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私が初めて(したり顔でこめかみを指先でとんとんと叩く。一回、二回)この頭蓋骨でとぐろを巻いて薄笑いをしている蛇の全霊を行使し、愛しのエーファに注意の光を注いだのはある夏の晴れた木曜日、午後のことだった。私たちが眠りにつくまであと八時間を切ったくらいの時間帯。牧師館の横にも生えている楡の木がさわやかな日差しに影を作って私たちの共同部屋に薄い影を落とし込む(ありきたりで、つまらない表現。それくらいありふれた普通のなんてことのない日であったという強調。次の瞬間までは)。その時、私は格子縞のソファに座って永遠の時へ至るためのありがたい教えが記された書物を手元におき、注意深く精読していた。エーファは私の隣で同じくソファに座り、当時の私のクラスでも人気があった日本の漫画(彼女たちのクラスでは新クラスの親睦を深めるという目的で担任の教師も参加したキャンプ活動があったらしい。雨天の場合は屋内の待機になるため、その暇つぶし用に買っていたやつ)を読んで魅力的な白い喉を転がしていた(妖艶なくすくす笑いってやつだ)。この笑い方はエーファに特徴的な笑い方で当時の私はあまり好ましく思っていなかった。なにしろ品がない(今では虜になっているという意味)。問題はここからだ。彼女は一際甲高く笑った後、おもむろに身を乗り出してソファの前に配置されていたインドネシアボートウッド製のコーヒーテーブルに膝をつき、アイアンフレームの脚を軋ませながらいつの間にか準備されていたスナック菓子をひと切れつまんで淡い小豆色の唇に持っていった。それらの、だらしなくも悩ましい一連の動作はいつもの私にとっては取るに足らない些事なのだが、その時の私は何故かわからないがエーファに目をやってしまったのである(後で理解したことなのだが、これはまさしく運命的な聖霊が私の魂にはたらいたのだ。かくあるべき力)。我が愛しのアッフェルの興味深げな視線は、手探りで菓子を探している間も菓子を口元に持っていく間も手元の漫画に注がれたままだった。しかし、私の罪深い視線はすぐ傍で揺れる体操用のショートパンツをはいたエーファの腿と尻へと向かっていた。驚いたことに彼女は下着を着けていなかった(家ではだらしない私のエーファ!)。きわどい隙間から彼女の輝く肌がちらりと見えた。私の一刹那がこんなにも体感的に引き伸ばされたのは初めてのことだった。その、純粋に神のいない瞬間、私は十一人目のムーサとなったのである。この時の私の感情を書き起こすのは極めて困難を極める(言葉が混乱しているぞ!)。そういえばレスヴォス人の詩にこんなのがあったな。
彩り豊かなナントカにナントカする女神ナントカナントカよ
ナントカをナントカするゼウスの娘御、あなたに祈ります
ナントカをナントカする心を
つぶさないでください、エリカ様
どうぞ私のもとにナントカしてください
以前にもナントカの時に、私のナントカを遠くで聞いて
ナントカ造りのナントカの館を去り
ナントカしてくださったことがあるならば
ナントカがナントカに乗られるとナントカな鳥たちが
黒いナントカへと車を曳いてきた
翼を強くナントカし
ナントカからナントカをナントカナントカ……
それからというもの私は、エーファの一挙手一投足に粘着質な注意の目を向けるようになった。たとえば朝、礼拝堂の掃除と花の手入れをするために早く起きる私はエーファの愛らしい寝顔を拝謁できる権利を与えられている。こわい夢でも見ているのか彼女の睫毛は熱く光る涙でもつれていた(私は起こさないよう、涙にそっと口付けた)。寝返りをうった拍子に彼女の白地に黒のラインがはいったお気に入りのショーパンハウアー(直前に『意志と表象としての世界』を読んでいたんだ)がめくれ、薄暗い部屋の中でもその白さが目立つ細い足が根元まで露になった。たとえば食器棚の上に置かれているクッキーの入った金属製の缶箱を取ろうと背伸びして腕を上げたときに見えた透明な腋(少し汗ばんでいるか?)、薄い黄色の袖なしシャツの隙間から一瞬だけ見えた、きっと誰も口付けたことがないであろう鮮やかなピンクの幼い乳首(一緒にお風呂に入った時に見る乳首とは趣が全く違う!)。喋るときの癖なのか話の段落をつけるときに上唇を舌で舐めて濡らし、艶かしく光る唇でお喋りを続行するエーファにうっとりするウルリーケ。私のふしだらな指が不意をついて彼女の肌にふれたりすると、そのすべすべとした象牙の感触が永遠に残っているような心持ちになった(しかし、その名残は次の瞬間には跡形もなく消え去っているのだ!)。朝、昼、夜、全ての一瞬一瞬で私を無自覚に誘惑し続けるエーファだが最も私のあさましい肉体の内奥にある激しい炎を燃え立たせるのは真夜中の、月の光で青白く彩られた彼女だった。よい子の世界が寝静まるあの真夜中、隣のベッドで一糸まとわぬ裸のエーファが(繰り返すが言葉通りに受け取らないで欲しい)あどけない寝顔で静かに息をしているのだと思うと、あまりの興奮に私の青い心臓が踊り狂ってしまうのである。




