ウメボシオニギリジジィとア…リガ…トウ…そして、ダイスキ
ステファニーの学校の銃乱射事件発生から数週間経った。
勉とめぐみは、あれ以来ほとんど食事を摂れていなかった。
あの事件の犠牲者は、十五人が犠牲になった。
犯人は、警察が身柄を拘束した。
ステファニーは、あの事件で亡くなってしまった。
ステファニーの母であるシャーロットと弟であるジェームズは、激しく悲痛な思いで泣き続けた。
あれ以来勉とめぐみは、ジャクソン家に訪れていない。
めぐみと勉は、自分達が学校に行ってしまったからステファニーは亡くなってしまったと言う罪悪感に苛まれてしまっていた。
父は、勉とめぐみにどう話しかけて良いか分からず困惑していた。
めぐみは、部屋でひたすら泣き続けていた。
ステファニーのあの変わり果てた姿が目に焼き付いて離れなかった。
これからどうして生きて行けば良いのだろうか…。
めぐみは、分からないままだった…。
勉もこれからどうして良いのか…。喪失感に苦しんでいるめぐみにどう接して良いのか分からず悩んでいた。
いつのまにか日本に帰国する日の早朝になっていた。
「めぐみ、帰る準備出来たか?」
父が心配そうにめぐみの部屋をノックして聞いた。
「…うん…出来たよ…」
めぐみが元気のない抑揚のない声で言って、小さく頷いた。
「そうか。おじいちゃんはどこに?」
父が心配そうに聞いた。
「外に出て行った…」
めぐみが言った。
「そうか…早く帰って来ないとな…」
父が心配そうに言った。
「お父さん!ごめん!私のせいでステファニーを死なせてしまった!」
めぐみが顔を歪めて悲痛な叫び声を上げて父に抱きついた。
めぐみの声を押し殺した泣き声の絶叫が部屋に響き渡った。
「めぐみのせいじゃない!めぐみのせいじゃない!」
父がめぐみを強く抱きしめて強い口調で言った。
「でも!ステファニーは死んでしまって!」
めぐみが金切り声のような涙まじりの絶叫を上げた。
「大丈夫だ…。めぐみが生きていてくれて良かった…」
父が目に涙を浮かべて声を震わせて言った。
父は、罪悪感に浸るめぐみをただ慰めるしかなかった。
めぐみは、その父の思いやりに応えるしかなかった。
その頃、祖父は、父の住む家の近くの住宅街を浮遊するかのごとく歩いていた。
外の晴れ晴れとした空の下、祖父は、ゆらゆらと体を揺らしながら歩いていた。
「ワシは…一体…どうすれば…」
勉が弱々しいか細い声で呟いた。
勉の表情は、引き締まっておらず、生気を吸い取られた表情になっていた。
勉は、悔しさと怒りと悲しみが入り混じっていた。
ステファニーを助けられなかった。
自分は、犯人に銃口を向けられて恐怖で何も出来なかった。
口先ばかり偉そうに言っていたのにいざとなったら何も出来ない…。
ただの口うるさいジジィ…。ただのジジィだ…。
勉は、悔しそうに声を震わせて心の中で呟いた。
気がつくと、父の家の前に立っていた。
勉は、ちらりとステファニーの家の前に立った。
ステファニーの家は、カーテンを締め切り、不気味な静けさが漂っていた。
勉は、呆然とした様子で立ち尽くしていた。
すると、家の扉からジェームズが出てきた。
勉は、ジェームズと目が合ってしまった。
ジェームズは、祖父と目が合うと、慌てて駆け寄った。
そして、ジェームズは、祖父の手を握りしめて家の中へと入れた。
「え…」
勉は、少し困惑した様子で家の中に入った。
家の中に入ると、シャーロットが台所で何かを握っている。
勉は、シャーロットが何を握っているのかちらりと見た。
シャーロットが握っているのは、海苔が巻かれたオニギリだった。
「オニギリ…」
勉は、小さい声で呟いた。
シャーロットは、祖父にオニギリを手渡した。
勉をシャーロットから貰ったオニギリを一口食べた。
シソ味の梅肉が舌に染み渡った。
「ア…リガ…トウ」
シャーロットが片言の日本語でお礼を言った。
「すまん!すまん!すまん!」
勉は、悲痛な叫び声を上げてシャーロットを抱き締めた。
シャーロットは、顔を歪めて必死に涙を堪えていた。
ジェームズは、その様子を切ない様子で見ていた。
そして、父が家の前でタクシーを呼んだ。
帰りの空港までこのタクシーに乗って帰るのだった。
めぐみがスーツケースに荷物をまとめて悲しそうに父の家を出た。
「またいつでも来ていいからな」
父が寂しそうに言った。
「うん。お父さんも日本に来てね」
めぐみが微笑んで言った。
「ああ。いつでも来るさ。年末に帰るから」
父が微笑んで言った。
「お父さん大好き」
めぐみが父を抱き締めた。
「ああ。お父さんもめぐみが大好きだ」
父もめぐみを抱き締めた。
すると、めぐみは、ジェームズとシャーロットが祖父と一緒に笑顔で立っているのを見た。
めぐみが目を見開いて驚いてジェームズとシャーロットを見た。
ジェームズがラップに巻かれた海苔巻きオニギリをめぐみに手渡した。
めぐみは、少し困惑した様子でオニギリを手に持って見たが、直ぐにラップを向いてオニギリを口に入れた。
懐かしく優しい味のオニギリだった。
めぐみは、涙を流して、オニギリを頬張った。
「ダイスキ…」
ジェームズが笑顔で片言の日本語でめぐみに言った。
「ありがとう!大好き!」
めぐみは、目を見開いて顔を歪めてジェームズを抱きしめ溜まっていた思いが吐き出されたような絶叫を上げた。
めぐみは、ジェームズを抱きしめると、次はシャーロットを抱きしめた。
めぐみは、ジャームズとシャーロットを抱きしめると、まるで自分の罪悪感が消えてしまったような思いになっていた。
めぐみと勉は、スーツケースをタクシーのトランクに入れた。
そして、ジェームズとシャーロットに向かって何度も深々と頭を下げた。
「大好き!」
めぐみは、ジャームズとシャーロットに向かってはっきりとした声で言った。
そして、勉とめぐみは、タクシーの後部座席に乗り込んだ。
「また帰って来い!いつでも良いから!」
父が大声で励ますような声でめぐみに言った。
「うん!じゃあね!お父さん!」
めぐみは、元気が湧き上がったような減り張りのある声で言った。
祖父は、後部座席の窓を開けて、ジェームズとシャーロットの方を見た。
「ジャンクフードザアタックザジジィ!」
そう勉は、にやりと笑って大声で言った。
ジェームズとシャーロットは、笑顔で手を振って言った。
そして、タクシーは、静かに走り去った。
その時…、ふと勉は、鞄から取り出したトマトとキャベツと人参を取り出して、豪快に齧って食べるのだった。
その様子をめぐみは、くすりと笑って頷くのだった。




