04.いや、そろそろあるかなぁなんて気はしてました。なんとなく空気っていうのかな?
他愛も無い話をしながら武志君と歩いていたら、孤児院入り口に差し掛かったところに数人の女の子がたむろしていました。普段ならエロオヤジがいるはずなんだけど、顔を見ないで済むんだからまぁいいか。
たまに居ないことがあるけど、そういう時はこんな風に誰かが代理で立っている事が多いです。たま~に誰もいないこともあるけど特に誰も気にしないと思う。というか誰もいなくてもいいのにね。なんだか見張りというか、見られている感じがあまり好きではないし。
しかし女の子が道端で話し込んでいる様子は、見張りというより単にタムロしているだけにしか見えないのもアレかな。三人寄ればなんとやら。既にどうしてここにいるのか忘れているような気がします。
「あれ? 優が綺麗な服着てるなんて珍しいね~、どうしたの?」
「ほんと見たこと無いね。優がファッションに興味を持つなんて珍しい。自分の可愛さに目覚めちゃった?」
「……シ○ムラとかやめなよ。ダサ……くはないかな。優が着てるのは案外……イイ感じかも?」
「そ~ね~、なんかこう、シンプルだけど妙に可愛いのよね。あれ? ネックレス? ホントにオシャレに目覚めちゃったのかな? うん、飾り過ぎてない感がほんとにイイ感じにカワイイね」
「そ~だね~、あんまり派手っぽいのは似合わないっぽいだし。というか靴だけいつものってのが減点かな。今度安いとこ教えてあげるから見に行こうか?」
「いいね~、着替えさせて遊ばない? あたし店員さんと仲イイから絶対協力してくれるって」
「お~ナイス! じゃ今度暇見て行こうか」
「いいいやいや、落ち着いてよ! 千恵さん 恵理さん 恭子さん!」
一昨日から、夕食になると僕で遊ぼうとする3人娘達だ。何故名前を覚えているかというと、名前呼びを強要されているからだ。でないともっと凄いことされるらしい。一度ズボンを脱がされかけたのでかなり危険だと思う。今もシャツの下に隠していたネックレスを目ざとく発見されてしまったし。なんでわかるんだろう? あまり見せびらかせていいものでもない気がするので慌ててシャツの下に戻す。何か言われそうだけどこればっかりはね。難癖付けられるのも困るし。
「うん、ちゃんと覚えてるね」
「そりゃあんだけ練習させられましたから……」
「でもアタシが最初じゃないのはちょっとアレかな?」
「別に名前を呼ぶ順番を付けてるわけじゃないですよ? なんとなく左に並んでる準で呼ばせてもらっただけで」
「覚えてる順番じゃないなら別にいいわ」
なんで女の子はこんな面倒なんだろう。男の子といるほうがサバサバしてて気が楽かも。視線がこちらの飛んでこなければだけど。
「とにかく、お金無いし買い物とか無理ですから!」
とにかく無いのだ。女の子達がどうやってお金の工面をし、普段着に回しているのが非常に不可解なくらい。たぶん僕よりピンハネされる額が少ないからだとは思うけど。
「それもそ~なんだけどやっぱりなんというか、こういうのなんていうの? 使命感? みたいなものがあるのよね」
「うん、優がこんなに可愛いのを見逃してたなんてなんだか私達的にプライドが許さないのよね」
「……そういうわけで諦めて。一応男の子向けにしといてあげるから。……スカート的な意味で」
「でもなんか優なら似合いそうよね。スカート」
「ミニ?」
「当然でしょ」
「うんうん。やっぱ着慣れないスカート。しかもミニでパンツ見えないかと恥ずかしがってるのってイイよね。初々しくて」
「見せパンでもいやだって頃が一番可愛いと思うわ」
「……あんまり自分が可愛いとか自覚されてもイヤだけどね」
「ん~、優ならそんなこと無さそうだけどな~、そもそも地味地味過ぎてそこまで意識進んでないっていうか」
「でもほら、付き合う男次第でどうにでもなりそうじゃん? 優ってなんだか尽くす系な感じがするから、下手なアホに引っかかるとそれだけで人生詰みそうで」
「……そうね。でも一番マズいのが近くにいるのが……」
「ハゲが。あいつマジでやばいかんね。この年から愛人なんてやりたくないっつ~の」
「あんたんとこも来たの?」
「……そっちも?」
「というか女なら誰でもよくね?って勢いだし。実際金持ってるからね~、ここを出てもしばらく厄介になってるセンパイとかいるらしいし」
「マジか…… なんかしつこそうでヤなんだよね~、妙にネットリっていうか、じっとりっていうか、狙ってるの隠してないのがなお更イヤよね」
「でもアレマジでロリコンだからイロイロやばいらしいよ。変なクスリとか持ってるらしいし。特別なルートで手に入れてるらしいけど」
「クスリって、もしかして危ないヤツ? スピードとか」
「そういうものじゃないらしいけど、本当に凄いらしいの。前に朝早く目が覚めたときにさ、風呂場から飛鳥のヤツが出てきたことあんだけど、もうなんていうかすごかったから。前後不覚っていうの? 朦朧としてっていうか、意識がここにありませ~んって感じで。ロクに髪も乾かさずに黙って部屋に戻ってったし。その日は学校も休んでたし」
「ちょっと恵理っ! ほらほら!」
「お気に入りとか言って単に遊ばれてるだけってわかってないんだからね。あれでエロオヤジが他の子の興味を持ったりしたらどんな風に捨てられるかわかったもんじゃないし。いっそヤっってる最中にサイフでもギッって逃げたほうが将来性があるってもんよ」
「愛人は犯罪じゃないけど盗難は犯罪なのよ?」
「いいじゃないどうせエロオヤジだって真っ当に稼いだ金じゃないんだからどこにも訴えられないって。金庫とか開けられれば一番いいけどね」
「あんたそんなこと言ってるとチクるわよ?」
「いやだなぁあんなの誰も気にし……な……」
「……何よ?」
「「「あ、飛鳥! さん!」」」
後ろから姿を現した不機嫌そうな女の子は涼暮 飛鳥さん。同じく孤児院の一員だが、いわゆる「院長のお気に入り」というヤツだね。
流石にお気に入りだけあって施設内でも一目置かれた存在、というかいろんな行動が容認されている一人といえるかな。食堂で一緒に食事をすることもないし、普段から何をしてるのかよくわかっていません。
「でさ、アタシがなんだっていうの?」
「イヤですよ飛鳥さん! 単なる噂ですって噂」
「そうそう、気にするほどでもないくっだらねぇ話っすよ」
「うちらほんと、そんなこと話てる奴いるんだ~気をつけようね~って話してて」
うん、熱い手のひらクルーだとは思う。変わり身早過ぎてなんと言っていいのかわかりません。
「……あれ? 誰?」
と、なんだか視線が僕の方に向けられてる。なんだか鋭い視線が妙に怖い。
「優っすよ。ゴミみたいだったのに最近妙に可愛くなっちってどうしたんだろうって」
唐突に変わったっていうのは確かにそうなんだけど、どちらかというとほっといて欲しいなぁ。今までみたいに。でも凄い睨まれるとちょっと怖いよね。
「……って優、なにやってんのよ挨拶しなさいよ。挨拶」
「え?」
「えじゃないわよ。飛鳥さんが待ってくれてるんだから早く!」
「あ…… す、すいません、ど、どうも」
なんだかわからないけどとりあえずお辞儀。こんな風に挨拶を強要されるとは考えもしてなかったのでどう対応していいのか本気でわからない。
「……ふん。って優って男だよね? なんでそんな可愛くしちゃってんの? まぁ着てるのがシ○ムラじゃぁどうしようもないけどね。つぅかダサいし。意味わかんない。いつものボロっちぃ服着て隅っこで大人しくしてなさいよ」
ん~、碌に挨拶もしてないはずなんだけど以外に見られてたのかなぁ?
「そ、そうですね。僕もあんまりいい服とか着たこと無いので、良いのか悪いのか良くわかんなくて。やっぱいつものジャージとかの方が着慣れてていいですね。気とか使わなくて良いし」
やっぱ新品だと汚しちゃったらどうしようとかいろんなこと考えちゃうからダメだね。人間分相応の服を着るのが一番だと思う。
「でもでも、全身しま○らコーデのクセにみょうに可愛いんすよ! 靴だけダサいけどこれは今度一緒に選びに行こうって話になってまして」
「アウトレットのお店で仲のいい店員さんがいるんでちょっと協力してもらおうって話なんですよ~」
「あ、飛鳥さんもどうですか? 型崩れとかありますけどちょっとした手直しならその場で対応してもらえたりする結構いい感じのお店なんですよ?」
先ほどとはうって変わった口調になる3人娘にどういう反応をしていいか判らない。いや反応しちゃいけないんだろうか?
「……いいわ別に。変な服着てるとなんか心配されちゃうし。それじゃね」
振り返り際に一際睨まれたような感じがするけど、やっぱりこういう服着てるのが変なのかな。やっぱり普段はジャージにしとこう。
それにしても飛鳥さんは凄いなぁ。あんまり年も違わないと思うけど、妙に艶っぽいというか色っぽいというか、大人っぽいっていうのかな?
「……はぁ、ビックリした」
「ほんとマジやめてよね、アイツに目を付けられでもしたらたまんないんだから」
「ホントゴメン。しっかしキッツイ香水つけてんのね。なんだろ?」
「あそこまで強いのだと何でも一緒でしょ。学校じゃ意外に大人しいのに帰ってくるとアレだからね。何してんだか」
「ナニしてんでしょ?w」
「……そこ笑うところじゃないから」
どうやら彼女達の話は止まらないみたいだし、夢中になってる間に通してもらおう。
「あ、んじゃ行くとき声かけるから準備しといてね~」
「ブッチしようたって逃がさないかんね~」
「……大丈夫、優なら逃げないって。逃げたらどうなるかわかってんだし」
やばい、本気で怖くなってきた。
========== (飛鳥) ==========
今日、優を見かけた。
いつもの三バカにいじられてるからイジメられてるのかとも思ったが、どうやら弄られているだけらしい。あの3人にしちゃ随分珍しいことに優のことを気に入っているようだ。
昔は平然と残飯を投げつけていた相手にどういう気の変わり様なのかさっぱりだが、特にイジメとかでないならいい。目立つ出入り口付近だったし、万が一にもイジメに発展しそうだったらと見に行ってみたら取り越し苦労だったようだし。
「おぉ飛鳥か。何かあったんか?」
エロオヤジ。坂下がやってきた。どうやら自分を探していたようだ。
「あぁ、いつもの三人が玄関前で何かしてたみたいだから様子を見に行ったのよ。喧嘩でもされてたらここの評判に関わるし」
近所に悪い評判でも流されたらたまったものではない。少なくとも自分が独り立ちできるようになるくらいまでは無事でいてもらわないと困るのだ。
「飛鳥は心配性やな。多少のゴタゴタで警官呼ばれたところでなんの心配もいらんちゅうのに」
どんな賄賂を積んだのか、あるいはどんな弱みを握ればこれだけの自信を持てるのか。その秘密が知りたくて近づいているんだけど、本当に良くわからない。
院長室の机。上から二段目の鍵のかかった引き出しの中に何かありそうだというところまでつきとめたのはいいのだけど、肝心の鍵が見つからない。絶対見つけてやる。
「しかし、うちにあんな可愛い娘がおったか?」
可愛いと言われて該当するのは一人しかいない。優のことだろう。
「昨日から言ってるけど、あれ男だからね?」
最近女にしか見えない、もしかして間違ってんじゃないかと何度も確認しようかと考えてるらしい。
「っていうかナニ? 私にあんだけのことしといて更に浮気宣言? しかも私の目の前でってどういうことよ?」
文字通り体ごと全てを使ってコイツを堕としてるんだ、今更ぽっと出のヤツに持っていかれるわけにはいかない。出がらしにしてポイ捨てするまで精々利用させてもらわないと。
「ん~、男なら浮気といわんだろ。男なんぞに興味は無いがアレだけは別だ。一度裸にひん剥いて羞恥に顔を染めちょるところを見てみたいと思わんか?」
恥ずかしそうに胸と股間を手で隠し俯くしかできない優を想像してみる。確かに何かそそられるものを感じなくも無いけど、どうにかできるものでもないし。
……いやいや、そういう話じゃないから。
「いい加減にして。それともまだ足りないっていうの? もう夕食の時間なんだから程ほどにしとかないとまたイロイロいわれちゃうわよ?」
わざと首元にしなだれかかり、耳元に吐息がかかるように呟いてみせる。こうするだけで、ほら。
「……まぁそういわれてもな、お前も案外悪い気はしてないんやろ。食事なら後で用意させればええだけやろ。なんなら外に出てもいいしな」
私を逃すまいとして両腕に力を込める。いやちょっとキツイって。
「今更だけど、こんな時間から二人そろって外に出るのはちょっとあんまりだし、このまま奥でいいんじゃないの? それとも、我慢できるのかしら?」
苦しげな声にならないように注意して、それでもあえて誘うように。判り易いくらいにたどたどしく。ここまでしつこく演技してあげないとコイツ察しないからね。
「そやな、アッチなら防音もあるし問題ないやろ。女にばっかに言わせるのも悪いしな」
返事を待たずに唇が塞がれる。まるで別の生き物のように歯茎を嘗め回す舌、隙間からこぼれる唾液。恐怖にこわばりかける身体になんとか言うことをきかせ、相対するように身体をくねらせる。
実際こいつは上手いからね。最初こそかなり酷いことするもんだと思ったけど、百戦錬磨って言ってもおかしくないくらい喰ってるし。アタシの前にも当然誰かいたけど、今はあたし一人。誰か付き合ってもらおう方が色々楽なんだけど、アタシ一人に投資させるため苦労させられている。
あと半年もしないうちにあたしは自由になれるはずなんだ。卒業と同時にここを出る。その時のための資金作りとコネ作り。女一人で生きていける世界と思っちゃいないけど、こいつから絞れるだけ絞ってやれば随分楽な暮らしができるはずなのだ。
あと一息ってところで新しく目を付けられたのが、よりにもよって男の優ってのが信じられない。しかも男でもいいっていうのが尚更意味がわからない。アタシがこんだけ苦労してるってのによりにもよって男に負けそうになってる事実が更にムカつくわね。
……今のうちに優のことをなんとかしなきゃダメかしら? いやいっそのこと優を差し出せばあるいは……




