after20.気の進まぬ立案
アメリアと長月のデートから一週間が経過した。その間に何があったかと言えば、何もなかったの一言で表せられる。マジで何もしてないんだよ、あの馬鹿は。
「アメ、海に行く気はない?」
「ヤダ」
そして、私が一肌脱いでも断られる。ぶっちゃけ何で断られたのかは容易く想像ができる。ナンパがウザいんだわ。街へ散歩にいくだけで男が群がってくるんだから。
「一応言っておくけど、結構快適な海水浴だよ。去年の経験から言わせてもらえば」
「本当に?」
「ナンパ野郎が近寄ってくれば、即座に追い払ってくれる有志の存在がいるから」
護衛の皆様、今回もよろしくお願いしますと言わざるおえない。去年の面子でもそれなりに目立ってはいたのだが、今回はアメリアも同行するとなると本気でヤバいからね。
「アメは目立つからなー」
「誘蛾灯に群がる虫どもが本気でウザいのよ」
街を案内する関係で、私もアメリアと行動する日がそれなりにあった。そのどの日でもナンパをしてくる輩が絶えずやってくるのだから私でも辟易してしまう。最初は晶さん達に遠慮してもらっていたのだが、直接ガードに切り替えてもらったほど。
「海に行く面子で私の所と、長月の所を合わせるからナンパ野郎共は完全シャットアウトしてもらう予定」
「なら、行こうかな」
その一言が聞きたかった。だって、長月とのデート以降、私のスマホにはひっきりなしに長月家から催促の連絡が入ってきているのだ。次はどうする、まだ次はないのか。進展がないようなら勝手に動くぞと。
「水着はある?」
「そんなつもりで来たんじゃないから、あるわけないよ」
元々将来の予行練習で日本へやってきたのだから、海で遊ぶためのものなんて持ってきていなくて当然。買い出しに行かなければいけないけど、それを考えるだけで憂鬱になる。
「私一人だけならそんなでもないのに、何でアメが一緒だと群がってくるのか」
「それは私が超絶美少女だからじゃない?」
「言っていて恥ずかしくない?」
「あはは、めっちゃハズイ」
顔も良ければ、身体もモデル以上。長月が一目惚れするのも分かる逸材だよ。その恋愛劇に何で私が巻き込まれているのかと何でも自問したよ。これはあれだ。兄の因果だな。
「ナンパ除けで長月でも召喚するか」
「彼を? 良い人だってのは知っているけど信用はできるの?」
「朝帰りした仲じゃない」
「あれは不可抗力だって言ったじゃない。私に好意があるのは知っているけど、私をちゃんと見てくれる人じゃないと嫌よ」
アメリアはまだ長月を信用していない。友達としてなら仲良くやれる。でもそれ以上の関係はまだ考えられない。アメリアは恋愛に関して慎重派なんだよ。
「長月の想いには気付いているんだ」
「あれだけ露骨なら誰だって気付くと思うわよ。鈍いと言われる私だって気付くくらいなんだから」
だよな。アメリアと他人で露骨に反応が変わる。誰がどう見たって惚れているのが丸分かり。本人は隠しているつもりなんだろうけど。恋愛が下手くそにもほどがある。
「十二本家の人間でもくそったれな人はいるんでしょう?」
「いる。というか、去年対立した。ボッコボコにしてやったけどね」
あの兄に喧嘩を売って無事に済むはずがないのにね。でも、兄だって慣れない環境で苦戦を強いられたみたい。万全の状態だったら、本当の意味で完全勝利だっただろう。
「あの琴音がね。そういった駆け引きとか苦手そうだったのに。だって、口より先に手を出していたじゃない」
「それはアメとの喧嘩だったから。今の立場で手を先に出したら問題にしかならない」
姉が彼女と対立していたら、かなり危険な状態にまで追い込まれていたと思う。下手したら負けていたかもしれない。あの正気の姉であっても。雑な作戦ではあったが、効果的でもあったから。
「本当に昔と変わったわね、琴音は」
「色々とあったからね。いえ、色々な出会いがあったというべきかな」
兄と姉が出会い、兄が色々な伝手を作った。そこからは先は思い出を振りかえってもおかしな出来事ばかり。一年で随分とイベントを消化したと思うよ。
「それで話を戻すけど、海に行くのはOK?」
「琴音に誘われたのであれば、断る理由はないわね。そこに何かしらの狙いが無ければだけれど」
「あるにはあるけど、そこはアメの意思を尊重するよ。私だってウンザリしているんだから」
「ある意味で琴音も被害者というわけね。その時点で好感度マイナスよ」
「これは見込み薄いか」
人様頼みなのはやっぱり印象が良くないか。自分から歩み寄る努力が見られないとアメリアの信頼は得られない。このままだとリミットである夏休みに何かしらの進展は望めないかな。
「それじゃ水着を買いに行く日取りでも決めようか。もちろん、誰かしらのガードは付けるから」
「信頼できるのよね?」
「仕事はできるよ。他の部分には目を瞑っているけど」
「それはそれでどうなのよ」
一言で言えば、癖が強い。伍島さんは常識人だけど、その下の部下がね。あとは買い物に出かける日にどちらのペアが担当になっているか。瑞樹さんだったら、一波乱ありそうな気がする。
「それじゃ明日も早いから私は部屋に戻るよ」
「私はもうちょっと調べ物をしたら寝るわ」
日程はもうちょっと詰めないといけないけど、これ以上は現状で決められない。だって、私とアメリアだけの海水浴ではないのだから。他の面子とも相談しないと。だから私はあの馬鹿に通話を繋げる。
「海に行くから。そのつもりで」
『唐突過ぎるだろ!』
「五月蠅い。一週間も何の行動も起こせないヘタレに文句を言われたくない」
『……はい。すみません』
もちろん通話の相手は長月。要件だけを伝えたら怒鳴られたので、冷静に正論をぶちかましてみた。ここまで露骨に落ち込んでいる長月は珍しい。いや、最近だとよく見かけるか。
「詳しい日程とかは後で詰めるとして、お前も何人か連れてこい」
『いや、何でだよ』
「馬鹿たれ。たった三人で海水浴はないだろ。しかも女子二人に男子一人とか絶対にない」
長月のフォローばっかりやっていたら、私が楽しめないし気疲れが半端ない。私だってアメリア以外に誰かを誘うつもりではいるが、それでも女子の比率が多すぎる。だから男子を増やしてほしい。
『だが誘った友達がアメリアさんの魅力にやられてしまったら。いや、確実に好きになってしまう! それは駄目だ!』
「めんどくせー」
その懸念は大いにある。美人に耐性のない野郎ならアメリアに惚れてしまうのは仕方ない。人選に関しては長月に任せるしかないが、長月の交友関係は全く知らないな。
「弟でも連れて来いよ」
『そっちで候補はいないのか?』
「何でもかんでも私に頼むな。一つくらいは自分で行動しないと嫌われるぞ」
『それは嫌だ。絶対に嫌だ』
「あー、また苦情きそうだけど水無月を誘ってみろ。あいつほど異性に対して耐性のある奴はいない」
苦情が来るであろう対象は水無月本人と護衛の方々。そして私の胃にはストレスによるダイレクトダメージが存分にやってくるだろう。ちくしょうめ。
『水無月を呼ぶとセットであれも来るよな』
「必ず来るな。しかもこちら側に女性がいるとなれば確実に」
『トラブルになるのが目に見えないか?』
「そこは水無月に丸投げでいいだろ。あれの面倒まで見てられない」
『それはそうだな。俺はどうにかしてアメリアさんとお近づきにならないと』
ちなみにアメリアが長月をどう思っているのかは伝えるつもりはない。そこまでやるのはフェアじゃない。あくまで私は第三者としての立ち位置を目指している。
「めんどくせー」
長月が何か言っていた気がするが、聞こえないふりして通話を切った。護衛からの苦情、水無月からの苦情、あと面倒臭い二人組からの苦情とか全部私にやってくるのだ。企画しておいてなんだけど、気が重すぎる。
明けましておめでとうございます。
前回更新から丸っと一年経過です。何してたんでしょうね。
去年はほぼ体調崩しっぱなしで元気な日があまりなかったのもありますけど。
今年は元気に過ごせることを祈ります。
また来年にならないよう、もうちょっと頑張ってみます。




