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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十二章
121/122

12-9

最近、なに読んでもSFとファンタジーの区別が付かない…………。

未来技術とかファンタジーやん。むしろスマートフォンがファンタジー。


 リュナを回収してシズネの所に戻ると散乱した武器は全て回収され、ベッドの代わりに真新しいテーブルが一つ置かれていた。

「戻ったわね」

 テーブルの上には紅茶に必要なセットと菓子が置かれており、その前でシャノンが優雅に茶を飲んでいた。ただしそれは手元だけで、椅子の上に片足を立てて座っておりヤンキーみたいである。

 リュナが菓子と紅茶に飛びつきそうだったので首根っこを掴んで止め、その二つを〈鑑定〉する。謎エネルギーを固めた粘土っぽい物と何故か紅茶の香りがするオイルっぽい謎液体であった。

「おいコラ」

「座ったらどう? 冷めてしまうわよ」

「こんな物出されてもな。食えるのはロボ系だけだろ」

「城に閉じこもってる間、暇だったから〈錬金術〉と〈料理〉、〈調合〉スキルで作ってみたのよ。どれも互いに影響してるから熟練度がうなぎ登りだったから意味はあったわ」

 料理もある意味、調合で錬金術だからな。いや、そんな事はどうでもいい。

「普通の食事を盗んできてあります」

「せめて取り繕えよ」

 シズネが普通の茶と菓子を置いたので、リュナの首を放してやる。万年餓鬼は弾丸のように走って早速貪り食い始めた。

 口の周りを汚すリュナに溜息を吐き、お子ちゃまの隣に座る。紅茶が並んでいるのに何故か俺の前には緑茶が、しかも茶道で飲みそうなあのメッチャ苦そうなあれを差し出された。

「その器は私が作ったのよ」

「真っ黒でお前の精神を表しているな」

「天目茶碗をイメージしたのだけど、クゥのように自国の文化に無関心な人間には分からないわね」

 天目茶碗が何か知らないが、馬鹿にされている事は分かった。言い返したところで無駄なのでワッフルっぽい菓子を口に入れてから緑茶を飲む。クソ甘い。クソ苦い。なんだこれ。

「ところど…………」

昨日から気になった事があったのでそれを聞いてみる。

「お前、性格変わったか?」

「変わってないわ。ただ、仮面を少し剥いで自分に正直になっただけよ。ねぇ?」

 紅茶を持っていない方の手の爪を眺めていたシャノンが不意にシズネに微笑む。

「ハッ――」

 鼻で笑ったぞ、このメイドロボ。

「こっちは素直じゃないわね。プリムラを見習ったら?」

「止めろ」

 アレは息抜きも出来ず抑えていた分の反応で明後日の方向に行っちゃった具体例だろう。シズネがあんなのになったら俺が精神的過労で死ぬ。

「殺そうとしても中々死なない癖に」

 さり気なくナイフが飛来して来た。手を合わせ眼前でそれを挟んで受け止める。俺のナイフだった。

「まだ残ってた」

「ああ、そう…………」

 話を逸らそう。今度はハンマーでも飛んで来そうだからだ。

「そういや、お前は何時まで立ってるんだ?」

「………………」

 話の転換のダシにしたのは、さっきから放心したかのようにずっと黙って突っ立っているシーラだ。というか本当にさっきから言葉も発していない。

 しかし振り返って改めて見てみるとシーラはシャノンを前にしてガチガチに固まっていた。心なしか、ほんのりと頬が赤い。

「こいつ、レズなんだ」

「ふーん」

「ち、ちょっと!」

 シャノンはどうでも良さそうに頷いたが、シーラは慌てて俺の肩を掴んで顔を近づけ、こそこそと内証話をするように小声で耳打ちしてくる。

「あの美人って、まさか〈イルミナート〉のユリア!? どうしてこんな所にいるの? アモンに殺されたって聞いたわよ」

「生まれ変わったんだろ」

「生まれ変わったって……まさか死んだプレイヤーがNPCに成るって言うあれ。そうだとしてもどうしてクゥが彼女といるのよ? グランドクエストのキーキャラは妹の方だって――」

 喧しかったシーラが急に口を閉じたかと思うと、より顔を近づけて人を嗅ぎ始めた。

「………………」

 そして無言で俺から離れると侮蔑を充満して圧縮させた視線で見下ろしてきた。あっ、これは娼館帰りの〈ユンクティオ〉の男衆を見つけた女衆がする目だ。

 シーラはわざわざ反対側に回り込んでリュナの隣に座る。その目は常に俺へと向けられており、汚物を避けるような態度だった。

「もういいかしら」

「いいも何も、そもそもこの集まりってなんだっけ? ――ああ、そうそう。えっと、取り敢えず知ってる事を吐け」

 もう何から聞いたら分からないし、教える気がある物だけ言ってもらおう。シズネが録音しているし問題は無いだろう。

「そんな曖昧な事を言われてもね。まあ、先ずは全PL共通の問題、ログアウト出来ない事に関しては言えば、ゲームクリアで脱出出来るわ。正確に言うなら、全魔王の死亡か全PLの死亡のどちらかでロックは外れるわ」

「PLが全滅したら脱出もクソも無いけどな」

「私達がいるじゃない」

「…………ああ」

 住人ならNPCになったPL逹がいる。魔族NPCも個性溢れるし、魔王に至ってはやりたい放題だ。

「ち、ちょっと、それってつまり私達が全滅したらエノクオンラインが電脳空間中に広がるって事!?」

「………………」

「………………」

 俺とシャノンはゆっくりと首を動かしてシーラを見る。

「な、何よ……。その顔なんか怖いんだけど」

 俺達の反応にシーラはビビっていた。愛想が無いと良く言われる顔だが、怖いとは言われる事は少ない。

「突拍子も無い想像ね」

 シャノンの言葉にシーラは慄く。何でこいつはこんなにビビってんだよ。情緒不安定になってないか?

「でも、案外あり得るかもね」

「え?」

「有り得そうなのがな。実際、どうだ?」

「えぇ……?」

 咄嗟に口から出た言葉が意外にも高評価な事に言った本人が一番慌てている。そんなシーラを放置してシャノンにエノクオンラインが電脳世界全体を覆えるのか聞いてみる。

「専門外。貴方のお友達なら分かるでしょう」

 友達? シュウの事だろうか。アール? あいつは知らん。せいぜいが取引先だ。

「まあ、あいつが言うにはエノクオンラインは独自の電脳空間基幹を使っているとか何とか言ってたな」

 プログラムなどソフト面について俺はど素人だ。ハード面もそうだが。シュウやエイト、ゴウ、あとはミエさんなら特に詳しいだろうけど。

 ただ、イマイチ理解できないものの、アールはエノクオンラインは通常の電脳空間上に存在してはいるが同じ地点にはいないとか頭悪い事を言っていた覚えがある。

 電脳空間内はそれぞれ住所(アドレス)を持つ(サイト)で、それぞれ(ネットワーク)がかけられている世界だと想像する。そしてエノクオンラインのある島は空中にある。なんでだ。

 アールが言うにはそれこそ次元が違うらしい。

 紙に書かれた絵があるとして、それに意思もあるとする。俺達はその紙に書かれた意思ある存在を破るのも線を書き足す事も出来るが、絵の方は俺達に干渉するどころか知覚すら出来ない。

 二次元と三次元。次元が一つ違えば優位性も全く違う。次元の話とかそれこそ何それ状態だが、エノクオンラインと通常の電脳世界も似たような関係らしく、外である現実世界側の政府が何時までも助け出せないのはそのせいだと言う事だ。

「まあ、世界でも有数の天才が集まって作られたゲームなんだから、何でもありだろ」

 その何でも有りな結果である二人に目を向ける。睨み返された。

「とにかく脱出については残る四体の魔王を倒せば問題は無いわ。ただ、それぞれ思惑があるから一筋縄には行かないでしょうね」

「例えば」

「アモンの場合は魔王らしく暴れたかっただけ」

「ああ、ユリアを殺した……」

 火の魔王アモン。地の魔王アスモデウス撃破後のカウンターアタックで自ら進行して多くの犠牲者出した上で倒され、モンスター共のレベルキャップを二段階も上げやがった原因だ。

「アモンは私に切り落とされた腕を寄越したわ。それは彼自身が持つデータの一部。その中に魔王やシステムに関する情報が混じっていたのよ」

「ふうん。じゃあ、えーっと、頭脳集団(シンクタンク)の連中の情報は?」

「彼らの半分以上は既に行ったらしいわ」

「行った? どこに?」

「さあ? そこまでは私は分からない。だけど、彼らエノクオンラインにログインした上で更にそこからも消えている。アモンの記録データには詳細な場所は分からないけど、頭脳集団の半分がどこかに行ったのを見た記録があったわ」

「だから、どこかってどこだよ?」

「知らない。別世界かも」

「それは比喩かジョークか」

「少なくともジョークじゃない。現実世界では宇宙開発が進んで火星まで行く時代だけど、ある意味で宇宙なんて別世界でしょう。それと同じように、電脳空間に先があるとしたら?」

「ふうん」

「そんなの有り得ない」

 そんなものかと理解しないで納得した俺とは対象にシーラは納得していないようであった。

「どうして?」

「宇宙なら広いんだから未知の惑星とか沢山あって別世界でしょうけど、電脳空間は人間が作ったのよ。そんな未知の領域なんてある訳無いわ」

「本当に?」

 薄っすらと笑みを浮かべたシャノンに、シーラは気圧されたように押し黙る。

「さっきは中々面白い意見だったけど、今のは固定概念に塗り固まった意見ね」

「解釈の仕方の問題だろ。要は屁理屈だ」

「理屈なんて人を納得させる為の方便。結局どっちも一緒よ。シーラ、と言ったかしら? 貴女は天動説って知っている?」

「地球が宇宙の中心って言う間違った考えでしょう」

「望遠鏡など観測技術の発展で地動説が正しいとされるまで天動説が主流だった。それと同じよ。新たな観測技術によって今まで見えなかった物見えるようになる。そして新しい物には名前を付ける。人類は観測し定義付ける事で世界を広げて来た。案外、宇宙なんてビー玉ぐらいしかなくて、人が大きいと思い込んでいるから広大なのかも知れないわね」

「………………」

 シーラの顔には納得しかねるがそう言われてみればそうかも。いや、こんなのこそ屁理屈だ。言葉遊びだと苦悶する表情が浮かんでいた。

 そんな理屈こね回すような考えは頭の良い奴に任せ、さっきのように脊髄反射でテキトーな事を行っていれば良いのに。

「頭脳集団の目的ってそれなのか?」

「多分。エノクオンラインは入り口の足場でしか無いのでしょうね」

「へー」

 へーへーへー。クソどうでもいい。シーラが――理解出来てるの? と言いたげに見てくるが、知ったかぶりをと冷たい視線を送るシズネが正しく俺はまともに理解していない。

 ただ、向こうからしたらエノクオンラインの世界はついでだろうと手慰みだろうと、俺個人として満足しているので関係無い。

「向こうにはまったく未知の世界が広がっている。もしかしたら、誰も見たことの無い美しい光景があるのかも知れ無いわね」

 シャノン挑発的な笑みをこちらに向ける。ユリアの時では見せなかった蠱惑的な微笑みでもあり、何よりその口から言われる話には特に食いつく内容だった。

 ――その光景の存在を知って我慢できる?

 シャノンの笑みにはそんな言葉も隠れていた。

 不意にボイスチャットの受信を知らせる音が鳴る。音で夢から覚めたかのような感覚を味わいながらボイスチャットを開く。相手はアールだった。丁度良いと思った矢先、いきなり向こうから喧しい声が聞こえて来た。

「うっせぇ! 何なんだよ一体」

『大変だ、クゥ』

 さっきよりかは声量は減ったが、それでもやや早口のアールの声から緊急事態を悟るのは容易だった。何せ変人の巣窟として有名なラシエムで過ごす準変人なのだから一般的に言う大変な事態に慣れている。そんな奴がこれほど慌てているならそれは確かに大変な事態何だろう。

「で、何が大変なんだ?」

『魔王城が移動している!』

 ふーん、魔王城がねえ…………あれって可動式だったのか。無駄にギミックあるよな。

『それも二つ。どっちも互いに合流するような動きを見せているんだ!』

「ふーん…………は?」

 それってつまりは、魔王が二体襲って来るって事か?




 ◆


 機械仕掛けの巨大な城が歩いていた。

 底部から伸びる八つの巨大な金属の足が動き、大地を踏み鳴らしながらゆっくりと地上を移動している。荒野には地鳴りが起き、地面が揺れ、フィールドモンスター達がそれこそ災害を感知した動物の如く逃げ回る。

 鉄、排気筒、歯車、ワイヤー、発電機、ジャンク。それらで構成されごった煮とも言える協調性の無い姿をした城の足元にはこれまた無数のモンスター達が群れをなして歩いていいる。

 半壊した魔導人形、金属のゴーレム、機械仕掛けの怪物達が隊列とは決して言えない群れで、それなのに進む速度だけは正確に城と追従している。

 そして南東地方から真っ直ぐに北へと進むそれらの反対側、北東地方から南下して来る巨大な影があった。

 金属の城と比べふた回りは小さな木の城だ。巨大な木を削って作られたようなその城は地響きも何も起こさず、滑るようにして地表を移動していた。まるで海の上を進む船のように。

 それはある意味間違ってはおらず、城の周りには樹海が広がっていた。広大な森そのものが城を中心として移動しているのだ。まるで巨大な一個の生き物である城と森は逃げ遅れたモンスター達を飲み込みながら静かに地上を侵食している。

 科学を象徴する城と自然を象徴する城。

金の魔王と木の魔王が住まう城。

その二つが東の土地で合流を果たす。

鉄は迫る木々を薙ぎ倒し、城の炉へと焼べていく。

木は鉱石さえも飲み込み、水を吸い上げていく。

火が増した金の城は火山の噴火のような蒸気を発しながら形を変え、木の城を取り込んでいく。

水を得た木の城は時計の針を無理やり進めたように急成長し、金の城に絡みついて行く。

共に地の属性を持つ金と木。その二つが融合し、巨大な魔城と広大な魔境が誕生した瞬間であった。




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