ホームシック前編
お越し下さりありがとうございます。田舎の子が頼る親戚のいない都会で就職とかしたらこんな感じだったのかなあ
ホームシック前編
「あー兄。小松菜〜!」
「ほんとだ。大きくなってるね。
外側の葉を摘んで、煮びたしにしようか?」
「私お豆腐とが良い〜。」
「えー。ジャコと甘辛〜。」
西の山信の道場の裏手の畑は今日も賑やかだ。
母屋の縁側でその喧騒を遠くに聞き、信はいつも通り茶をすする。
勇は詩と手合わせしながら昼食の催促をする。
その気配を悟り凱が西の山を訪ねようとすれば。爽が慌てて食材を持って追いかける。
いつも通りの穏やかで賑やかな信の道場......。
雀が鳴く
「あれ?」
天井が見える。
「小松菜......。」
見慣れた王都の下宿部屋の天井だ。
(ああ、夢を見ていたのか。)
「詩も勇も居たな......。」
軽く首を振り。周は素早く身を起こし稽古着に着替えて朝の自主練に向かう。
早くしなければ、出勤の時間に予定が食い込んでしまう。
(良い夢だったな。)
神さまは意地悪だな、もっと二度寝のできる日に、してくれたら良いのに。
下宿屋一階の食堂にて
「オバさん今朝もありがとうございます。」
朝食の食器を片付けながら周が礼を言えば。置いときゃ良いよ。気にしなさんなと、厨房奥から主人の声が聞こえる。
それは申し訳ないと周が返せば、律儀な子だねとお弁当を渡してくれる。
「では 行ってきます。」
周は職場に向かった。
(いつもの縁側で、お師匠さま笑ってらしたな。今日も良い日になれば良いな。)
夢の中の信を思い出し顔が自然とニヤけてくる周だった。
「あらー。今日は一段とご機嫌ね。何かあった?」
「あ、鈴さんおはようございます。今日ね、とても良い夢を見たんです。」
「へー、周くんが喜ぶって、どんな夢?」
事務所裏の草刈りをしながら時折り思い出し笑いをする周に先輩職員の鈴が声をかけた。
鈴は比較的歳の近いこの新人と仲良くなりたいと思っていた。
入ってくる前から何かと良くない噂の多かった新人だが、いざ本人を前すると意外と純朴で可愛いのだ。
「え......?」
「え......?」
軽いノリの会話だったのに、固まる周に今度は鈴が固まった。
(どうしようかな?西の山はNGワードだし。でも、ちょっと誰かに話したいよね......。)
周はゆっくりと言葉を選びながら夢の話をする。
「へー周くん、大好きなのね。その先生が。」
「うん......好きですよ。えっと、お、じゃない先生は.......いつもお優しくて、ど、教室のみんなも、周りの大人もみんな先生が大好きなんです。」
周がどこか遠くを見るように目を細める。
「周くんはその先生に畑仕事とか教わってたの?」
「え?あ、はい。それも教わりました、他にも色々......。」
多分、剣術はダメ、兵法もダメ。あとは何か有るかな?
どこまでがセーフでどこからがアウトかわからない会話を周は慎重に言葉を選びながら、綱渡りのように紡いでゆく。
「周くんの言葉ってちょっとイントネーションが私たちと違うよね。」
「え、そうですか?自分ではあまり自覚がないかも......。」
「なんだろう。
ちょっと不思議な感じ。
どこがって言われるとよく分かんないんだけど。
あ、ちょっと爽様とかに似てる?」
鈴の何気ない返しに内心冷や汗が止まらない。
出来るなら嘘つき呼ばわりはされたくない。
それを回避するために嘘を付くのも嫌だ。
だから、慎重に、慎重に......。
結果、午前中の草刈りだけで周の精神力はガッツリと削られてしまった。
草を刈ったか自身の精神力を刈ったのか曖昧だ。
もう当分、誰とも身の上話などしたくないと思うくらいには周は疲れてしまった。
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