井さん! 無茶しないでください!」
何故にそこまで頑張ろうとしているのか甚だ不思議で仕方が無い。そうだとしても、彼女の体力的に限界は訪れてくるはずだ。やらなくてもいいと言っているのにまだやろうとする彼女の精神はある意味強いのではないだろうか。
――じゃなくて!
何故かしら歯止めが効かない阿加井を楽にさせたいと孝司は苦肉の策を考えた。
「お、伯父さん! 椅子取りゲームを始めようよ!」
「何で? 幽霊まだ来ていないぞ?」
「来る、来ない以前に阿加井さんの体力限界が近付いてくるんだよ!!」
幽霊なんて待っていられるか。とでも言うようにして、強引にゲームを開始させた。
いや、それが良い。彼女が痛々しくて見ていられないから。
孝雄はしょうがないなぁ、と勝手に音楽を流し始めた。
曲は椅子取りゲームでも定番の『藁の中の七面鳥』。
流れる音楽に沿いながら、孝司は不本意ながらも顔を真っ赤にさせている彼女の周りをぐるぐる回る。部屋の中で妙な気配は感じつつも陽気に軽快に曲は流れていた。
十秒、二十秒、三十秒と経つが、一向に孝雄は曲を止めようとしない。それどころか、一時停止の部分に手を置こうとはしていない。
まだだろうか、阿加井は大丈夫だろうかと思いながらもぐるぐる回る。
それから、三分、五分が経とうとしていた。エンドレスに曲を流すつもりなのか。止める気は一切無い。
――いや、それよりも阿加井さん凄いな!?
相当時間が経つと言うのに、未だ空気椅子を実践している。足が震えているのに。ああ、もう耳まで真っ赤。
「お、伯父さん……」
流石に、と孝雄の方を見るが「まだだ」と言う。
「まだ、幽霊が現れていないでしょうが!!」
――だとしても、適度! 適度を考えろよ!!
これ、伯父が彼女に殴られても何も問題は無いよなと思っていると――。
(最初からずっと現れているし、俺は幽霊じゃなくて悪魔だ!!)
そう誰かがツッコミを入れる。見えない何かが、孝雄の顔面に当たるも――。
(ぐああああああああああ!?)
見えない何かが断末魔の叫びを上げた。何事か、と警戒しながらも周りを見るが、何もいない。強いて言うならば、家に入って来た時から感じ取っていた気配が消えたぐらいか。
「な、何? 今の……」
もう叫び声は聞こえない。それと同時にようやく阿加井の限界が訪れたようにして、彼女はその場に座り込んだ。この部屋にエンドレスで流れ続ける『藁の中の七面鳥』をよそに彼女は何かが変わったように周りを見渡す。
「あ、阿加井さん――大丈夫ですか?」
「は、はい。――な、何と言うか……肩の重荷が抜けた気がして……」
「え? 何でだろ……?」
理由が分からずにいると、顎を抑えていた孝雄が「塩の力だ」と言う。
「さっき、俺の顎に何かが当たったんだよ。でも、残念ながら俺と孝司の体は塩塗れだ」
「と言うよりも、僕たち以外の声が聞こえなかった?」
『悪魔』、という言葉が聞こえた気がする。
「おお、何だお前もか。俺もはっきりと聞こえたぞ。幽霊じゃない、悪魔だって。流石は塩だ。幽霊だけじゃなくて悪魔にも使えるとは」
という事は――孝雄たちは除霊ではなく、悪魔祓いをしたという事になる。
「えっ……何だか、グダグダなんだけれども……」
「追い払えたからいいんじゃない?」
「雑だな、おい」
それからというものの、実質偶然的に悪魔祓いを終えた孝司たちは阿加井から謝礼金をきちんといただいて帰路につく事にした。
その帰り道、孝雄は――。
「今度から悪魔祓い専門の『サービス業』をやろうか考えているんだが――一緒にやる?」
「一生祟られろ、馬鹿!!」
孝司は伯父の依頼の仕方に始まり、幽霊や悪魔関連する事は手出しさせないようにしたと言う。
補足として――危険過ぎる除霊方法もしくは、悪魔祓いの仕方ですが、登場人物の阿加井さんは孝司にきちんとした除霊をと言われて後にそうしに行っています。そこはご安心ください。
また、断末魔の声の持ち主及び、阿加井さん宅の妙な気配の持ち主は一応悪魔だったと言う設定です。これでも孝雄流の除霊方式で昇天しています。そんな悪魔が声だけなのは彼らに霊感が無いので見えなかったのでしょう。




