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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十三章
122/122

13-1

久々投稿。


 ◆


 東方を中心に活動する〈オリンポス騎士団〉がギルドホームを構える街に多くのPL達が集まっていた。最大規模のギルドが拠点にしている街だけあって元々PLの数は多いが、今日ばかりは尋常では無い数が街中を彷徨いている。

 何より目立つのは他ギルドの姿だ。別段何も悪い事は無いのだが、縄張り意識と言うべきか大きなギルドほど他所のギルドが拠点を構える街に入らたがらない。個人単位ではそんな事は無いのだが、同ギルドメンバーで集まるとそういう意識が強まってしまう。

 現に街の一角では微妙な空気が生じていた。

 とある大通り、白と青を基調とした武装を纏う〈オリンポス騎士団〉のギルドメンバー達と黒と赤を基調とした〈イルミナート〉のギルドメンバー達が同じ場所に居合わせた。

 偶然の会合であった。どちらも平団員クラス。街を歩いていたら互いに反対方向からやって来て、気付いた時には微妙な距離にいて思わず足を止めてしまった。

 それがいけなかった。そのまま通り過ぎれば良かったのにお互い足を止めて対峙する形となってしまい、動くに動けなくなってしまったのだ。

 別段、仲が悪い訳では無い。ただ属している組織が違うだけである。要は幾つかの不運と間の悪さが微妙な空気を作り出してしまったのだ。

 平団員達の顔もどうしようかと微妙な表情を作っており、周囲では二つのギルドの突発的な事故に興味深々と野次馬根性を発揮するPL達が集まって来る始末だった。

 当人達を無視して無意味な緊張感が場を満たす。先頭に立つ団員達の心情は推して知るべし。

「浪漫武器ー、浪漫武器はいらんかねー?」

 しかしそんな空気も馬鹿の前では無意味であった。

 ギルド〈ユンクティオ〉所属PLであるクウガが武器を入れた木箱を担いで目の前を通過して行った。

「武器はーいらんかねー。強くてカッコいい武器だよー。これで相手を倒せば女の子が黄色い悲鳴を上げるのは間違いなし!」

かと思いきや戻ってきて、二つのグループの間を行ったり来たりしながら両陣営をチラ見して来る。どうやら空気が読めないのではなく、読んだ上で買って使えとアピールしているようだった。

「何をしている」

 思わず〈オリンポス騎士団〉のメンバーの一人がクウガの胸倉を掴んだ。

「何って、商売」

「それはいいんだが、もうちょっと雰囲気大事にしろよ。いや、ある意味助かったんだがな。それでも思う所はある訳だよ」

「バッカ野郎! 沢山のプレイヤーがこのタイミングは自作武器を広める絶好の機会! 風情も風船も無いもんねーッ! という訳で買わんかね?」

「いや、そんな使い辛い上に意味の分からんネタ装備なんて要らん」

「かーっ、これだよ! それでも使って勝つのがロマンだろうがチクショウ!」

 作った本人も武器の使い辛さを自覚しているのか途中から自棄気味に叫び始める。

 ――もうこいつ無視しようかな、とプレイヤーが思い始めた時、再び第三者が間に入ってきた。正確に言うなら虎が割って入った。

 大きな虎のいきなりの登場に二つのギルドのメンバー達が反射的に距離を取る。

「邪魔」

 逃げ遅れたクウガを蹴り転がして踏み越えていく虎の背には十代前半の少女モモが跨っていた。

 虎はモモを背に乗せるだけでなく、屋台まで引っ張っている。

「ラシエム印の饅頭、ミニピザ、回復薬はいりませんかー?」

「ませんかー?」

「せんかー」

 屋台の中ではラシエムの保護施設で保護されている子供達が売り子をしていた。

 緊急時な上にアウェーであろうと構わず平常運転な〈ユンクティオ〉とラシエムの街の住人達。特に後者は子供達。しかも働いているのでロマンと言う名のネタ武器を押し売ろうとしているクウガと違って怒るに怒れない。

 睨み合っていた筈の二つのギルドの平団員達は互いに白けた顔を見合わせると、何事も無く互いに通り過ぎてそのまま去って行くのだった。


 さて、街では一部の馬鹿マイペースな連中のせいで騒がしかったり沈痛な面持ちになったりする一方で真面目な場所もあるにはあった。

 そこは〈オリンポス騎士団〉ギルドホーム内に設けられた会議室だ。現在、そこには四大ギルドをはじめ前線の主だったギルドの長達が集まっていた。他にもそれぞれの国家から救助という形でエノクオンラインにログインした対サイバーテロ課などの人員であるキリタニ達、そして物資面でPLを援助するゴールドの姿もある。

「大怪獣接近なう。ここはやはり幾多の怪獣に襲われながらも沈まない日本の皆様に押し付け――うぉっほん、任せるのが一番だと思う。いやー、残念だなぁ。宇宙人やゾンビだったなウチの出番なのになー、いやぁ、本当に残念だなー」

「無視して確認を取るが、回復アイテムの方はどうなっている?」

 ジョークなのか本気なのか、ゴールドが会議室の中央で空気読まず発言した言葉を無視し、〈オリンポス騎士団〉のギルド長であるアレスがゴールドに確認を取る。

「いつでも行えるように準備だけは常に。少なくともここにいるギルド全員に渡せる程度は。ただ、流石に魔王二体を同時に相手するとは思っていなかったから、魔王一戦時の量しか無い。まあ、幸いにも今回は防衛戦だ。職人をこっちに移動させて作り続けさせている」

「私の傘下の職人ギルドもこっちに向かって来ている。数はゴールドに負けるが質は整う筈だ」

 ここにエノクオンラインの主だったプレイヤー達が集められたのは先日動き出したかと思ったら合体した二つの魔王城についてだ。

 合体した金と木の二つの魔王城は全く新しいダンジョンとなっている。おそらく、二つの勢力に属するモンスター達も闊歩しているだろうし、魔王も二体いる。

 そこまでなら特に問題は無かった。せっかく調べた魔王城のマップは意味がなくなりはしたものの、また調べれば良いだけの話だ。モンスターや魔王の数が二体になったのは確かに脅威だが、そのぐらいの困難は今までエノクオンラインで戦い続けてきたPL達にとっては慣れた物であった。

 ここで問題となるのは合体した魔王城が周囲の樹海と共に移動していると言う事だ。

 東の果てに近い場所で合流した魔王城はそこから西へ向かって真っ直ぐに移動し始めた。その進行上にあるダンジョンや街を呑み込みながら進んでおり、このまま行けば〈オリンポス騎士団〉の拠点があるこの街にもいずれ到着する。

 逃げるという手は打てない。何故なら――

「アモンの時もそうだったが大規模な軍行動を行う魔王軍は中央、始まりの街に向かって行く傾向がある。どういう意図があるのか不明だが、スタート地点である始まりの街が抑えられれば何かしら良くない事が起きるのは確かだろう」

 レーヴェが卓上に置かれた地図を指差し魔王城の進行予想ルートをなぞる。その意見にタカネが賛成するように頷いた。

「何にしてもここで迎え討つしか無いわ。ここより後ろであれに通用しそうな防壁があるのは無いもの」

「ああ、分かっている。カウンターアタックを想定してここの防備は出来る限り強化させた」

 一人だけ別ゲーをやっていると言われているゴールドと違い、アレスを含め他のPLが街を強化しようと思うと、寄付という形で街に金を下ろすしか無い。

 自分達のギルドホームならともかく街を強化する為に必要な資金は当然高いのだが、流石は最大規模のギルドだけあって強化具合は最高と言えた。そして更にギルドホームもPLの手が加わる分、信じられ無い程の改造が行われていた。それは最早要塞と言っても良く、今回の戦いも街の防壁が破られればギルドホームに立て籠もる案まである程だ。

 アレスがギルドホームだけでなく街まで強化したのは魔王撃破時のカウンターアタックやモンスターの大襲撃に対抗する為もあるが、個人的な感傷として死んだPL達の慰霊碑を破壊されたく無いからであった。

「一番の問題は森だな」

 合体した魔王城を守るようにして共に移動する森。動いているという時点でただのオブジェな訳がなく、もしかすると全てが木に擬態したモンスターの可能性の方が高い。

 正に数え切れない程の軍勢で、偵察に行ったPLの話によれば森の中から時々砲身が覗き、森の内側から外に撃ってきたという話まであった。

「一応、知り合いの少数ギルドに頼んで森を削って貰うよう頼んであるわ。気休め程度だけどね」

「火属性の魔法を中心に何とかするしかないだろう。〈ユンクティオ〉では一応アイテムも使って火を付けているけど、森が広すぎてどこまで効果があるのか。逆にこっちの素材が切れそうになってる」

「火系の攻撃アイテムの生産も急がせなければならないな。傘下ギルドが南と南西で火や雷属性の素材を集めさせているから、来た順に職人系ギルドに送ろう」

 四大ギルドのリーダー達がそれぞれ報告を行う。

「それで、防衛は暫定的にだが決まったが、攻撃はどうするつもりだ?」

 レーヴェがアレスに改めて意見を聞く。ここは〈オリンポス騎士団〉が担当する地方だ。魔王城がギルドホームのある都市に向かっている以上、アレスの顔を立てているようではあるが、余裕を崩さないレーヴェの態度は寧ろ挑発的に見える。あくまで、そう見えるだけで本人にはそんなつもりは無いのだろうが。

「……森はおそらくランダムダンジョンのようになっている筈だ。城もあんな風に合体している以上、今迄のマッピングは無駄になった。ここは少数精鋭で魔王狙いだ。今迄のやり方の後続が防衛に変わっただけだと思えばいい。一番問題はボスを倒すタイミングだ」

「ボスを倒せばプレイヤーだけでなくモンスターのレベルキャップも外れる。同時に倒さないといきなり強化されたボスと戦う羽目になる。レベル上昇の適用にタイムラグがある可能性もあるが、宛にしない方が良いだろう」

「ボスも城と同じように合体している可能性は?」

「あるだろうが楽観視は出来ない。偵察を送ろうにも危険過ぎる」

「ああ、偵察についてなんだが、キリタニ達が既に突入した。幸いまだ生きてはいるようだから、連絡待ちだ」

「行動が早過ぎる。出来るならこっちと連携して欲しかったんだが」

「いや、向こうから来ている以上、時間の猶予は無い。思い切った行動ではあるが、悪くは無い」

 対サイバーテロ課であるキリタニらが動いていた事をゴールドから聞いてアレスが不満そうに言うが、レーヴェは逆に肯定的であった。

「しかし、危険過ぎる」

「それが彼らの仕事だろう。寧ろ自分達だけで何とかしようとして相互協力をしない連中よりはまだこちらに配慮していてくれている」

「……分かった。彼らの無事を祈ろう」

「生きて貰わねば情報が得られないからな」

 レーヴェの言葉に何も言うまいと、アレスは魔王城攻略の話に戻る。

「……場合によってはボスを一体倒したら即座に撤退。ギルドホームを捨てて逃げる」

「アレスもまた思い切った方法を取るな。いいのか?」

 自らのギルドホームを放棄するというアレスの発言に聞いていた多くのプレイヤーが目を剥く。レーヴェが暗に死亡したプレイヤーの名が刻まれたオブジェについて聞けば、アレスは首を縦に振った。今生きているプレイヤーとゲーム攻略が優先という事だろう。

「よし、細かい所はそれぞれで話し合うとして、すぐに防備を整えよう」

 複数のギルドが集まっての会議はもう慣れたもので、自分達が何に備え何を担当するか分かった時点で動ける。寧ろ、代表とは言え違うギルドの長が細かく指示すれば混乱を招くだけだ。

 それをよく分かっているアレスは各ギルドの役割分担を決めると会議を解散させた。

 迫り来る脅威に立ち向かうため、生きてこの世界を脱出するために戦おうとしていた。


 ◆


「戦うとかアホか」

 俺は思わずそう呟いてしまった。

「何で私ってここにいるのかしら?」

「カッコイイカブト虫!」

 隣でレズビアンが横を向いて遠い空の向こうを見上げ、アホの子が鹿のような角を持ったカブト虫を捕まえてはしゃいでる。

「ほ、本当に着いた」

「そんな馬鹿な……」

「なにこれ。何かのスキル?」

「ダウジングか何か?」

「私にはただ適当に歩いていたようにしか見えなかった」

 後ろでは何故かシャノンの所から付いてきた正統派パーチーもいた。何か近くにいるから偵察にとか真面目な事言ってきて成り行きで一緒に行動してた訳だが、そんな彼らは目の前の物を呆然と見上げていた。

 魔王城が二つ合体して動いてるシーンなんて見ればそんな反応になるだろうよ。

「単純に辿り着けた事に驚いているだけかと思われます。棒倒しで来た訳ですから。率直に言うとアホですね」

 ロボメイドが何か言っている。

 魔王城にまで行くには一緒に移動している森……この時点で意味分からんがともかく城と共に移動するフィールドダンジョンを攻略しなければならなかった。

 ただこの森は地形が変わって蒸気のような霧みたいなのを出して方向感覚を狂わして来るなどロクでもなかった。

 事前情報の無いダンジョンを突破するのはいつもの事だが(おかげでバイクを乗り捨てて爆弾にする羽目に)、流石に考えるのが面倒なので何時ものように棒倒しで進路を決めつつ歩いていたら到着した訳だ。

「信じられん」

 目の前の事実をまだ認められないパーティーリーダーがいるようだ。

「森の迷路とクゥ様の迷走。マイナスが掛け算されてプラスになったみたいですね」

 マイナス同士を掛けたら何でプラスになるんだろうね。

「まあ、いいや。行くぞー」

 一緒に行動している義理で一声かけてから、俺は合体魔王城へと歩を進める。エノクオンライン後半戦の始まりだ。

「その前に食事にしましょう。疲労値回復をオススメします」

 締まらねえな、おい。


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