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幸せは、その手の中に  作者: 散華にゃんにゃん
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第一章 日常が終わった日 9

 白い化け物はホタルの様子を窺っているのだろうか、動かない。その隙に遊牧民達は馬に乗って、街へ避難した。

 あの化け物が生物であるかさえわからないが、先程の一撃で傷を負った様子はない。


 お互い対峙したまま時が過ぎ、西部劇の決闘シーンのような張りつめた空気が漂う。


 先に動いたのは、白い化け物。


 ズンッ、という踏切で大地を揺らしながら空高く跳躍、ホタルを叩き潰そうと空中で拳を握る。対するホタルは、左手を掲げ、それを受け止めようと指を開き構えた。


 衝突。


 避難したオユンタナ達にも聞こえたであろう爆音。そして、ホタルの右足を中心に辺り数mの地面が凹んだ。

 刹那、空中に静止した化け物の頭部を右拳で狙うホタル。しかし、突如化け物から生じた衝撃波によって逆に吹き飛ばされてしまった。


「うわっ!」

 強靭な肉体を得ようと、中身は元々運動音痴の雨塚 光である。喧嘩をしたこともなければ、受け身なんて素人以下だ。

 ホタルは何回か転がりながら、うつ伏せになりながら停止。すぐさま相手を見据える。


「今、あいつの体から何かが放出された?」


 凝視すると、白い化け物の体が白い湯気のようなものに包まれているのが見えた。


「汗が蒸発してるわけじゃ、ないよね」

 時刻は夕暮れ前。真夏ではあるが昼夜の温度差が激しいモンゴルでは涼しさすら感じる時間だ。少し動いたとしても、汗をかく程ではないだろう。そもそも、あの化け物が汗をかくのかはわからないが。

 そこまで考え、腕を付いて立ち上がろうとするホタルは、自らの腕にもその湯気のような膜を見た。


「これは……?」

 腕の動きを阻害するでもなく、温度を感じるわけでもなく、ごく自然に纏わりつくその白い湯気には嫌な感じがいない。よくよく見れば、ホタルの全身を包んでいることに気付いた。よくある漫画の表現を用いれば『オーラ』と言うのが妥当か。


「あいつと……同じ?」

 ふと、今置かれている状況を思い出し、構えるホタル。


 しかし、白い化け物はまたこちらの様子を窺っていた。


 数秒の、膠着。


 先に動きを見せたのはまたしても白い化け物であった。しかしながら、実際に動いたのは化け物ではなく、化け物を包む白いオーラだった。

 白い化け物の背中から大量のオーラが放出され、形を成していく。


 生み出されたのは、光の翼。


 白い化け物は、その翼を羽ばたかせることなく飛び上がった。

 そして、両腕をホタルに向けた。


「なんとなく、察しがつく構えですね……」

 白い化け物の手のひらに、白いオーラが凝縮していく。やがて丸い球となり白く輝いた。


 次の瞬間、甲高い音を鳴らしながら、光の弾がホタルに向けて放たれた。


 ホタルは受け止めようとせず、全力で後ろに跳ぶ。


 ズドンッ、光の弾が着弾し、爆発した。迸る閃光。直撃はしなかったものの、ホタルは光の中に消えた。莫大な量の土埃が舞う。小さな野球場くらいの面積が吹き飛んだだろうか、装甲車であってもその衝撃に耐えられはしないだろう。


 だが、


「なるほどなるほど」


 砂の雲の中から声がする。


「この白いオーラが、あなたと私の力の源なんだね」


 どこか、楽しそうな声色。


「ご教授して頂いてありがとうございます」


 ホタルを中心に砂が晴れる。姿を現したホタルの右手には光の槍が握られていた。


「この力がなんなのかが解らなくても、想像さえできれば」


 白いオーラから生み出したのは『やり投げ』で使うようなシンプルな形態。


「扱える!」


 ホタルは白い化け物に向けてその槍を投擲した。しかし、空中を自由に飛べる目標が動かずにいるわけはない。光の槍はかなりの速度であったが、白い化け物は予備動作なく避ける。


「でしょうね」


 光の槍が白い化け物の横を通過する瞬間、ホタルは化け物が避けた方向に指を曲げた。

 すると、光の槍の側面から新たな槍が枝分かれし、白い化け物の頭部を貫いた。


 頭部を爆散させた白い化け物は、光の翼を失い地表に落下した。

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