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幸せは、その手の中に  作者: 散華にゃんにゃん
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行間 平和を望んだ少女 10

 リルは戦慄した。

 村を滅ぼした白い化け物がまだ複数いた事と、それがおとぎ話に聞いた『天使』であるという事に。


「ルミアちゃん! あんなの天使なんかじゃ無い! わたし達の村を壊して、みんな殺して! ルミアちゃんのお父さんとお母さんだって……!」

 リルの叫びは、ルミアには届かない。

「お姉ちゃん……。天使様が怒ってるよ? そんな事言うお姉ちゃんも、ナタンとアレットおばあちゃんみたいにわたしが連れてってあげるよ」


「……どういう事?」

 リルの質問に対して、ルミアは自らのお腹をさする。

「二人とも天使様の御加護を受けたのに、力の入れ物にしかならなかったみたいだから、わたしが全部貰っちゃったよ」

 ルミアは邪悪な笑みを浮かべる。

 対して、リルは言葉を失った。

 ルミアはもう、人間を辞めてしまった。


「お姉ちゃんも、わたしの一部にしてあげるね」

 ルミアはそう告げると、右手を挙げた。

 ビキビキ! と、ルミアの右腕に赤い亀裂が走ったかと思うと、次の瞬間にはルミアの肘から掌にかけてが、巨大な剣に変化していた。2メートルを超えるであろう細長い大剣が月の光を反射して輝く。

「お姉ちゃん。大人しくしててね」


 ルミアが大地を蹴り、リルに斬りかかる。

 リルは振り回されるルミアの剣を避け続けた。反撃はせず、右に、左に、上に、後ろに、巧みに躱す。

「ルミアちゃん! こんな事やめて!」

「あはははははははははは! お姉ちゃんすごいすごい! でも……、めんどくさいなぁ……」

 ルミアがリルの方へ左手を向ける。

 ズシン! と、リルの両足が地面に埋もれる。まるで、リルの体重が何倍も重くなったように。

「うっ……くぅ……」

 リルは堪らず両手と膝をつき、身体を支える。

「つーかまーえたー」

 ルミアがゆっくりとリルに近づく。

「リルお姉ちゃん……残念だよ。折角、御加護を受けてこの力を手に入れたのに……」


 リルは必死に耐えながら考える。

 ルミアの言う『御加護』とは?

 自分達四人に共通するのは、あの赤い結晶が落ちてきた時、すぐ近くにいた事くらいだ。

 では、なぜリルは人間のままで、ルミアはヒトで無くなったのか。


 ルミアの剣が、リルの喉元に向けられた。

「お姉ちゃん知ってる? この力を使えば願い事が叶うんだよ?」

「な……に……を……」

 ルミアが赤い結晶を見つめる。

「わたしね、御加護を受けて目覚めた後、天使様を見て思ったの。『わたしも天使になりたい』って! そうしたら、この世界を丸ごと消しちゃうための力を少し分けてもらえたんだよ」


 リルも感じていた、赤い結晶の持つ巨大な力。

 それが、リル達を不思議な力に目覚めさせ、ルミアの心と体を変えてしまった。

 そして、この世界を消去してしまうというのか。


 あの時、リルは確かに『魔女になりたい』と願っていた。

 それが原因で、リルは力を得たというのか。


「さよなら、リルお姉ちゃん」

 ルミアは無邪気な笑顔を浮かべながら剣を振りかぶる。


 このまま、友であるルミアに殺され、世界の破滅を傍観するのか。


――だったら……


 リルは想う。

――この世界に生きる人達に、こんな悲しい思いをさせたくない


 リルは祈る。

――今日ここで起きた事を知らない人達が、これからも平和に過ごせるのなら


 リルは願う。

――この世界を消してしまう赤い結晶も、みんなを殺した化け物も、ルミアちゃんを壊したこの不思議な力も、全部消し去りたい


 リルは望む。

――それが叶うんだったら


「わたしの命も、消えていい」

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