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ごちゃごちゃ  作者: 池田 ヒロ
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探偵『バラ塚バラ男』

 バラの花を咥え、セットされた頭髪からは甘い匂いが漂う。その者こそ、数多の事件を解決してきた(自称)探偵――バラ塚バラ男! ニュータイプの探偵、ここに見参!

 あまりミステリー系は得意ではないので、ミステリーが好きな方は「これ、おかしいんじゃないの?」と思われるかもしれません。それでも常識に捉われず、これは新しいミステリーと思っていてください。


 バラの花を咥え、セットされた頭髪からは甘い匂いが漂う。その者こそ、数多の事件を解決してきた(自称)探偵――バラ塚バラ男! そして、その助手(ツッコミ)! 彼らは東に困り果てた子どもあれば、行って意味不明な助言をしてやり、西に頭抱えた母あれば、行ってもっと頭を抱えさせてやり、南に冤罪をかけられた人あれば、行って裁判なんて怖がらなくてもいいと言ってやり、北に大事件があれば、つまらない推理をする。


 つまり、彼らは役立たずという訳だ。それでも、どこから資金なんて出現するのかは全くの謎。助手にとっては一番の解決し難いシロモノなのである。


 さて、そんな使い物にならない彼らの下に一件の事件が舞い込んできた。すぐに来て欲しいという要望の為、助手がさっとジャケットを手にして「先生、行きますよ」と促すのだが――。


「待って。外に行くならば、髪をセットしていかないと」


 バラ男は櫛とスプレーを手にして姿鏡の前に立つのだった。花柄のどこか胡散臭そうなスーツに既に整えているであるはずの髪を更に櫛でときながら、スプレーをかけるのである。そう、彼は一々外へと赴く為には髪形を一から整え直さなければ、行こうとしない面倒臭い上司なのである。これに助手はまたか、と唇を尖らせながらも「あの」とセットより依頼を優先するように言うのだった。


「先生、依頼主がお待ちになっていますよ」


「うん、知ってる。だけどもさ、ちょっと待ってよ。こう、数本の髪が髪の束の列から抜け出しているからさ。その指示中」


「いや、そんなのどうでもいいでしょ。外に出れば、どうせ髪なんて乱れますよ。ほら、今日は風が強いみたいですし」


 そう言う助手の言葉にバラ男は窓の外を見た。ここから見える街路樹の葉が激しく横になびいているではないか。更に歩道を歩いているサラリーマンも向かい風だからか、歩き難そうである。外の状況を見た彼は怪訝そうな面持ちをしながら――「明日にしてもらえるように電話してくれる?」何ともやる気のない探偵だこと。


「この風じゃあ、私のすんばらしい髪形が崩れてしまうわ」


「いや、すんばらしいのは結構ですけど、依頼主は急いできてくれとおっしゃっているんですけど」


「いやいや、それでも私の髪の方が大事……」


「客の依頼より、自身の髪を選ぶんですか? そんな探偵なんて聞いたことありませんよ」


 屁理屈はいい。助手はセット途中のバラ男を強引に引きずるようにして、外へと連れ出した。雑居ビルの出入り口へと足を踏み入れた途端に風は二人を襲ってくるのだ。ごうごうざわざわと街路樹は騒いでいる。一方で「わぁああ!? 私のすんばらしい髪がぁあ!?」と彼の方も騒いでいた。うるさいし、結構入り口付近では響いているようだ。


「先生、うるさいですよ」


「何を!? ワトソン君! 私のこの髪形をセットするのにどれほどまでの時間をかけたと思っているんだ!」


「いや、もうそういうのいいんで――つーか、僕ワトソンじゃないですよ。思いっきり日本人顔しているし」


「ぐぬぬ……! 融通の利かない助手め……!」


「それはあなたでしょ。ほら、こんなところでくだらない茶番をしないで現場に行きますよ」


 こうして、ワトソン――失敬、助手はバラ男を外へと連れ出すのだった。彼は不満を垂れながらも、現場へと足を進める。


 風が強いせいなのか、歩道に均等にして並べられた木たちは葉っぱを落としていく。その葉っぱたちは嫌がらせが如く(実際はそうではない)、バラ男の頭の上へとひらひらと舞い落ちてくるのだった。彼は鬱陶しそうに「ああ、もう!」と頭をかばっているではないか。


「私のこのすんばらしい髪の上に乗ろうなんざ、百億年早いんだよっ!」


「……先生、葉っぱたちは故意的に先生の頭の上に乗ろうとしている訳ではありませんよ」


 こういうの、自分が言わないと、誰も言わないだろうな。助手が呆れながらもそう言うと、バラ男はどこか神妙な面持ちを見せてきた。


「ワトソン君」


「僕、ワトソンじゃないです」


「じゃあ、明智君」


「先生、ここは現実です。推理小説から離れてください」


 などと無駄なやり取りをし終えて、彼は小さく咳払いをした。


「先程、君は『故意的』という言葉を使ったね?」


 そう言われて、助手は「ええ、はい」と頷いた。物の数分前に発言した自分の言動をさっぱり忘れることはないはず。それが故の是認である。


「『故意的』というのは『わざと』という意味合いでもある。そして、その同音異字である『恋』こちら――本当は元々が一緒の言葉だったのではないか、と私は推測するよ!」


「はあ……激しくどうでもいいですけど、何かしら意味があるんですか?」


「私は『恋』とは『わざと』であると読んだ。その意味としては先程君が言ったように葉っぱたちは私に故意的に頭の上に乗ろうとしたと言っているね? 即ちだ」


「先生、一分しか経っていないのに、僕が言ったことと正反対になっていますよ」


 それでもバラ男は話を続ける。違うと言っているのにだ。


「つまり、葉っぱたちは『故意』イコール『恋』的に私の頭の上に乗ろうとしていたんだ! どうだい、このすんばらしい私の推理は!!」


 実にくだらない、そう助手は殴ろうとする右手を抑えながら「そうですか」と相槌を打つだけだった。これの相手をまだまだしていなければならないとなると、精神的にくるのも事実。ああ、早く現場に着かないだろうか。なんて彼は必死に風から頭を守っているバラ男をぼんやりと見ながら歩を進めるのである。


 面倒臭いギザ男の相手を軽くあしらいながら、現場へと到着した。既に近くの警察署の刑事たちも来ているようで、彼らは忙しそうである。


「ふぅむ、警察が来ているとなると、相当な事件のようですね。まるで見た目は子供、頭脳は大人な彼と同じ状況――はっ!? ということはですよ……ワトソン君!」


「いい加減、僕の名前を覚えたらどうなんです?」


「この現状に乗りかかって、私たちは一躍有名な探偵になれますよ!」


「いや、意味が解らないですし。それよりも、ほら――依頼主の人を放置する探偵がこの世の中でどこにいますか」


 このまま放置しておくと、自分は有名な探偵だとほらを吹きそうだし、何より便利そうな道具の開発をやりそう。ただ、彼の場合は小中高と共に図工や美術に関してのセンスは破滅的な為、途中で挫折しそうなのが目に見えている。それだからこそ、助手は軌道修正をするかのようにして、バラ男を依頼主の前に連れてきた。


「先生、今回の依頼主である道影さんです」


「いやはや、どうも! すんばらしい私! すんばらしい私立探偵のバラ塚バラ男と申します! 以後、お見知りおきを!」


 バラ男はそう言って、どこから出した? 一輪の赤色のバラの花を取り出した。もちろん、棘はきっちり抜いている為、痛くはない。そして、もう一輪取り出して、タバコを吸うような要領でそれを口に咥えるのだった。


「さあ、道影さん! このすんばらしい私がお話を聞きましょう!」


「……は、はぁ」


 きっと、おそらくではあるが、この道影という女性はバラ男のことを濃い人物だと思っているに違いない。助手はそう断言できた。というか、断言しても良いのかもしれない。ていうか、させてくれ。どう考えても、彼はこの場で一番似合わない人物なのだから。


 道影はぽつりぽつりと状況を説明してくれた。


 今回、バラ男たちに依頼したのは自宅で自身の父親から譲り受けた金庫に保管していた貴金属類を盗まれてしまったから、その犯人を捜して欲しいということである。


「泥棒、ですか……?」


「可能性としては……でも、こちらの刑事さんに話をしていくと、こういう難解事件はバラ塚さんに任せた方が良いと聞くものですから」


 そう言って、彼らに紹介をした刑事が会釈をした。


「どうも、バラ塚さん。今回の推理を楽しみにしていますよ。何せ、警察でも地味にお手上げ状態なんですから」


「ははっ、いやいや。刑事さん、このすんばらしい私にお任せあれ! 何ならば、助手のワトソン君一人でも解決できる事件かもしれませんよ?」


「先生、僕に無茶を振らないでください」


「さてさて、イッツ推理ターイム!」


 助手のツッコミなんてガン無視。そんなのお構いなしという具合にバラ男は実際に破られてしまった金庫の前へと立つ。見た感じはパスワードを知った上で開けたと見られるようだ。外側にへこみ傷など一切ないのだから。


「ふぅむ、犯人はこの金庫のパスワードをご存知らしい」


「……そうなんですね。奥さん、我々警察がこちらに到着した時からこういう状態だったんですか?」


「もちろんです。でなければ、私――こうして話を広げるようにして警察の方を呼びませんよ」


「まあ、尤もですね」


「……でなければ、ですか……」


 バラ男は何かを考えるようにして、顎に手を当てる。何かに憶測が立ったようだが、果たしてこの事件を証言だけで解決するというのか。


「……道影さん、あなた――『でなければ』とおっしゃいましたよね?」


「え、ええ。それが何か?」


 正直な話、ほぼ一日中バラ男と共に過ごす助手でさえも彼の思考回路は読めないし、予測できないのである。一体、どのような推理をしたのだろうか。じっと彼へと注目が高まる。


「もしも、そうでは無かったならば、このすんばらしい私たちをお呼びしなかったと?」


「えっ? そ、そうでしょ? この金庫に入っていたものが盗まれた。盗んだ人が分からないから、知る為にあなたたちをお呼びしたんですけど?」


「では、盗んだ人が分かれば、私たちは要らないと?」


「ええ、そ、そうですが?」


「『盗む』という事件を無かったことにする気ですか?」


「は? え? いや? そ、そんなことは……。も、もちろん、『盗んだ』という事件を無かったことにはしませんよ」


「それはあなたが、ですか? それとも、見知らぬ犯人が、ですか?」


「あ、あの、言っている意味がさっぱり分からないんですが?」


 それは誰よりも助手が知っている。本気でバラ男は何を言っているのだろうか。それをこの場で口に出したくなるほど。だが、それを助手はする気にはなれない。バラ男の推理の邪魔になるから。仕事の邪魔になるから。元より、彼が事件を解決するにあたって――基本的に屁理屈で生まれた事実を突きつけていっている。そこから生まれる動揺と判断を観察して――言わば、強引さの目立つ誘導尋問でもあるのだ。


「もう一度聞きますよ。『盗まれてしまった』という事件をあなたが無かったことにする気ですか? それとも、第三者が『盗んだ』という事件を無かったことにする気ですか?」


「……いや、それを判断するのは私ですよね? 知らない――犯人の人が無かったことにするのはできませんよ」


「それは当たり前ですよ。何故ならば、この『盗まれてしまった』という事件を無かったことにするか、あったことにするのができるのは道影さんだけですし」


「…………」


「言っておきましょう、この事件は本来道影さんが金庫の中の物を『盗む』つもりだったんでしょう。だけれども、そこで第三者がそれを『盗んでしまった』。ということはですよ、道影さんがその第三者を当てつけにして奪取しようとした。違いますか?」


 何という、強引な推理。助手はそれはありえないだろう、と怪訝そうにしていたのだが――。


「……な、なんで、分かったんですか……?」


 何故か正解を出してしまう始末。これに助手は驚愕する。ほとんど屁理屈で推理をしていたというのに、答えを導きだしてしまうとは。


 道影の震えるような声にバラ男は得意げな表情を見せるのだった。


「私はこの世におけるすんばらしい私立探偵なんですよっ!」


 バラの花を咥え、セットされた頭髪からは甘い匂いが漂う。その者こそ、東に困り果てた子どもあれば、行って意味不明な助言をしてやり、西に頭抱えた母あれば、行ってもっと頭を抱えさせてやり、南に冤罪をかけられた人あれば、行って裁判なんて怖がらなくてもいいと言ってやり、北に大事件があれば、つまらない推理をする。


 その者こそ、数多の事件を解決してきた(自称)探偵――バラ塚バラ男! そして、その助手(ツッコミ)


 しかし、この事件において、肝心の金庫の中身を盗んだ犯人を見つけていないのだが。


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