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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第48話 究極の選択

 ぼくとお父さんとお母さんだけでは、大きなオルニメガロニクス(足長フクロウ)を食べきれない。

 仕方がないので、ぼくたちはオルニメガロニクスを担いで、グレイさんの元へ戻ることにした。

 戻って来たぼくたちを見て、グレイさんが不思議そうに首を(かし)げる。


『おや? シロちゃん、どうしたんだ? そんなに悲しそうな顔をして』

「グレイさん、ごめんなさいミャッ!」


 ぼくは(あやま)りながら、グレイさんの胸に飛び込んだ。


『なんだなんだ? 何かあったのか?』


 グレイさんは心配そうにぼくを()めて、(なぐ)めてくれた。

 慰められると、さらに申し訳ない気持ちが大きくなって涙が止まらなくなる。

 グレイさんの胸に顔を押し付けて、泣き続けた。


『何があったか分からないが、泣きたければ泣けば良い。泣きたい時は、いつでもオレの胸に飛び込んで来い。いくらでも、慰めてやるからな』


 グレイさんは優しい声で言い聞かせながら、ぼくを抱き締めてくれた。 

 思い切り泣いて気持ちが落ち()いたところで、ぼくは事情(じじょう)を説明する。


「オルニメガロニクスは猫の天敵(てんてき)だから、ぼくたちが(きら)いな臭いがするミャ。だから、集落(しゅうらく)の猫たちは、誰も食べられなかったミャ。ごめんなさいミャ……」


『なるほど、天敵の臭いか。それじゃ食べられないか』


 グレイさんは悲しそうな笑みを浮かべ、納得(なっとく)した様子で(うなづ)いた。

 そんなグレイさんが可哀想(かわいそう)で、ぼくは(あわ)ててお礼を言う。


「あ、でも、ぼくとお父さんとお母さんは、おなかいっぱい食べたミャ! ごちそうさまでしたミャッ!」

『シロちゃんたちは、食べてくれたのか。気を(つか)わせてしまって、すまなかった。あとは、オレが食べるよ』

「じゃあ、切るから、ちょっと待っててミャ」

『ありがとう、いつも面倒掛(めんどうか)けて悪いな』


 ぼくは、首から下げていた石のナイフを外す。

 毎回石を拾いに行って、石のナイフを作るのは面倒臭(めんどうくさ)い。

 だから、植物の(つる)で石のナイフを結んで、ネックレスのように首から下げている。

 こうしておけば、すぐに使えて便利なんだよね。


 さっそく、石のナイフでオルニメガロニクスを叩き切っていく。

 出来上がった肉の山を、グレイさんは美味しそうに食べてくれた。


 ฅ^•ω•^ฅ


 グレイさんと仲良くなってから、1ヶ月くらい()った。

 いつものように集落を出ようとしたら、長老のミケさんに呼び止められた。


「シロちゃん、サバトラさん、シロブチさん、ちょっとお話しがあるにゃ」

 

 ミケさんにしては珍しく、少し(けわ)しい顔をしている。


「もう、トマークトゥスと会うのは、止めるにゃ」

「え? なんで、グレイさんと会っちゃダメなんですミャ?」

「前にも話したはずにゃ。トマークトゥスとワシらは、()うものと喰われるものにゃ。本当なら、仲良くなれるはずがないにゃ」

「どうして、グレイさんと仲良くしちゃダメなんですミャ?」

「シロちゃんたちにトマークトゥスの臭いが付いて、集落の猫たちもイヤがっているにゃ」


 なるほど、トマークトゥスの臭いか。

 自分の臭いを嗅いでみると、確かにグレイさんの臭いがする。

 グレイさんに抱き締められて、舐められることが多いから、臭いが移っちゃったんだ。


 動物は、だいたい獣臭い。

 猫はこまめに毛づくろいをして日向(ひなた)ぼっこするから、お日(ひさま)の良い(にお)いがする。

 ぼくも、毎日の毛づくろいを()かしていないんだけどね。


 そういえば最近、集落の猫たちと全然お話しをしていない気がする。

 以前はみんな、気軽に声を()けてくれていたのに。 

 ぼくはただ、グレイさんと仲良くしたいだけなのに。


「トマークトゥスと仲良くするのをやめるか、トマークトゥスと一緒にこの集落を出て行くか、どちらか選ぶにゃ」


 ミケさんは冷たく、そう言い(はな)った。

 そんな悲しい選択、ぼくには選べないよ。

 集落の猫たちもグレイさんも、どちらも大切なのに。


 どうして、どちらかしか選べないんだ。

 なんで、今のままじゃダメなんだ。

 お父さんとお母さんは、ぼくの答えをじっと待っていた。


「どちらを選ぶか、少し考えさせてもらえませんミャ? グレイさんとも、相談しますミャ」

「分かったにゃ。待っているから、ゆっくり考えてにゃ」


 ミケさんは(あき)れた顔でそう言って、ぼくから(はな)れていった。


 ぼくの体に移ったグレイさんの臭いを消すことは、難しいことじゃない。

 しっかり毛づくろいをして日向ぼっこすれば、お日様の殺菌効果で臭いは消える。

 だけど、ミケさんが言いたいことは臭いだけじゃない。


 集落の猫たちは産まれた頃から、ずっと一緒に暮らしてきた家族。

 グレイさんは、最近出来たばかりのお友達。

 普通に考えたら、集落の猫たちを選ぶべきだ。


 イチモツの集落は、ぼくの大好きな故郷(こきょう)

 旅をしている間も、集落のことばかり考えていた。

 グレイさんを選んだら、もう二度と集落へ戻れなくなってしまう。

 イチモツの集落から、離れることなんて出来ない。


 だけど、グレイさんはどうなるの?

 ()れから追い出されて、ぼくも友達をやめちゃったらグレイさんはまたひとりぼっちになってしまう。

 ぼくが「友達をやめたい」って言えば、グレイさんは優しいからきっと受け入れてくれると思う。


 集落を離れたくないし、かといってグレイさんとも離れたくないし……。

 同じ考えが、頭の中でグルグル回っている。

 ぼくひとりで(なや)んでいても、何も決められない。

 もともとグレイさんに会いに行くつもりだったし、グレイさんにも相談してみよう。


 ฅ^•ω•^ฅ


「グレイさん!」

『シロちゃん、来てくれたか! シロちゃんが来てくれるのを、ずっと待っていたぞっ!』

 

 グレイさんは(うれ)しそうに笑って、しっぽもブンブン振る。

 ぼくを抱き締めて、顔をペロペロ舐めてくれる。

 全身で「大好きっ!」って態度(たいど)を取られると、ぼくも嬉しい。

 大好きなのに、なんでお別れしなくちゃいけないんだろう?


「グレイさん、大事なお話しがあるんだけど聞いてくれるかミャ?」

『もちろん。シロちゃんのお話しなら、なんでも聞くぞ』

「グレイさんは、群れから追い出された時、悲しかったミャ?」

『そりゃ、とても悲しかったさ。群れは仲間であり、家族だからな』

「実はぼくも、集落から追い出されそうなんだミャ」

『何故だっ? シロちゃんはこんなにも可愛くて、とっても良い子じゃないかっ! なのにどうして、追い出されなくちゃいけないんだっ?』


 グレイさんは、自分のことのように怒ってくれた。

 やっぱり、「友達をやめる」なんて言えない。


『そうだ! 集落を追い出されたら、オレと一緒に来い! ふたりで、新しい縄張(なわば)りを探そうっ! ふたりなら、きっとどんな困難も乗り越えられる! シロちゃんは、オレが絶対守るから安心してついて来てくれっ!』


 グレイさんはしっぽをブンブン振りながら、興奮した口調で言った。

 うわぁ~……、そう来たかぁ。

 グレイさんなら、そう言う気がしていたけど。

 だって、グレイさんは、ぼくのことがめちゃくちゃ大好きだから。


『シロちゃんがいてくれれば充分』と、言っていたし。

 例え世界の全てを敵に回しても、ぼくだけは守ってくれそう。

 気持ちは嬉しいけど、愛が重すぎるんだよなぁ。

  

 だけどそれじゃ、お互いの為にならない。

 ぼくはグレイさんを選んだら、集落から追い出される。

 グレイさんはぼくと一緒にいたら、(つがい)も群れも作ることが出来ない。


 やっぱりぼくたちは、一緒にいちゃダメなんだ。

 言いたくないけど、言わなくちゃ。

 心の底から申し訳ないと思いながら、お断りする。


「グレイさん、ごめんなさいミャ。ぼくは、グレイさんと一緒に行けないミャ」

『何故だっ? オレたちは、愛し合っているじゃないか! 愛し合うもの同士、一緒にいるべきだっ!』

「ぼくは、集落から離れたくないミャ」

『じゃあ、オレもここにいる!』

「グレイさんがいたら、ぼくは集落から追い出されちゃうミャ!」

『何? シロちゃんが集落から追い出される理由は、オレのせいなのか?』

「そうミャ……」

『そうか、オレのせいなのか……』


 グレイさんは、悲しそうな目でぼくを見つめる。


『オレは、オレのせいでシロちゃんを悲しませたくない。オレがいなくなれば、シロちゃんは集落から追い出されなくて済むんだな?』

「そうミャ」

『ならば、オレが身を引こう。オレのせいで、迷惑を掛けて悪かった。短い間だったけど、猫のお友達が出来てとても幸せだった。本当に、今までありがとう』


 グレイさんはそう言って、優しく笑った。

 グレイさんとは、これでお別れなんだ。

 ここでお別れしたら、きっともう二度と会えないに違いない。


「グレイさん、お別れしたくないミャッ!」

『オレだって、本当は別れたくないっ! だがこれはきっと、愛し合うオレたちに()せられた試練(しれん)なんだっ!』


 ぼくは最後に、グレイさんにギュッと強く抱き着いて泣いた。

 グレイさんもボロボロと大粒(おおつぶ)の涙を流しながら、ぼくを抱き返してくれた。

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