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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十一章
112/122

11-10

大変お待たせしました。数ヶ月も放置していた十一章のラストを投稿。


〈獣人の血〉+ドーピングでヤク中人狼という最悪なコンボを決めた男は水路の水など関係なく、縦横無尽に壁や天井、挙句に水面を蹴って高速移動している。

 電子ドラッグはゲーム内アイテムとしての性能を言えば強化アイテムでもある。それにただでさえバイタル系のステータスが高い獣人モードが加わると正に鬼に金棒だ。

「俺は風になる! いや、風こそは俺で正に黒い疾風それなんてドリーム見てんの? いや、ドラッグやってる時点で夢見心地じゃん俺はヒィーハァーッアビャヒャヒャヒャヒャヒャッ!」

 それ以上に変態にドラッグは想像以上に喧しい。そして言葉通り風と形容して良いほどに高速移動しているのがムカつく。

 水路の壁を背にして攻められる範囲を狭くし、盾と剣で何とか防いでいるが、男の速度が速すぎて守るのが精一杯。反撃する手段がない。少しでも疎かにすればそこから切り刻まれるだろう。

 ダメージ覚悟でカウンターを見舞う方法もあるが、一撃で一発逆転出来る手段がない。あるにはあるが、薬で痛覚が鈍くなっている奴にそれだけの隙が生まれるとは考えにくい。

 正直言って、手詰まりに近かった。

「キィーヒャハハハハッハー! ほらほらどしたァ、そのまま亀のように閉じこもってるのかぁい。それなら無理やり引っ張り出してやるぜ! 俺イジメっ子、お前カメ、ウラシマ男は助けに来ないですっよォシャラオラァ!」

 訳の分からない事を喚きながら、男は天井を逆さまに走りながら腰の収納ベルトのスロットを撫でるようにして中のアイテムをバラ撒き始めた。その全てが小型や中型の多種多様な武器だった。

 武器をバラ撒く? 何の為に? …………もしかして!

「行くぜホォーウ!」

 ハイドが二本の短剣を捨てるとバラ撒いた武器を、中型武器:刀剣の一つを掴んで剣先を俺に向ける。同時に使用される突進系スキル。天井を踏み砕きこちらへと降下して来る一撃は本当にミサイルのようで、完全に回避する事は出来ずに盾で防ぐのが精一杯だった。

 それでも受けきったのだから、スキルを使用し硬直状態に陥ったハイドに反撃できる機会が生まれる。普通ならば、だが。

 スキルを発動させた直後、ハイドは剣を捨てると宙から落下していた短剣を掴んだ。

 そして再び使用されるスキル。今度は小型武器:刀剣で使用できる近くにいる対象の背後に一瞬で周り込めれる技だった。

「――オラァ!」

 読めていた行動だったので、直様振り向きざまに剣を後ろへと振り回して背後からの攻撃を防ぐ。刃同士がぶつかって暗い水路の中で火花が散るが、既にハイドの姿はそこから消えていた。

「ひゃーっはっはっはっはっはァ! よく受けたな! だがしかし、いつまで耐えられまちゅかなぁ? スキルを発動させて武器を離し、別の武器を即座に装備してスキルを使用する! 連続してこれを行えばずぅぅぅっとスキルを連続使用出来るんだぜェ! 判定がクソシビアな上に熟練度上どうしても威力低いけどな! あとメッチャ目が回ルゥッ!」

 知ってる。俺も偶にやるから。

 それにしても、案外鬱陶しい技だな。人にやられて初めて分かった。水路の壁や天井を蹴って移動しつつ武器を回収するハイドの動きは目の端でしか捉えられない。

 バラ撒いた武器などを回収と同時に使用する為に突進系などの移動攻撃なために、余計に加速して飛び跳ね回るので動きが捉えづらい。俺自身タイマンで使うので対応出来たが、初見ならば大量の武器とスキルを連続使用したにも関わらず一向に硬直が訪れない事に戸惑い反応が遅れていただろう。

 ただ、これって所詮それだけなんだよな。

「ほい、次の武器」

「おう、サンキ――」

 次にハイドが回収するであろう武器の前に俺の剣(勿論、刃先を相手に向けて)を安置すると、ハイドは素手で剣の刃をがっしりと掴んだ。

「ウエェェェェエエおおおぅい!?」

 馬鹿は奇声を上げて向こう岸の壁にぶつかり、ボールのように跳ねて水の中に落ちた。

 武器を捨て、即座に違う武器を装備する事で硬直をキャンセルしてスキルを連続使用する方法は言うほど簡単では無い。判定はシビアで、アイテムボックスから一々武器を取り出す暇もない。即座に武器を切り替える為に予め複数の系統の武器を周囲に置く必要があり、ちんたらやっていたら相手の目も慣れるので素早く動く必要がある。

 武器の位置を把握し、次の行動に繋げる為にも使用するスキルを選び、相手に邪魔されないよう高速で動かなければならない。マクロなんて組み立てる事(そもそもそんな技術が俺には無い)も出来ないので、相手を翻弄しているようで実は頭の中は処理で一杯一杯だったりしてパニックになってるのはこっちだ。

 だから、使用者の集中力の隙間を突いて邪魔してやれば簡単に崩れる。わざわざ電子ドラッグの力借りてるぐらいだから、その辺りを考慮していなかったんだろうな、こいつ。

 俺は盾を捨て、アイテムボックスから鎖付きの杭を二つ取り出して片手それぞれに持ち、同時に投げる。

「更にグサァーーーーッ!? 何すんだコノ野郎バカ野郎!」

 水から狼顔を出したハイドが喚くが、まだまだ余裕そうだ。おそらく電子ドラッグのおかげで痛みが無いのだろう。元から痛覚もあったか疑わしい奴だが。

 俺は杭と繋がった鎖の先、反対側にも付いている杭を持って今度はそれぞれを左右の壁に向かって投げる。杭はしっかりと壁に突き刺さり、その結果両腕を左右から引っ張られる形となったハイドは身動きが取れなくなった。

「じゃ、そういう事で」

「ああっ! おい、ちょっと待て! 人を貼り付けにして放置とかどんだけ鬼畜なんだテメェッ!! ってかヘルプミーヘルプミー、ヘルプ、ミーッ! いや、ホントマジゴメン。俺も仕事だった訳だし? 今までの事は水に流して助けてくれないかなァ、なんて。ほら、日本人ってサービス精神がウザイ程溢れてる人種じゃない? だからこそ手を差し伸べてくれたら嬉しいなー」

「ほらよ。達者でな」

 ハイドに向けて、毒薬瓶とモンスター引き寄せの匂い袋を投げつける。

「死ねば色々と脱出できるぞ」

「ザッケンナゴルゥアアアアァァァァァァッ!!」

 ヤク中の遠吠えを背中に聞きつつ、俺は引き寄せてくるモンスターを避けながら水路を脱出する為走り出した。


 変態の半裸を動けなくして地下水路から脱出した俺はとっとと戦場になっているこの街からおさらばする為にマップウィンドウを開いたのだが、まだ労働しないといけないらしかった。

 並列に表示させたフレンド機能でシズネ達の現在地を見てみれば、あいつらはまだ街の中にいた。

 フレンド機能のGPSだと具体的な動きは分からないが、敵と遭遇したか単純に脱出に手間取っているのか。

 何にせよ合流する必要があった俺は〈隠密〉スキルで災害から逃げる鼠の如く這うように地を走り、壁を走り、モンスター同士の戦いを脇目に一切止まることなく潜り抜けていく。

 次第に近づいていくと〈気配察知〉がモンスターやNPC以外の反応を示す。その場所を一網できる屋根の上に登り、屋根の傾斜の影に隠れて様子を伺う。

 複数の路が入り交じり中央に小さな噴水のある場所にシズネ達がいた。噴水を背にして構える彼女達の周囲には数人のPLの姿が見える。

 いつの日かシーラが男達に絡まれていた時に護衛をしていたPLの姿もあったのだが、四人ほど特に強い……というか、異色というか奇妙というか、ぶっちゃけ変なのがいた。一目で分かる半裸の変態の同類だった。

 一人は白い仮面に白い手袋、燕尾服、その上にマントを、そしてシルクハットを被った全身黒づくめキャラ作りをした魔術師風(見た目はアレだが装備している杖から判断)のPL。

 もう一人は手甲を装備したチャラい感じの金髪の男だ。あまりのチャラ男っぷりに耳と鼻を結ぶシルバーチェーンが音を鳴らすほどで、付けられるだけ付けたシルバーのアクセサリーが重そうだ。

 そして残る二人は兄弟なのか顔が似通っている。だが身長と体格が対照的で、ハンマーを装備した二メートルを超える鎧男とレイピアを持った枯れ木のように細い男だ。

 何だこの雑技団は? 狙ってやってるのか? 馬鹿なのか? 真性(マジ)なのか?

 こんな世界でもロールプレイをし続ける猛者がいる事は知っているが、人を誘拐して電子ドラッグ売り捌いてる連中がそんな事をやっているのを見ると何だかなぁ、という気持ちになってしまう。

「何だかなぁ」

 ヤベェ、本当に口にしてしまった。

「ともかく助けるか」

 魔法行使に必要な触媒アイテムを取り出す。取り敢えず幻覚見せて混乱させてから三人を回収し、脱出しよう。

 街での戦闘はストーカー魔族様側が優位に立っている。PLに危害を加えないと厳命されている彼らの方角に逃げれば何とかな--

「テメェコンニャロウゼッテェブッコロスッ!」

 変態が頭上から落ちて来て逆手に持っていた短剣を振り下ろした。チッ、無事だったか。

 前転する事で躱し、着地の直後に振り向きざまに振るわれた短剣を、前転の最中に両手で屋根をつき飛び上がる事で回避する。

 そのまま屋根から飛び降りる。

 〈気配察知〉でも寸前まで気付けなかった。ステルス系のPLってこれだから厄介だ。

「さっきはよくもやってくれやがったな! 危うくタコの餌食になるところだったじゃねェかッ! 男の触手絡みとか誰得ですか? 腐女得です。イヤァアアァァァッ!」

 相変わらず電波を発しながら男もまた屋根から飛び降りて来た。着地した俺は地面に槍を突き立てた上で後ろに跳びつつ片刃剣と短剣を取り出す。

 後ろ向きのまま着地すると、そこにはシズネ達がいる噴水前であった。

「あっぶな!? タコにも捧げなかった後ろの貞操がピンチでヤベェ! 悪質な罠ばっか仕掛けやがってこの野郎ッ!」

 宙で体を捻る事で突き立った槍を避けた男が短剣をこちらに向けて怒鳴る。

「ただいま。人がわざわざ先に行かせたのに捕まった間抜けども」

「まだ捕まってないわよ!」

 囲まれてる時点で似たようなもんだけどな。

「それならばクゥ様は半裸の変態人狼を連れてきた挙句一緒になって囲まれている訳ですが、何か言い訳は? 率直に言うと、殺しておいて下さい」

「主人にPK勧めんなよ」

「――ハッ」

 このアマ、鼻で笑いやがった……。

「こンの俺の殺陣奥義を攻略した事は褒めてやろう。だが、だがしかァし! 俺の実力はあの程度じゃすすすすぅまァバブフッ」

「少し黙っててくれ、ハイド」

 半裸狼の言葉を仮面マントが遮った(物理)。

 顎を下から杖で叩かれた人狼(ハイドというネームらしい)は舌でも噛んだか大袈裟に地面を転がり回る。普通にダメージ、しかもクリティカル入ってるんだがいいのだろうか?

「君達の噂は何度か耳にしたが、こうして会えて嬉しい限りだ」

 仲間を無視して仮面マントが前に進み出る。そんな言うほど有名になったつもりは一切無いのに人をまるで凄い人間のように言うのはやめてほしい。また馬鹿(ゴールド)に無茶振りされるだろうが。

「改めて、はじめまして。私の名は――」

 仮面マントが自己紹介しようとした時、シズネが発砲した。どうしてこのメイドは人のセリフを遮って攻撃するのか。

 シズネが撃った銃弾はしかし、仮面マントの杖に簡単に弾かれた。そしてそのまま頭を下げて仰々しく言葉を続ける。

「――ファウスト、といいます」

「厨二病乙」

「そんな名前つけて、恥ずかしくないのかしら?」

「ダサい」

 女性陣からフルボッコである。〈ユンクティオ〉の時も思ったが、エノクオンラインの世界は彼女らの心を殺伐とさせているのかもしれない。

「プギャーッハハハハハハハッ!」

 そしてハイドからも爆笑を買う。シズネ達の反応が余程受けたのか、他の連中も笑いを堪えたりしている。

「仲が良いな」

 当然、嫌味だ。

「フフッ、何と言われようと構いません」

 しかしファウストくんは堪えない。仮面のせいで顔が見えないので実際はどうだか分からない。

 そもそも、こいつら全員人の事を笑えるのだろうか。

「さて、クゥ。彼女たちにも降伏するよう言ったのだが、無視されてしまった。そちらから説得してくれないだろうか? 勿論、命は取らない。それにそこにいる無関係な射手はこのまま逃がそう」

「なっ!? いきなり何を言って--」

 シーラが文句を言おうとしたが、シズネに目配せし黙らせるよう命じるとメイドロボはシーラの口を手で押さえた。

「あいつじゃなくて俺を逃がせ! ロボとアホも置いておくから!」

 言った直後、後頭部にゴミ(調理失敗時に出来る物体X)とスライムの素(地下水路のドロップ)を投げつけられ、ついでに矢が頭に刺さる。……冗談だよ。

「……大丈夫か? 見たところダメージと毒を受けたようだが」

 敵の方が心配してくれるってどういう事なんだろうな。毒消しの薬が苦くて涙が出そうだ。

「平気だ。それで、真面目に返答するとだな--断る」

 言ったと同時にシルバーアクセサリージャラジャラな手甲の男がこっちに向かって駆け出した。判断早いな。だが、こっちだって予想していなかった訳ではない。

「動くな! これを見ろ!」

 アイテムボックスから切り札を取り出しながら叫ぶ。

 見えやすいようにアイテムを頭上に掲げる。

「そ、それは限定生産版レジェンドカード『鈴蘭の歌姫』!? 五枚しか生産されておらず、モデルとなった本人が所有する一枚を除けば四枚しか存在しない超激レア!」

「歌姫と言えばエノクオンライン内の人気歌手であり更には風の魔王の撃破ボーナスで妖精の羽まで手に入れ神秘性を増し益々ファンを増やしているアヤネの事だが、まさかそのレアカードだとぅ!?」

 なんか周りにいたPKどもが勝手に説明してくれた。手甲の男も動きを止めてカードを呆然と見上げている。やっておいて何だが、お前らミーハーだな。

 守銭奴ロボに無理やりカードパックを買わされて、ビキナーズラックで偶々引き当てた時は最高クラスのレアだと聞かされただけだったのだが、予想以上で逆に引く。俺の運、もっと別のところで本気出せよ。

「……まさか、それを寄越す代わりに見逃せとでも言うつもりか?」

 唯一まともだった仮面の男が怪訝そうな声で言ってくる。そうだ、と言ったら速攻で断ってきそうだ。まあ、これが当たり前の反応だよな。

 何となくこの包囲され緊迫した空気に耐えられずに思わずふざけた態度で出したカードだが、別にこれで見逃して貰おうとは思っていない。

「これ欲しい人ー」

「はーい!」

 言った刹那に雷が落ちてきて、落下地点から魔族の男が、ルキフグスが真っ直ぐに腕を天へと伸ばして挙手してきた。

 意味の分からん展開に、雷の爆音が建物の壁に反響する中その場は凍りついた。

 戦場となった街の中で一番高い建物の上に立って不敵に笑っていたルキフグスだが、カッコつけているように見えてその実、俺達の事には気が付いていた。地下水路から脱出して街中を走っている時に遠くからでも目が合ったから間違いない。

 そして俺がアヤネのカードを出すと露骨に反応した。まあ、まさか本当にこれで釣られるとは思わなかった。どのみち、マジックアイテムになるこのカードの効果である味方パーティーの強化と周囲への全体攻撃を使用(カードは一度使うと消滅する)するつもりだったからな。

「これやるから俺達四人を街から脱出させてくれ」

「任せるがいい。歌姫のカードの為、見事期待に応えよう」

 こいつの目、本気だよ。背後からシズネが視線で射抜いて来るが、こうでもしないとここから無事に逃げれないだろうが。自分でもどうかと思うのも確かだが。

 どんな理由にせよ、設定上魔王の息子であるこいつの登場にPK達は動揺しているようだ。例え、好きなアイドルグループのプロマイドに釣られたマフィアのようだったとしても、こいつの強さに変わりはない。

 どんなに馬鹿でも本来ならパーティーを複数用意して数の暴力戦術で倒す必要があるのが魔族なのだ。この場にいる人数では無理だろう。

「それじゃあ、頼む」

 これ以上この場にいて仕方がない。ストーカーを盾に煽る気もないので、とっとと脱出しよう。

 俺の言葉にルキフグスは鷹揚に頷きを返すと、指を鳴らす。やけに響く指パッチンの後に僅かに間を置くと、舗装された道の奥から地響きのようなものが聞こえてきた。こう、四つ足の動物の大移動的な? 教育番組で放送されたりするアレだよアレ。

 それのモンスター版がこっちに向かって来ていた。

「……おい、待――うおおおぃい!?」

 文句を言う暇も無く、俺達はモンスターの波に呑まれた。




 ◆


 小屋の中、複数のPLが屯ろしていた。

「それは大変だったな」

 椅子に座るPL、アンクは仲間からの報告を聞いて簡潔な感想を述べながら賽子を振って転がしては回収し、また振る。明らかに真面目に聞いていなかった。

「大変だった、ではないですよアンク。このままだと魔王を出し抜けない。我々は他と比べて大きく出遅れている」

 仮面を付けた男が呆れ混じりに苦言する。

 レーヴェとゴールドによって土台となれるだけのPKギルドは早々に潰され、マステマには情報を先取りされる。唯一のアドバンテージは借り物で、自分達はただの兵隊に過ぎない状況が続いている。

「エノクオンライン攻略も半分が終わり、そう時間を置かずに魔王攻略が始まる。後半戦が始まれば、なし崩し的に事態は進む。このままでもいいのですか?」

「分かっているとも。だがな、ファウスト。元からスタート位置が違うんだ。距離に差がある時点で不利なんだよ俺逹は」

「なら、どうするつもりだ?」

 ファウストの問いに仮面下から覗くアンクの口の端が釣り上がる。

「楽しめ。この世は楽しんだ者勝ちよ。真実とか宝とか、欲しいなら手にすればいいが肝心なのは楽しむ事だ。そうだろう?」

 部屋の中の誰もアンクの言葉を否定しなかった。一番理知的な言動を取るファウストでさえ、本質はそこにあるのだ。

 アンク達はロクデナシ集団である。大志も無ければ大局的な目標や夢も無い。あるのは今ある生を存分に謳歌する欲望だけ。

「俺達は盛大に賽子を転がして楽しんで、最後に出た目でまた賽子を振るうのさ」

 宙に大きく放り投げた賽子はテーブルを跳ね、床を転がり、赤い一つ目を上向きにして止まった。


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