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「エーレン?どうしたの?」
地下へ続く階段入口で立ち止まったエーレンを顧るノトル。
「私はここで待っています。地下の出入り口はここだけですので、彼女達が逃げ出したら私がここで止めます」
ノトルのジト目を見て、取り繕う様に続けるエーレン。
「もしも城の外に逃げられたら困りますからね」
「……分かりました。それではここをお任せします」
改めて地下への階段を下りるノトル。
エーレンは本物のヘタレかも知れない。
バンパイヤのクセに人間の少女にビビっている。
ああ、だから吸血出来ないのか。
そして自分がここに居る訳だ。
何だかんだと言い訳を考えているみたいだが、要するに意気地が無いから日常と違う事をしたくないんだろう。
料理をした事が無い人が魚を捌くのを怖がるみたいに。
まぁ、彼が普通に血を吸うバンパイヤだったらノトルはすでに死んでいるだろうし、多くの被害者も出るだろうから、それはそのままで良いか。
彼の父には悪いが、彼の尻を叩くのは止めておこう。
そして辿り着く地下牢前の廊下。
地下は狭い牢がふたつ有るだけなので、そんなには広くない。
だからノトルを睨み付けている黒髪ポニーテールの女の子とすぐに目が合った。
「わ、私達をどうするつもりなの!」
ポニーテール少女は気丈に言っているが、声の震えは抑えられていない。
牢の奥を見ると、三人の少女が固まって毛布を被っている。
ノトルに風邪を引かせた事を反省したエーレンが用意したのか。
「大丈夫、私も人間よ。貴女達には何もしない。安心して。ここは寒いでしょう?暖炉の有る部屋に案内するから、大人しく私に付いて来て」
牢の鍵を外すノトル。
金臭い音を立てて鉄格子の扉が開く。
「でも、逃げちゃダメだよ?逃げたら命の保証は無いからね」
右の前髪が長いノトルを睨みながら牢から出るポニーテール少女。
当然だが、思いっ切り警戒している。
「貴女は一体、あ!」
少女の手を包む様に握るノトル。
「ああ、こんなに冷たくなって……。早く温まらないと風邪を引いちゃう。奥の子達も呼んで。食事を用意するから。さぁ!」
「は、はい」
ノトルの押しの強さに顎を引くポニーテール少女。
変な髪形をしている少女の意図が分からない。
親切な態度を見せているが、裏が有るかも知れない。
なにせここは誘拐された末に連れて来られた場所なのだから。
そんな所に居る人間が信用出来る理屈は無い。
だが、ここは大人しく従った方が良いだろう。
牢の中で身体を冷やし続けても、絶対に事態は好転しない。
そう判断したポニーテール少女は、まだ怯えている姉妹達を手招きした。




